原発被曝労働者の労災補償をめぐる最近の動きと課題(2012/9/30)

 福島第一原発では多数の被曝労働者が危険な環境での事故処理作業に動員され、新たな労働者も入域しています。また除染作業にも被曝労働者が従事しています。被曝の低減と国の責任による長期健康管理のための「手帳」交付および健康診断と医療保障・被害補償が喫緊の課題となっています。

 厚労省は、食道がん、胃がん、結腸がんの労災認定指針を公表しました。これを機に、改めて、労規則35条別表の例示疾病の拡大、認定基準の引き下げ、労働者や遺族への労災補償情報の通知、遺族補償の5年の時効の「撤廃」などの課題が浮かび上がっています。

1.厚労省が胃がん、食道がん、結腸がんの労災認定指針を公表
 労災補償の対象疾病に追加させ、認定線量基準を100ミリシーベルトから大幅に引き下げさせよう
 厚労省は2012年9月28日、2009年と2011年に労災申請された胃・食道・結腸のガンについての業務上外の検討における医学的知見を公表し、これら三つのガンに対する「当面の労災補償の考え方」を示しました。 → 厚労省HP

 労災認定の指針が示されたという点では労災対象疾病を拡大するものとなっています。厚労省にこのことを認めさせ、労規則35条別表の労災補償対象疾病の例示リストに追加させましょう。

 厚労省は、被ばく線量が100mSv以上で線量の増加とともにこれら3つのガンの発症との関連が高まるとしています。放射線によるがんの閾値がないことが明らかにされているにもかかわらず、厚労省はこのような指針(基準値)を決定したのです。この認定線量基準値を引き下げ(注)、すべてのガンを労災の対象疾病とするように拡大していく闘いを前進させましょう。
 (注:既に100mSvが認定指針の線量基準として運用されている肺がんについても同様です。)
疾病 線量基準
基発810号 白血病 5ミリシーベルト × 従事年数 以上
現在運用されている「指針」 悪性リンパ腫 5ミリシーベルト × 従事年数 以上
多発性骨髄腫 50ミリシーベルト 以上
肺がん 100ミリシーベルト 以上
今回示された「労災補償の考え方」 食堂がん 100ミリシーベルト 以上 被ばく線量の増加とともに、がん発症との関連が強まる
胃がん 100ミリシーベルト 以上
結腸がん 100ミリシーベルト 以上


2.新たに1件の悪性リンパ腫が労災認定 認定は累計11件に
2011年に悪性リンパ腫が新たに1件認定され、原発被曝労働者の労災認定件数は、白血病6件、多発性骨髄腫2件、悪性リンパ腫3件、計11件となりました。
疾病 白血病 多発性骨髄腫 悪性リンパ腫
線量(mSv) 40 72.1 50 129.8 74.9 5.2 70 65 99.8 78.9 不明
認定年 1991 1994 1994 1999 2000 2011 2004 2010 2008 2010 2011
労働局 福島 兵庫 静岡 茨城 福島 福岡 福島 福岡 大阪 長崎 神奈川
申請時の
生死状況
死亡 (注) 死亡 生存 死亡 生存 生存 生存 死亡 死亡 不明
(注)元作業員2人(うち1人死亡)が92年12月に神戸西労基署に申請(中国新聞1993/5/6)


長尾さんの多発性骨髄腫、喜友名さんの悪性リンパ腫が労災認定され、2010年に労規則別表の例示疾病リストにこの2疾病が追加されました。それまで白血病のみであった労災認定が白血病類縁疾病に広がり、これまでに2疾病合わせて5件が認定されました。これは2疾病の労災認定を全国的な支援で勝ち取った成果です。これを教訓に、さらに今後も労災認定支援の取り組みを強めましょう。

3.厚労省が放射線被曝の労災補償リーフレットを公開
厚労省はリーフレットに胃がんなど3つのがん、遺族補償給付の説明を追加し、労働者に配布せよ
 厚労省は2012年9月5日、リーフレット「放射線被ばくによる疾病についての労災保険制度のお知らせ」を公開しました。私たちはかねてから放射線被曝労災補償について全国の被曝労働者に知らせるよう厚労省に要求してきました。リーフレットには、被ばくによって発症するおそれのある疾病として労規則35条別表に例示されている疾病(皮膚潰瘍などの皮膚障害、白内障、白血病、肺がん、皮膚がん、骨肉腫、甲状腺がん、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫)が記載され、「上記以外の疾病でも、放射線被ばくによるものとして労災補償の対象となることがあります。」と付記されています。療養補償給付と休業補償給付の説明がなされ、裏面に都道府県の労働局一覧が掲載されています。
◇リーフレットが直接労働者に手渡るよう方策を講じさせましょう。
◇胃がん、食道がん、結腸がんを被ばくによって発症する恐れのある疾病としてリーフレットに追記させましょう。
◇労災認定された11件中少なくとも5件は本人死亡後の申請です。しかしリーフレットでは遺族補償給付については全く触れられていません。こうした実態を踏まえた遺族補償給付の説明をリーフレットに追加させましょう。

4.疫学調査した約30万人被ばく労働者と家族にリーフレットを送らせ、遺族補償の時効を撤廃して労災申請を受理させましょう
 原発被曝労働者の被害の多くは放置され、これまでに労災認定されたのは氷山の一角に過ぎません。
 労災認定の線量基準に該当する7疾病の死亡者が多数存在することが放射線業務従事者の疫学調査において確認できます。ほとんどが労災認定されず放置されています。これから申請しようとしても遺族補償の申請の時効5年が壁となります。線量限度を守っていれば安全としてきた厚労省に責任があります。
◇死亡調査を行った全ての被曝労働者と家族に国の責任で労災補償の情報と個人線量を周知させましょう。
◇印刷業務の胆管がん同様、時効の壁を取り払い労災申請を受け付けさせましょう。       
被ばく線量の区分(mSv) 労災認定の線量基準該当者
(表の太字)
疾 病 10< 10- 20- 50- 100+
食道がん 200 29 32 20 8 8
胃がん 669 85 85 41 18 18
結腸がん 251 24 29 13 4 4
肺がん 801 102 118 56 33 33
多発性骨髄腫 22 3 2 1 3 4
悪性リンパ腫 69 9 14 7 4 累積線量と従事年数によるため該当者数不明
白血病 99 12 16 4 2

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緊急・収束作業労働者の被ばくと健康保障

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