10月9日、双葉地方原発反対同盟、脱原発福島県民会議、原水爆禁止日本国民会議、原子力資料情報室、反原子力茨城共同行動、原発はごめんだヒロシマ市民の会、ヒバク反対キャンペーンの呼び掛けで、第5回政府交渉を行いました。
被災地の住民や自治体の間には、脱原発と結んで、国に健康手帳の交付と医療保障等を求める動きが強まっています。これを背景に、これまでの政府交渉にも参加してきた福島県の脱原発住民グループのセンター「脱原発福島県民会議」(構成団体は福島県平和フォーラム、プルサーマルに反対する双葉住民の会、社民党福島県連合)が加わり、7団体の呼び掛けとなりました。 第5回交渉の質問書 当日配布資料
交渉には福島と宮城の被災者9名を含む34名が参加しました。
1.復興庁、環境省との交渉
国の責任で全ての被災者への健康手帳交付、生涯の健康診断、医療無料化など医療保障、生活保障を!
福島からの怒りの訴え
冒頭、脱原発福島県民会議の石丸小四郎代表が、被災者の現状を訴え、被災者が放置されていることに対して抗議し、国の責任による諸施策の実施を求めました(石丸さんの意見表明)。
交渉に参加した被災者からも次々と、怒りの訴えが続きました。
☆回答になっていない。具体的に話してもらわないとわからない。我々も具体的に検討していこうと思うものもない。言いたいのは健康の問題。SPEEDIとのかかわりがある。私は浪江なので、避難してえらい目に会っている。健康手帳の問題は今は浪江町がやっている。国がやるべき国策です。せめて回答してほしい。医療費の無料化についても具体的に答えて下さい。
☆時期を早めて欲しい。成人の医療費の問題はすべて削られています。
☆浪江に住んでいた私は10か所目の仮設住宅で避難生活を送っています。事故からもう1年7ケ月が経っている。健康手帳を交付し、健診をし、無料の医療をちゃんと、受けられるように法整備出来るのはあなた方なのですよ!
☆対象は福島だけですか?宮城や他県、地域も含まれるのですか?
復興庁の回答:いま挙がっている事は全て、「子ども・被災者支援法の基本方針」の検討課題に含まれている。
検討中なので、具体的な回答はしばらく待ってほしい。
浪江町、双葉町の被災者への医療費無料化や手当支給の法的措置の要求にはノーの政府回答
浪江町と双葉町は住民に健康手帳を交付する一方で、国に医療費無料化や手当の支給などの法的措置を求めています。交渉に参加した浪江町の参加者がこれらの要求を認めよと迫りましたが、復興庁は「原子力被災者等の健康不安対策に関するアクションプラン」を柱に対応するとの両町への回答を繰り返しました。「アクションプラン」は放射線の影響について情報を一元化して、放射線の健康影響の過小評価に基づくリスクコミニュケーションによって被災者の健康不安を解消することを主な内容とするもので、医療費の無料化などの施策は含まれていません。復興庁の回答は医療費無料化や手当の支給などの法的措置を拒否するものです。
明らかになった事
政府は、浪江町と双葉町の医療費無料化等の要求を認めない一方で、すべての被災者への健康手帳の交付や成人を含む医療費の無料化などの要求については、「基本方針」の検討課題に含まれているので具体的な回答はしばらく待ってほしいと回答しました。これは全くのごまかしです。浪江町や双葉町の町民全員の医療費無料化等の要求が認められない状況では、避難地域以外の「支援地域」でも認められない危険性が高いと考えられます。
全国の連帯した力で浪江町、双葉町の医療費無料化などを認めさせることが重要です。
原爆被爆者の死亡調査第14報で全固形がん死亡について放射線量の「閾値」はないとの結果などが出されました。国が100ミリシーベルト以下では「明らかな健康影響を示す研究結果はない」として福島原発事故の影響を過小評価してきたことについては、今回の交渉では時間不足で十分追及できませんでした。今後引き続き追及したいと考えています。
2.文科省との交渉
SPEEDI情報の非公開による被曝の責任と年1ミリシーベルト以下を目指すとした子どもの被曝の現状
冒頭に福島県教組(書記次長)、福島県平和フォーラム(事務局次長)の國分俊樹さんが、福島現地の学校仮設校舎の不自由な状況、宿泊施設がないという理由で休職者の補充もできない状況、福島市内の放射能汚染は事故前の5倍から10倍という所が多くあるという状況、運動不足を解消するための体育館やプールの建設を訴えました(國分さんの意見表明)。
交渉での主なやり取り
☆SPEEDIの予測結果を公表せず、住民の被ばくを防げなかった責任について、文科省の見解は?
文科省回答:データの公表はマニュアルで政府(原災対策本部)か福島県になっていた。SPEEDIを運営していた文科省としてするべきことがなかったか、そこは真摯に反省しています。
☆浪江の住民は一番放射線量の高かった所に避難しました。そこのグランドで子ども達は遊びました。子ども達が将来、病気になった時、その責任の所在は何処ですか?
文科省回答:政府です。
SPEEDIの情報公開の責任について、「文科省としてするべきことはなかったか、そこは反省している」と表明させたのみで、全体的な追求には至りませんでした。浪江町などの健康手帳交付に関する医療費無料化などの法的措置の実現の課題と結んで今後も問題にしていく必要があります。
福島市の汚染状況から年1ミリシーベルトの基準が守れない事を指摘しました。引き続き文科省に年1ミリシーベルト以下の実現を求めていきたいと考えています。なお、文科省が「年20ミリシーベルトの基準を使わないと説明したことはない」と居直ったことは警戒すべき点です。
3.厚労省との交渉
全ての緊急作業被ばく労働者に健康管理のための「手帳」交付、健康診断、医療費無料化、被害補償を!
被ばく線量が50ミリシーベルト超の労働者に「手帳」の交付を限定している事については、50ミリシーベルト以下で被害がゼロになるわけではないから全員に交付せよと迫りましたが、厚労省は「検討会で結論が出されたことだから」と議論に応じませんでした。
厚労省が労災補償の考え方を示した胃がん、食道がん、結腸がんを労災対象疾病例示リストに追加せよ!
日本の原発被曝労働者の疫学調査で100ミリシーベルト以上の被曝者だけでもこれらの3つのがんによる死亡者は30名が確認されていることを示し、被曝労働者の労災対象疾病リストに追加せよと追及しました。厚労省は深くは反論せず、今後の交渉に持ち越しとなりました。
被曝労働者の課題としては、引き続き、「長期健康管理のための手帳」を50ミリシーベルト以下の被曝の労働者を含む全ての緊急作業者に、更には現在も続く収束作業の従事者や除染作業従事者などの福島事故被曝労働者に、交付させ、医療保障と被害補償を国の責任で行わせるための取り組みを進めることが課題です。それに加えて、労規則35条の労災認定疾病の例示リストの大幅拡大の課題として、胃がん、食道がん、結腸がんを追加させ具体的な労災認定を前進させる取組が新たな課題となりました。
交渉終了後の意見交換
国の責任による健康手帳交付と被災者の補償をめざす取組の拡大について、
1.各地での取り組みの強化、2.政府交渉の継続、3.「被災者と事故処理被曝労働者への健康手帳の交付と健康保障を求める全国署名」運動の提案の3点について意見を交換しました。
☆政府交渉を継続すべきとの強い意見が福島から出されました。
今回の交渉を踏まえた政府への要請書を提出し、次回の交渉を準備したいと考えています。
☆署名運動については「署名運動を通じて、フクシマ事故の被災者の課題を全国に広げ、脱原発と結んで運動を強めたい」との積極的な意見も出ましたが集約には至っていません。
私たちヒバク反対キャンペーンは、更に意見交換を深めながら取り組みの実現を目指したいと考えています。