白血病、甲状腺がん、肺がん、咽頭がんでイチエフ労働者8名が労災認定

・2019年8月末までに、福島第一原発で事故後に働いた被ばく労働者28名が被ばくによる疾病として労災申請している。
・労災認定8件(白血病3件、甲状腺がん2件、肺がん1件、咽頭がん2件)、不認定9件、調査中9件、取り下げ2件となっている。
・不認定には、少なくとも、膀胱がん、喉頭がん、肺がん、肝がん、膵がんが含まれる。
 ちなみに、これらの不認定事例は、原爆被爆者の場合は原爆症として認定される。原爆症認定基準は3.5km以内で被ばく(1mSv以上被ばく)

表1 労災認定された5名の労働者の放射線業務と被ばく状況
白血病 2011年11月~2013年12月の1年半建設会社社員として玄海、福島第一で作業。19.8mSv被ばく。
そのうち2012年10月以降の1年1カ月間は、福島第一原発で作業。15.7mSv被ばく。
会社を辞めたあと、2014年1月に白血病と診断される。2015年10月20日に労災認定。
白血病 2011年4月~2015年1月の3年9カ月間機械修理会社社員として福島第一で作業。約99mSv被ばく
2015年1月に健康診断で白血病と診断され、2016年8月19日富岡労基署が労災認定
甲状腺がん 1992年から2012年まで20年間、福島第一原発など複数の原発で原子炉の運転や監視業務などに従事し、累積149.6ミリシーベルト(mSv)被ばくした。
2011年3月から2012年4月まで、福島第一原発事故の緊急時作業・収束作業(水量計や圧力計などの確認、注水ポンプなどの燃料補給など)に従事。1号機と3号機の原子炉建屋の水素爆発時も敷地内で作業に当たっていた。
この期間の被ばく線量は139.12mSvで、うち約40mSvは内部被ばくであった。
東電は甲状腺等価線量と全身実効線量の換算係数として1/20を使っているので、この男性の甲状腺等価線量は800mSvとなる。
2014年4月に甲状腺がんと診断され、既に切断手術を受け職場復帰し、現在も通院を続けている。
2016年12月16日、甲状腺がんが富岡労基署で労災認定された。
白血病 1994年~2016年2月の約19年間、東電社員として福島第一で作業。約99mSv被ばく。
うち、約91mSvが事故発生から2011年12月までの緊急時被ばく作業による。
2016年2月に健康診断で白血病と診断され、2017年12月13日、厚労省検討会が業務上と結論
肺がん 1980年6月~2015年9月のうち約28年3カ月間、福島第一原発を中心に複数の原発で放射線管理業務などに従事。累積被ばく線量は195mSv。
うち、約34mSvが事故発生から2011年12月までの福島第一原発緊急時被ばく作業による。事故後の福島第一原発での業務による2015年9月までの累積被ばく線量は74mSv。
2016年2月に肺がんを発症し、死亡。死亡時期は遺族の意向で明らかにされていない。2018年8月28日、厚労省検討会が業務上と結論、水戸労基署が8月31日付けで労災と決定した。
咽頭がん 東電社員として従事した60代男性。1977年~2015年のうち35年間、放射線業務に従事した。
2011年3月の事故後、福島第一原発でがれき撤去や原子炉への注水作業など原発の構内で収束作業に従事した。
累計の被曝線量199ミリシーベルトのうち85ミリシーベルトが事故対応によるものとされた。
2018年12月にがんを発症した。
咽頭がん 2019年の労災申請当時40代で、その後死亡した東電の協力会社の放射線技師。
1996~2019年のうち96年以降延べ約15年間、X線撮影業務などに従事した。
2011年3月の事故後19年まで、放射線量測定業務などに従事した。
累計の被曝線量386ミリシーベルトのうち、事故対応によるものは44ミリシーベルト。
2019年1月に発症し、死後に労災認定された。

白血病が今後更に増えると考えられる。
・業務上認定の被ばく線量の要件は、白血病の場合、相当量(5mSv×従事年数)の被ばくである。
・事故後の福島第1原発では、2016年3月までの5年間に従事した4万7千人のうち20%を超える1万人が白血病労災認定基準に近い20mSv以上を被ばくしている。
・その後も、2016年4月から2017年1月迄で、2129名の労働者が白血病労災認定基準の年5mSv を超える被ばくをしている。
・これらのことから、今後白血病が更に増えると考えられる。

甲状腺がんが今後更に増えると考えられる。
・甲状腺で労災認定された労働者の2011年3月以降の被ばくのうち、約40mSvは放射性物質を体内に取り込んで起きる内部被ばくだった。
・東電は甲状腺等価線量と全身実効線量の換算係数として1/20を使っているので、この男性の甲状腺等価線量は800mSvとなる。
・緊急時作業従事者の甲状腺被ばくは、等価線量が1000mSvを超えた労働者が74人、500超え~1000mSvの労働者が196人、100超え~500mSvの労働者が1437人などとなっている。
・今後甲状腺がんが更に増えると考えられる。

●限定された政府の緊急時被ばく労働者の「健康保持対策」
緊急時作業従事者全員に長期健康管理の「手帳」を交付させよう

政府は緊急時被ばく労働者に限定して長期的健康管理の「指針」を策定し、被ばく線量や健康診断結果をデータベースに登録し、データベース登録証を全員に発行し、各都道府県の窓口で健康相談等に応じています。
50mSv を超える被ばくをした約900人に長期健康管理の「特定緊急作業従事者等被ばく線量等記録手帳」(以下「手帳」と略記)を交付し、国の費用で在職中から白内障検査(対象:50mSv超え)や指針に基づくがん検診(対象:100mSv 超え)を行い、離職後も国が費用を支援しています。
「手帳」交付が緊急時作業従事者約2万人中の約900人に限定されています。
さらに、緊急時作業従事者以外は特別な長期健康管理施策がとられていません。

表2 政府の健康管理
データベース ・緊急時作業従事者に限り、全員をデータベースに登録。
・被ばく線量、健康診断結果を登録。
相談窓口 ・各都道府県に設置
緊急時作業の被ばく線量と施策 50mSv以下 50超~100mSv以下 100mSv超え
・相談のみ ・「手帳」交付
・目の検査
・「手帳」交付
・目の検査、がん検診

詳細は厚生労働省のホームページをご覧ください。
   東京電力福島第一原子力発電所における緊急作業従事者等の長期的健康管理

●「手帳」交付対象外の労働者に白血病が生じ、労災認定された
このことは、福島原発被ばく労働者に対する政府の健康管理の不十分さを示しました。
長期健康管理の「手帳」を交付されているのは緊急時作業従事者のうち900人に過ぎません。
被ばく労働就業中は電離放射線業務健康診断が義務つけられていますが、離職したら、900人以外は健康診断の機会の保障はありません。
政府は直ちに緊急時作業従事者の長期健康管理を1人漏らさず行うよう見直すべきです。
政府は緊急時作業従事者全員に「手帳」を交付し、国の責任で長期健康管理すべきです。
緊急時作業従事者全員に「手帳」を交付させること、福島原発被ばく労働者全体、さらには全国の被ばく労働者に健康管理手帳を交付させること、在職中からのがん検診などを充実させることが喫緊の課題となっています。

●原爆症のがん・白血病は1 m Sv以上(3.5キロ以内の直爆)で積極認定
がん労災認定の100 m Sv基準引き下げを実現しよう

労災補償の対象疾病として労働基準法施行規則別表1の2に皮膚潰瘍などの皮膚障害、白内障、白血病、肺がん、皮膚がん、骨肉腫、 甲状腺がん、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、が例示されている。
厚生労働省は、胃がん、食道がん、 結腸がん、膀胱がん、喉頭がん、肺がん、甲状腺がん、肝がん、膵がん について、「被ばく線量が100mSv 以上から放射線被ばくとがん発症との関連がうかがわれる」として、100mSv 以上の被ばく、潜伏期間5年、被ばく以外の要因を考慮して、検討会で個別事案ごとに検討するとしている。

詳細は厚生労働省のホームページをご覧ください
   胃がん・食道がん・結腸がんと放射線被ばくに関する医学的知見の公表(2012/9/28)
   膀胱がん・喉頭がん・肺がんと放射線被ばくに関する医学的知見を公表します(2015/1/28)
   甲状腺がんと放射線被ばくに関する医学的知見を公表します(2016/12/16)
   肝がんと放射線被ばくに関する医学的知見を公表します(2017/10/27)
   膵がんと放射線被ばくに関する医学的知見を公表します(2018/6/27)

厚生労働省は一方で、原爆症のがん・白血病は1mSv以上(3.5キロ以内の直爆)で積極認定している。
   新しい審査の方針(2008年3月17日)
   新しい審査の方針(2013年12月16日)
被爆者援護法の各種保障は被爆者が長年権利として要求し、国民的な支援運動によって実現された。
労災補償の基準引き下げを要求する力強い運動が必要である。原爆被爆者、原子力産業労働者、医療被ばくなどの疫学調査で低線量まで被ばくの健康影響が示されていることを根拠に、がん労災認定の100mSv基準引き下げを実現しよう。
厚生労働省は緊急時作業従事者の疫学調査を行っている。大半の労働者は健康保障もなく単なる調査対象として扱われる。第1回健診受診者は2017年1月末で、2562人(約13%)にとどまっている。
かつてABCCが原爆被爆者の医療を行わずに検査だけを行ったことに対して、「モルモット扱い」であると怒りの声が巻き起こったことを忘れてはならない。被ばく労働者の健康保障を国の責任でおこなわせよう。

福島原発事故以降、8名の福島原発被ばく労働者以外にも、他の原発被ばく労働者5名が労災認定。全国でこれまでに計23名が労災認定。そのほか東海村JCO臨界事故で3名が被ばく労災認定。
2022年4月20日の衆議院厚生労働委員会で、福島原発事故以降、福島原発被ばく労働者8名以外に他の原発労働者5名が労災認定されたことが示された。
福島原発事故前に全国で10名が労災認定されている。
1)事故後に労災認定された13名と合わせて全国でこれまでに23名が労災認定された。
2)事故後の11年間で13名が労災認定されており、事故前の35年間10名に比べ労災認定の頻度は増えている。
・広島長崎の原爆被爆者の場合、被爆から35年以上経過した1980年代にがん発生が急増した。これに相当するがん発生の急増が原発被ばく労働者でも起きていると考えられる。
 注)しかし100ミリシーべト以上でなければ労災認定しないという政府の方針で、労災認定されたのは実際の被害よりも極めて上少ないと考えるべきである。
・放射線被ばくで労災認定されることが被ばく労働者の間に広まったと考えられる。
・労災申請を妨げていた雇用者の壁については調査が必要である。

Copyright(c)ヒバク反対キャンペーン.All rights reserved.