「県民健康管理の取組み」の問題点 2011年6月
福島事故の放射能による住民への長期的な健康影響が懸念されます。
国策として原発を推進してきた国に、この問題に責任を持って対処し、長期的な健康管理・健康補償を行うことを求めます。被爆者援護法を参考にして、県民全員に健康手帳を交付し、長期的な健康診断・適切な治療等を無料で受けることが出来るよう法整備を行わせることが課題です。
福島事故の「県民健康管理の取組み」の問題点
6月18日、福島県が実施主体として行う「福島県における県民健康管理」の内容が公表されました。
そこには、国策として原発を推進した国が責任をもって健康補償するということが明記されておらず、線量調査による県民の安心に重点が置かれています。
さらに、長期的な健康管理の計画は健康影響の過小評価の上に策定されています。
以下に問題点を7点に整理し、それぞれを具体的に指摘します。
なお以下には、福島県が公表している「県民健康管理調査の概要」および「福島県における県民健康管理の取り組み」をそれぞれ「調査の概要」および「健康管理の取組み」と表記します。
1)「国策として原発を推進した国が責任を持って健康補償する」と宣言されていません。
国策として原発を推進した国が責任を持って健康補償することを明記し、被爆者援護法を参考にして、住民の健康補償・生活補償のための法的な整備を行うことが必要です。
2) 生涯にわたる健康管理が必要です。
新聞報道で30年以上にわたって健康管理すると伝えられていますが、がんなどの晩発性の健康影響については生涯の健康管理が必要です。 被爆65年以上経過した今日でも多くの原爆被爆者ががんなどの原爆症に苦しみ、亡くなられる方 も後を絶ちません。
3) 土壌の汚染等により、住民の被ばくは今後も続きます。
対策を取らなければ、住民の被ばくは今後も増加し続けます。
それは、国連科学委員会のセシウムの地中浸透に関する経験式を用いて評価すれば、10年で2倍に、30年で4倍にもなる規模です。福島事故の住民健康管理はこの点も考慮するべきです。
4) 長期的な健康管理の対象を20万人と限定しています。
「健康管理の取組み」によれば、基本調査と詳細調査の結果を踏まえ、長期的な健康管理が実施されます。「調査の概要」では、線量を推計評価する基本調査の対象者は全県民約200万人ですが、詳細調査の対象者は20万人と限定されています。
被爆者の場合は全員が健康管理の対象です。原爆症認定では、1ミリシーベル以上(3.5キロ以内)で積極的認定です。
これを参考にすると、福島事故の健康管理の対象者はとても20万人などには収まりません。
5) 医療費の補償について明記されていません。
「健康管理の取り組み」によると、必要に応じ、適当な保健医療サービスに結びつけることにより、住民の健康状態の悪化を予防するとされています。
(ア) 治療を含めた健康管理の体制を確立しなければ住民がたらいまわしされます。
(イ) 医療費の補償については明記されていません。
原爆被爆者の場合、一般疾病については医療費や入院時の食事に要する費用の本人負担分は国の負担です。原爆症認定疾病については認定されれば治療に必要な医療費が給付されます。
6) 健診内容の充実、精密検査費用の無償化
JCO事故の住民検診は2会場で延べ3日だけです。
精密検査については費用は個人負担です。 福島事故被災者についてはこのような問題を解消すべきです。
7) 東電負担分と合わせて1000億円とされる基金では全く不十分です。
今後の被ばくの問題を含めた長期的健康管理の対象者の問題、期間の問題、健康管理 の内容をクリヤーするためには全く不十分な金額です。
(参考)福島県の住民健康管理の基金として東電負担と合わせて1000億円が第2次補正予算に計上されると報じられています。
JCO事故の住民健康診断では基金は3億円で平成70年までの計画で、年間平均300人として60年間で延べ1万8千人、1人当たり1万7千円の規模です。
福島県の場合の基金1000億円では、20万人で30年間なら延べ600万人で1人当たり1万7千円とJCO事故の住民検診と同じようなレベルになります。