私たち、脱原発福島県民会議をはじめ8団体は、「避難指示解除に伴う医療・介護保険料及び医療費の減免措置見直しの撤回」および「トリチウム汚染水(ALPS 処理水)の海洋放出方針決定の撤回」を求め、4月19日に対政府交渉をもちました。
詳細は、8団体報告書(復興庁、厚労省交渉)、8団体報告書(経産省、原子力規制庁、外務省交渉)をご覧ください。
医療費等無料化措置「見直し方針」・「見直し内容」の決定を追及し、「住民の方の意見を聞くことができなかった」と認めさせ、「被災者はいわば国策の被害者であり、国が最後まで対応(2011年5月の当面の取り組み方針)」を確認させました。
今回の交渉に際して、医療費等減免措置について2021年3月の「復興基本方針」で「適切な周知期間を設けつつ、激変緩和措置を講じながら、適切な見直しを行うこと」と決定されたこと、その後新聞報道等で「見直し内容」がリークされている状況をもとに、4月6日付けで質問書を作成・提出しました。
4月8日、復興大臣が記者会見で、復興庁と厚労省が「見直し内容」を決定したことを公表し、決定は同日、全国の県や関係者に通知されました。
交渉では主に下記の2点が争点となりました。
(ⅰ)2011年5月の当面の取り組み方針において、「原子力政策は、資源の乏しい我が国が国策として進めてきたものであり、今回の原子力事故による被災者の皆さんは、いわば国策による被害者です。復興までの道のりが仮に長いものであったとしても、最後の最後まで、国が前面に立ち責任を持って対応してまいります。」とされていることを、復興庁、厚労省ともに確認させました。2020年の2度の交渉でこの件は内閣府の所管であると逃げられていたので、今回の確認を今後の交渉等に生かします。
(ⅱ)「見直し方針」の具体化である「見直し内容の決定」については、非公開で、首長のみに意見を聞き、一番の当事者である住民の声や議会の意見書(楢葉、浪江)、双葉町村会の要請(2021年12月2日)が何ら反映されていないことを追及しました。
2020年10月5日の8団体との政府交渉で、「これまでやってきた通り住民や自治体の声を聴きながら進める」と約束しておきながらそれに違反している、住民無視は民主主義とは言えない、と追及し、復興庁は「住民の声を聴くことができなかった」と認めました。
医療費等無料化は国策の被害者である住民の権利であり国の責任だ、継続せよ、との追及に、復興庁は「普通の災害では1年のところ特別に12年間やってきた」と開き直りました。つい先ほど確認した「最後の最後まで対応」はもう忘れたのかと耳を疑いました。原子力災害であり放射線被ばくの影響は年数を経て発症することや発症の危険が生涯に及ぶとの指摘に、被爆者援護法の所管である厚労省も含め、無言でした。
国が被害者の支援を次々に打ち切ってきた状況で、国の方針を撤回させ医療費等減免措置を継続させるには、それが国の責務であり、国策の被害者の権利であるとの住民の強い意志とそれを支援する全国的な取り組みが必要です。
東電福島原発事故発災以降、福島県住民全員の下記個人負担が全額免除された(国費で全額支援)。
(1)国民健康保険:保険料及び窓口負担金 (2)被用者保険:窓口負担金 (3)後期高齢者医療:保険料及び窓口負担金 (4)介護保険:保険料及び利用者負担金 (5)障害福祉サービス:利用者負担金
2011年9月に避難指示地域等以外では国の支援が8割となり、減免措置が廃止された。
国の全額支援は避難指示地域等の住民(注)のみとなり、現在に至る。
(注)転出者を含む、特定勧奨地点を含む、現在は控除後の課税対象収入年600万円以下に制限。
対象地域を避難指示解除の時期により4地域に分けて順次行われる。
2022年度を周知期間とし、2014年までに解除された第1地域で2023年度見直し開始、第2地域で2024年度見直し開始等順次進める。
各地域とも避難指示解除からほぼ10年後に見直しが完了する。
見直し内容は、「初年度:保険料半額自己負担に移行、次年度:保険料全額負担に移行、次々年度:窓口負担金を含め全額自己負担に移行」の手順で進められる。
福島県は国に対して毎年「提案・要望書」を提出しています。今年(6月10日)は、昨年の「被災者が安心して生活できるよう、財政支援の継続に配慮」から、「対象となる住民の理解が得られるよう周知」に変わっています。昨年の要望が拒否されたこと、避難指示解除から約10年で財政支援が打ち切られること、決定の経過に対する反論等は一切なく、住民は国の支援打ち切りを理解させられる扱いです。
住宅支援の場合は避難者とそうでない人の分断がありました。今回は避難指示の有無による地域の分断で国に対する追及が弱められています。対象地域の拡大要求でこれを乗り越える必要があります。
トリチウム汚染水(ALPS 処理水)海洋放出の方針決定は、昨年4月、全国と福島県漁連等が「断固反対」し続ける中で、漁連をはじめ「関係者の理解」を得ないまま、当時の菅政権が強引に決定したものです。
このように方針決定した後に「理解」をゴリ押ししようとしても無理があり、1年経っても全く「理解」は進んでいません。
今回の対政府交渉では、海洋放出方針に法的・技術的根拠がないことを徹底追及し、政府や東京電力が根拠のない大ウソをついてまで強引に「理解」を得ようとしていることを暴き出し、私たちの主張が正しいことを認めさせました。
2015 年に、福島県漁連がサブドレン・地下水ドレン水の海洋放出に同意した大前提には、政府と東京電力による「ALPS処理水を海洋放出しない」との文書回答があり、「同意」はこれと一体のものです。
そして、現に地下水ドレン水6.5 万トンがタンクへ移送されて「ALPS処理水」となっています。
しかし経産省は、サブドレン等の運用方針は「トリチウム濃度が1,500Bq/L を超える場合には、排出しない、希釈しない、タンクへ移送する」という「移送に関する規定」であり、「ALPS処理水の扱いはこれとは異なる」との詭弁を弄して私たちの追及を突っぱねました。
また、昨年4月の政府によるALPS処理水海洋放出の「方針決定」も、上記文書回答による約束を破るものではなく、「ご理解を得られるように努力する」と開き直りました。
来春からのALPS 処理水の海洋放出は、今発生している汚染水をALPS 処理した水から優先的に排出するものです。今後サブドレン及び地下水ドレンの排水が1500Bq/Lを超えタンクへ移送された場合、それもALPS処理後、優先的に海洋に排出されることになります。そうなれば、「タンクへ移送する」との運用方針が「タンクへ移送し、ALPS 処理して排出する」という内容に、事実上書き換えられることになるとの私たちの指摘に対して、タンク移送後は異なる扱いになり、運用方針の書き換えではないと経産省は言い張ったのです。
ALPS 処理水を来春から海洋放出する理由として挙げられた「3 つの理由」、①タンクは来春満水になる、②廃炉作業のために敷地を空ける必要がある、③汚染水は今後も発生し続ける、のいずれも大ウソだったことが明らかになりました。
① 満水になるタンク以外に、フランジタンク解体によるタンク増設可能エリアが約9 万トン分あります。さらに、空状態の予備タンクが2.5 万トン、計12 万トン程度あります。「切羽詰まっている」のであれば、これらを転用すれば数年は大丈夫です。
② 東電が示した廃炉作業に伴う敷地利用計画は、「2030 年度頃までに共用プールを空けるための乾式キャスク仮保管施設、将来的に燃料デブリ一時保管施設等」というものです。しかし、これらは全く緊急性がありません。現在ある乾式キャスク仮保管施設と共用プールを合わせると、使用済燃料貯蔵容量には2,071体の余裕があるので、1・2号の使用済燃料879 体を取出して貯蔵しても十分余裕があります。ですから、十分冷えた使用済み燃料から、現在ある乾式キャスク仮保管施設に移動すれば、「共用プールを空ける」必要などありません。また、燃料デブリ取出しも、シールドプラグに事故時放出量の数倍ものセシウムが検出されていて、極めて困難になり、見通しが立たない状況です。急いで敷地を空けなければならない理由など存在しないのです。
③ 建屋内滞留水のALPS処理とサブドレンによる系統的な周辺地下水水位低減で、すでにタービン建屋と廃棄物処理建屋は床面露出しています。さらに今、原子炉建屋の床面露出へと進んでいて、汚染水発生ゼロが可能な段階に来ています。現在は2 週間に10cm のペースで滞留水の水位を下げており、2022 年度末には1号炉で水深0.5m、2・3号炉で水深2.0m になり、このペースを順次続ければ90週、2年以内に原子炉建屋の床面露出は可能になります。屋根からの雨水侵入も1号機だけとなり、屋根の設置をあと1~2年で終えれば、汚染水発生ゼロは可能です。
4月18日の第99回特定原子力施設監視・評価検討会で「1号炉では雨水以外の建屋流入はほとんどなく、屋根とフェーシング等で制御可能である。」、「2,3号炉では屋根の修理が完成していて、サブドレインピット停止による地下水位上昇や雨水による建屋流入があったが、サブドレインピット復旧やフェーシング等で制御可能。」と評価されています。
経産省は、①~③に関するこれらの具体的な指摘に、まともに反論できませんでした。
つまり、①タンク増設余地も空きタンクも十分ある、②急ぎの敷地利用計画など存在しない、③汚染水発生ゼロが実現可能な段階に来ている、のです。
福島第一原発は事故後、特定原子力施設に指定されていますが、現行法令を遵守する義務は原則として変りません。
一般公衆の被ばく線量限度1mSv/年を担保するための敷地境界での1mSv/年の線量告示を守るべき義務があります。しかし、現状は守れない違法状態にあるのです。
「措置を講ずべき事項」にいう「発災以降発生した瓦礫や汚染水等による敷地境界における実効線量を2013 年3 月末までに1mSv/年未満とすること」という管理基準を満たしても、違法状態にあります。
今回の交渉の中で、以上のすべてを原子力規制庁は認めました。
つまり、現状のように、敷地境界線量が1mSv/をかなり超える違法状態にある限り、液体・気体のさらなる放射性物質の放出は告示違反であること、地下水バイパスやサブドレン及び地下水ドレンの海洋放出を「苦渋の選択」で漁連が承諾した2015 年の時のように、「汚染水の大量発生を阻止するため」など、よほど緊急避難的な理由がない限り、放射能汚染水の放出は認められないことなのです。
上記の2. に記したように、ALPS 処理水の海洋放出には、このような緊急避難的な理由など全く存在しません。
東電は、ALPS 処理水を放出立坑と海底トンネル(パイプライン)を介して海洋放出する計画です。
これは、ロンドン条約/議定書で禁止された「その他の人工海洋構築物からの故意の海洋処分」に該当する可能性があるため、私たちは、その観点からも禁止するよう求めていました。
今回の交渉で、外務省は「ALPS処理水の海洋放出は投棄に該当しないと外務省決定した」と言いながら、いつ、どこで決定したのか追及されても明確に答えられず、挙げ句の果てに、「昨年4月の方針決定には外務省も同席していたからそこで決定された」と主張したのです。つまり、国内はおろか国際的にも厳しく注目されている、こんな大事なことを外務官僚の内輪だけで判断し、外務大臣を含めた会議や議事録に残る形では決定していなかったのです。
今回の対政府交渉は、脱原発福島県民会議をはじめ、8団体で呼びかけて取り組んできた、度重なる政府交渉の上に行われたものです。
その交渉の場で、経産省、原子力規制庁、外務省が、そろって私たちの主張に明確に反論できず、うろたえていた事実は極めて重要です。
福島県漁連も全国漁連も「断固反対」の姿勢を堅持し、福島県でのアンケートでも8割で「ご理解」が進んでいません。
(注)
トリチウム汚染水(ALPS 処理水)の海洋放出は止められるし、止めねばなりません。
そのために今回の交渉の成果と内容を広く知らせ、最大限に活用し、運動をさらに強めてゆきましょう。
(注)正式には「海洋放出方針の再検討を求める署名」
オンライン署名、及び署名用紙のダウンロード ⇒ こちら