大量の放射能を含む汚染水

地下水の流入を止められず、大量の汚染水が発生
 東京電力福島第一原発事故で炉心は溶融し、溶融した燃料は炉心を支える材料や制御棒を溶かし、さらに圧力容器底部から溶け落ち、原子炉格納容器底部のコンクリートなどと一緒に溶けて固まった状態(燃料デブリ)となっています。
 事故発生以降、燃料の崩壊熱を除去するために絶えず炉心に注水され、核燃料に触れることで高濃度の放射性物質を含んだ、いわゆる「汚染水」が生じ。汚染水は建屋に広がっています。
 大量の地下水(事故発生当時1日540トン)が原子炉建屋に流入し、破損箇所からの雨水流入と合わせて、汚染水は増加し続けてきました。
 対策として、地下水のくみ上げ井戸、凍土遮水壁などが作られました。
 しかし、凍土遮水壁の寄与は小さく、大量の汚染水が生じてしまいました。地下水は現在も1日170トン流入しています。

トリチウム、セシウム、ストロンチウムなど大量の放射能を含む汚染水
 汚染水に対して、塩分除去処理(放射能は除去されない)、ストロンチウム処理(ストロンチウムのみ除去)、多核種除去処理(ALPS処理、62核種の除去が可能)などが実施されましたが、除去できないトリチウムをはじめ大量の放射能が含まれています。
 2020年3月12日時点での状況(ALPS処理水とストロンチウム処理水の合計)
 ・汚染水のタンク貯水量は約119万立方メートル、タンク基数979基
 ・トリチウムの総量は860兆ベクレル その他に、セシウム、ストロンチウム等62核種を含む

トリチウム汚染水の海洋放出を許すな

2018年夏の公聴会で「長期陸上保管」の意見が圧倒的多数を占めた
 2018年夏に福島、東京で開催された公聴会では、海洋放出ではなく長期陸上保管を求める意見が相次ぎ、経産省の多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(以下「小委員会」と表記)は長期保管も含め検討するとしました。

「海洋放出が最も現実的」との結論を出した小委員会報告書
 小委員会では、陸上保管に関しては福島第一原発敷地内にタンク増設場所がないとの東京電力の一方的な主張で押し切られました。
 東電の主張は、敷地利用の当初の想定に基づくものに過ぎず、小委員会報告書は保管方法や発生汚染水低減策などについて十分検討されたものとは言えません。
 米サバンナリバーサイトで固化埋設の実例があるにもかかわらず、これを含めた陸上保管が十分検討されないまま不採用とされました。
 小委員会は今年2月10日、報告書で「海洋放出が最も現実的」との結論を出しました。
 問題は風評被害に矮小化されています。

政府は人権優先を基本とする廃炉汚染水対策・復興政策をとるべき
トリチウム汚染水は厳重に陸上保管せよ!
 国策によって進められた原発の重大事故により、福島県をはじめ被災地の多くの人々が放射能汚染と被ばくを強いられ、生業や生活を奪われるなどの被害を被りました。
 政府は、事故当初労働者に250ミリシーベルト(以下「mSv」と表記)の緊急時被ばく限度を押し付け、住民の避難指示は公衆の被ばく限度年1mSvの20倍にも達する年間20mSv以上の地域に限定されました。
 政府はその後も事故から9年間、住民や労働者に被ばくを押し付け憲法に保障された生存権などの人権を踏みにじってきました。補償も支援策もほとんど打ち切られています。
 私たちはこうした国の政策の撤回を求めてきました。しかし政府は事故を招いた責任や住民と労働者に被ばくを押し付けた責任を認めず、事故から9年余を経ても被災地に元の生活は戻っていません。
 福島や周辺県の各地で事故前に比べ明らかに高い空間線量が続いています。東電福島第一原発の敷地境界では、未だに、「事故で敷地外へ放出されて今なお残存する放射能による放射線」および「汚染水タンク等から敷地外へ現在放出されている放射線」の合計として、法令で担保されるべき「年1mSv」を越える高い空間線量が実測されています。公衆の被ばく限度を守るべき法令に違反する状態が今も続いているのです。
 国は、事故被害者にこれ以上被ばくを押し付けない人権優先を基本とする廃炉汚染水対策・復興政策をとるべきです。重大事故を起こした原発からこれ以上放射能を環境に放出すべきではありません。国と東電は未だに事故の責任を認めないばかりか、意図的に高濃度の汚染水を「薄めて流す」などは新たな故意の加害行為であり、言語道断です。
 政府・経済産業省は、「海洋放出が最も現実的とする小委員会報告書」を撤回し、事故被害者にこれ以上被ばくを押し付けない人権優先の陸上保管案を真剣に検討すべきです。

ALPS処理水を薄めて海洋放出することは下記の取り決めに反します。
 小委員会報告を受けて、東電は3月24日、汚染水を海水で薄めトリチウム濃度を1500ベクレル/リットルとして30年かけて海洋放出する等の素案を公表しました。これは下記に反します。
①「サブドレン及び地下水ドレンの運用方針」で希釈は行わないと明記
 原子炉建屋に流入する地下水の量を削減するために、上流の地下水バイパスや原子炉建屋周辺のサブドレインから地下水をくみ上げ、必要に応じて浄化処理をしたうえで、トリチウム濃度については1500ベクレル/リットルを上限とし、海に排出されています。東電の素案はこれはこれを準用したものです。
 しかし、「サブドレン及び地下水ドレンの運用方針」および「運用の基本的な考え方」に、「サブドレン及び地下水ドレン以外の水は混合しない(希釈は行わない)。と明記されています。
 この運用方針は、高濃度汚染水の海洋放出に歯止めをかけ、総排出量を抑制する重要な事項です。大量の海水で薄めることは明らかに「運用方針」や「基本的考え方」に反しています。
②関係者の方の理解を得ることなくしていかなる処分もとることは考えていない。
 経産省は、第6回廃炉・汚染水対策福島評議会(2015.1.7)において、ALPS処理水について、「関係者の方の理解を得ることなくしていかなる処分もとることは考えておりません。」と答えています。
これらの取り決めは、当時、汚染した地下水の海洋放出を苦渋の選択で受け入れた漁業者らとの「約束」です。約束を反故にすることは許されません。

「海洋投棄は選択肢としないものとする。」が低レベル放射性廃棄物の処分の方針
 1993年3月30日に閣議決定された平成5年度原子力開発利用基本計画(原子力委員会月報第38巻第3号に掲載)で、「海洋処分については、関係国の懸念を無視して行わないとの考え方の下に、その実施については慎重に対処する」とし、これを受けて、原子力委員会も1993年11月2日決定の「低レベル放射性廃棄物処分の今後の考え方について(第16回ロンドン条約締約国協議会議に向けて)」で「我が国としては、今後、低レベル放射性廃棄物の処分の方針として、海洋投棄は選択肢としないものとする。」と断言しています。

風評被害に矮小化して、一方的に説明会、意見聴取等を強行
 2018年夏の公聴会で圧倒的多数を占めた「長期陸上保管」の意見は小委員会最終報告に反映されず、問題を風評被害に矮小化されています。これは国民を欺くものです。
 重大事故を起こした国と東電の責任、地下水の流れを変える大規模土木工事の代わりに成否不明の凍土遮水壁工事を強行し、結局役に立たず、大量の汚染水を発生させてしまった責任を認めることが出発点になると考えます。
 新型コロナ感染が深刻化する中で、政府は双相地域の市町村議会での説明会、福島市での意見聴取を強行しています。一旦中断し、新型コロナ感染が沈静化した後に国民的論議を巻き起こすべきです。

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