国の責任で、すべての福島原発事故被災者と被ばく労働者に、健康手帳の交付、健康と生活の保障を!
2020年2月、「海洋放出が最も現実的」との結論を出した小委員会報告
東電福島第一原発で発生し続けるトリチウムなど大量の放射能を含む汚染水(多核種除去設備[ALPS]処理水)について、2018年夏に福島、東京で開催された公聴会では、海洋放出ではなく長期陸上保管を求める意見が相次ぎ、経産省の多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(以下「小委員会」と表記)は長期保管も含め検討するとしました。
その後、小委員会では、陸上保管の方法や発生汚染水低減策などについて十分検討されませんでした。
2月10日、小委員会は報告書で、「海洋放出が最も現実的」との結論を出しました。問題は風評被害に矮小化されています。
福島、茨城、全国で強まる反対
「トリチウム汚染水の海洋放出に反対する署名」の拡大が重要
政府は、双相地域の市町村議会での説明会、福島市・富岡町での意見聴取、パブリックコメントを、短期間に一方的、形式的に強行しています。国民的論議が必要ですが、新型コロナ感染「緊急事態」の現状では困難です。政府は意見聴取等を一旦中断し、沈静化後に国民的論議を巻き起こすべきです。
浪江町、南相馬市、石川町などの議会、福島・茨城の県漁業協同組合連合会及び全国漁連、福島の農業・森林組合、茨城県知事が反対を表明しています。意見聴取の中で故意の加害だとの指摘が出ています。4月21日に、国内外320団体が「陸上での保管継続」を求める共同声明 を出しました。
「原発のない福島を!県民大集会」実行委員会が呼びかけている「トリチウム汚染水の海洋放出に反対する署名」を、福島はもちろん、全国各地に広げ、政府に多数の反対の声をぶつけることが重要です。
政府は人権優先を基本とする廃炉汚染水対策・復興政策をとれ!
トリチウム汚染水は厳重な陸上管理を行え!
☆☆東電福島第一原発事故で踏みにじられた人権
国策によって進められた原発の重大事故により、福島県をはじめ被災地の多くの人々が放射能汚染と被ばくを強いられ、生業や生活を奪われるなどの被害を被りました。
政府は、事故当初労働者に250ミリシーベルト(以下「mSv」と表記)の緊急時被ばく限度を押し付け、住民の避難指示を公衆の被ばく限度年1mSvの20倍にも達する年間20mSv以上の地域に限定しました。
その後も、年間20mSv基準で避難指示解除するなど、事故から9年間、住民や労働者に被ばくを押し付け憲法に保障された生存権などの人権を踏みにじってきました。補償も支援策もほとんど打ち切られています。
☆☆今も続く、「公衆の被ばく限度(年間1mSv)を担保する法令」に違反の状態
私たちは、福島の被害者とともに政府交渉等に取り組み、こうした国の政策の撤回を求めてきました。しかし政府は「事故を招いた責任」も「住民と労働者に被ばくを押し付けた責任」も認めず、事故から9年余を経ても被災地に元の生活は戻っていません。
福島や周辺県の各地で事故前に比べ明らかに高い空間線量が続いています。東電福島第一原発の敷地境界では、未だに「年間1mSv」を越える高い空間線量が実測されています。「公衆の被ばく限度を守るべき法令」に違反する状態が今も続いているのです。
☆☆トリチウム汚染水の海洋放出は新たな故意の加害
意図的に高濃度の汚染水を「薄めて流す」とは新たな故意の加害行為であり、言語道断です。
重大事故を起こした原発からこれ以上放射能を環境に放出すべきではありません。国は、事故被害者にこれ以上被ばくを押し付けない人権優先を基本とする廃炉汚染水対策・復興政策をとるべきです。
☆☆陸上保管は小委員会で十分検討されず
小委員会では、陸上保管に関しては「福島第一原発敷地内にタンク増設場所がない」との東京電力の一方的な主張で押し切られました。東電の主張は、敷地利用の当初の想定に基づくものに過ぎません。
米サバンナリバーサイトで固化埋設の実例があるにもかかわらず、これを含めた陸上保管が十分検討されないまま不採用とされました。
ALPS 処理水を薄めて海洋放出することは下記の取り決めに反する。
小委員会報告を受け、東電は 2020 年 3 月 24 日、汚染水を海水で薄め 1,500 ベクレル/リットルとし、30 年かけて海洋放出する等の「検討素案」を公表しました。これは下記の取り決めに反します。
@「サブドレン及び地下水ドレンの運用方針」で希釈は行わないと明記 原子炉建屋に流入する地下水の量を削減するために、上流の地下水バイパスや原子炉建屋周辺のサブドレインから地下水をくみ上げ、必要に応じて浄化処理し、海に排出されています。 「サブドレン及び地下水ドレンの運用方針」および「運用の基本的な考え方」(2015.9.2)に、「サブドレン及び地下水ドレン以外の水は混合しない(希釈は行わない)。」と明記されています。 この運用方針は、高濃度汚染水の海洋放出に歯止めをかけ、総排出量を抑制する重要な事項です。 A関係者の方の理解を得ることなくしていかなる処分もとることは考えていない。 経産省は、第 6 回廃炉・汚染水対策福島評議会(2015.1.7)において、ALPS 処理水について、「関係者の方の理解を得ることなくしていかなる処分もとることは考えておりません。」と答えています。 |
原子力委員会の決定「低レベル放射性廃棄物の処分の方針として、海洋投棄は選択肢としない」に反する
1993 年 3 月 30 日に閣議決定された平成 5 年度原子 力開発利用基本計画で、「海洋処分については、関係国の懸念を無視して行わないとの考え方の下に、その実施については慎重に対処する」とし、これを受けて、原子力委員会も 1993 年 11 月 2 日決定の「低レベル放射性廃棄物処分の今後の考え方について(第 16 回ロンドン条約締約国協議会議に向けて)」で「我が国としては、今後、低レベル放射性廃棄物の処分の方針として、海洋投棄は選択肢としないものとする。」と断言しています。
国連海洋法条約、ロンドン条約/ロンドン条約議定書などの国際法に抵触
陸上保管の追求を放棄し、「海洋放出が最も現実的」とした小委員会報告書から導かれる海洋放出は、国連海洋法条約(第 1929 条、第 194 条第1項)及び 1995年ロンドン条約議定書(附属書Uの1、5、6項)に抵触します。2019 年 10 月に開催されたロンドン条約/ロンドン議定書締約国会議では、福島第一原発の汚染水問題に対して既に憂慮を表明していた韓国に加え、中国、チリも憂慮を表明しています。
大量の汚染水を発生させてしまった政府・東電の責任
小委員会では、発生汚染水低減策などについても十分検討されたとは言えません。国と東電の重大事故を起こした責任、大量の汚染水を発生させた責任を認めることを出発点とすべきです。
燃料デブリの放射性物質による高濃度「汚染水」
福島第一原発は沸騰水型原子炉(BWR)で、圧力容器(炉心と冷却水を包む容器)を収納する巨大な原子炉格納容器が原子炉建屋(以下、「建屋」と表記)の中にあります。事故で溶融した燃料は炉心を支える材料や制御棒を溶かし、圧力容器底部から溶け落ち、原子炉格納容器底部のコンクリートなどと一緒に溶けて固まった状態(燃料デブリ)となっています。
事故発生以降、燃料の崩壊熱を除去するために絶えず炉心に注水され、それが核燃料に触れ、高濃度の放射性物質を含んだ「汚染水」が生じています。
建屋の中に滞留する汚染水の水位を、周辺の地下水の水位よりも低くし、汚染水が建屋外に流出することを防いでいます。地下水は建屋内に流れ込み、屋根の破損部分などから流入する雨水とともに、日々汚染水量を増加させています。
「建屋に流入し汚染水を増加し続ける地下水」対策
2014 年 5 月で1日に約 540 トン流入していました。 政府・東電は、流入量削減対策として、上流の高台で地下水をくみ上げる「地下水バイパス」、建屋周辺の地下水をくみ上げる「地下水ドレイン、サブドレイン」、建屋周辺を取り囲んで凍結管を地中に配置し周辺の地盤を凍結させる「凍土遮水壁」などをつくりました。
「凍土遮水壁」の地下水流入量削減の寄与は少なく、現在も地下水流入量は 1 日 170 トンです。
地下水の流れを変える大規模土木工事の代わりに成否不明の凍土遮水壁工事を強行し、結局役に立たず、 大量の汚染水を発生させてしまったのです。
図 福島第一原発の地下水と政府・東電の対策 廃炉の大切な話2019(経済産業省)、p.16に加筆
トリチウム汚染水(ALPS 処理水、ストロンチウム処理水など)の現状
汚染水は多核種除去装置(ALPS)などで処理され、タンクに貯蔵されています。
ALPS 処理等でトリチウムは除去できない。
大量のALPS 処理水にはトリチウムが処理前と同じ濃度のままで残っています。
表1 2020 年 3 月 12 日時点での状況(ALPS 処理水とストロンチウム処理水の合計)
貯水量 約 119 万立方メートル タンク 979 基 | トリチウムの総量 860 兆 Bq |
処理水にはトリチウム以外に、除去しきれなかった62種類の放射性核種も含まれる。
表2 告示濃度比総和別貯蔵量(2019 年 12 月 31 日現在) 出典: 東京電力汚染水ポータルサイト
告示濃度比 | 〜1 | 1〜5 | 5〜10 | 10〜100 | 100〜19,909 | 合計 |
貯留量(万m^3) | 30.00 | 34.65 | 20.75 | 16.70 | 6.50 | 108.07 |
東電は 2 次処理を行うと弁明していますが、更田原子力規制委員長は 2018 年 10 月、二次処理は「告示濃度制限が守られる限り、絶対に必要なものという認識はない。」「科学的には、再浄化と(より多くの水を混ぜることで)希釈率を上げるのに大きな違いはない。告示濃度制限は非常に厳しい低い値に抑えられている。」と発言しています。これでは規制ではなく、自ら定めた告示の役割に反する違法な発言です。
告示濃度:原子炉等規制法の原子力規制委員会告示(「核原料物質又は核燃料物質の製錬の事業に関する規則等の規定に基づく線量限度等を定める告示」,最新改定 2017.12.22 第 14 号)に定められている濃度です。原子力施設等の敷地から外部に放出される放射線や放射性物質について、敷地境界での一般公衆の被ばく線量が 1mSv/年を超えないこととし、個々の核種について1mSv/年に相当する濃度(「告示濃度」)が定められています。この 1mSv/年の制限は、「公衆の被ばく線量限度 1mSv/年」を担保するための制限値です。
告示濃度比総和:含まれる全ての核種について、「核種の濃度÷核種の告示濃度」を合計したものです。
「トリチウム汚染水の海洋放出に反対する署名」拡大リーフレット 暫定版 発行:ヒバク反対キャンペーン 2020.5.3 |