労災申請・認定の規模は予想される健康被害の「氷山の一角」
健康管理手帳を交付させ、生涯に渡る「がん検診を含む健康管理」を行わせましょう

原発被ばく労働者の累積集団線量から推定される健康被害
原発被ばく労働者の累積集団線量は2018年度末で約4100人・Svです。
広島・長崎原爆被爆者の疫学的調査から放射線による健康被害はがん・白血死については10人・Svあたり1人生じることが分かっています。また、ゴフマンは10人・Svあたり3.7人のがん死が生じるとしています(1990年)。
これらをもとに、原発被ばく労働者の健康被害は、がん・白血死については410人~1500人規模であると推定されます。

原発労働者の放射線業務による労災認定の状況
原発労働者の放射線業務による労災認定は原発運転以降2020年3月末現在で22人です。
22人の内訳は、福島第一原発事故以前に10人が労災認定され、その後、福島原発で事故以後に働き労災認定された人が8人、それ以外で4人が労災認定されました。
福島原発で事故以後に働き、労災申請した人は28人で、認定8件、不認定9件、調査中9件、取り下げ2件です。 最近は申請件数が増加し、認定の頻度も増える傾向です。
その要因としては、
①被ばくからの年数が経過してがんの発生が増加傾向にあると考えられる
②個人線量の増加、労働者数の増加などにより、集団線量が増加している
③長尾・喜友名労災支援運動により原発被曝労働者の関心が高まった
④福島第一原発の被ばく労働者に対しては、厚労省が放射線業務従事者の労災補償(遺族補償を含む)についてビラを配布し、周知している。
などが挙げられます。

原発被ばく労働者の労災申請・認定に対する壁
実際の被害とかけ離れた少ない労災申請・認定の実例数

とはいえ、これらの事例数は世界的に見ても非常に少ないものです。例えば、イギリスで1986年から始まった放射線疾病補償制度CSRLD(Compensation Scheme for Radiation Linked Diseases)では、2021年報告によると、これまでの申請は1710件でうち163件が認定です。
これと比べると、日本の被ばく労働者が放置されている事は歴然としています。
労災申請・認定にはいくつかの壁があります。
・下請け多重構造の下で不安定な雇用状態にある原発被ばく労働者が労災を申請することは大きな負担で、労災申請の壁となっています。
 この問題については、全国各地に相談センターを作ることが必要だと考えられます。
・放射線業務の労災補償では対象として法令に明記されている疾病は8例にすぎません。このことも労災申請の壁となっています。
 原爆症認定では総てのがん、白血病、甲状腺機能障害等の6疾病が積極認定の対象になっています。アメリカのエネルギー省核施設労働者の補償法、マーシャルの核実験被害者の補償法などでも多くの疾病が対象となっています。
 この問題については、放射線業務による労災認定対象疾病のリスト(労規則別表1-2)の大幅な拡大認定基準の大幅な引き下げが必要です。
従って、実際に行われた労災申請・認定数は被ばく労働者に表れている健康被害の氷山の一角であり、これらを上回る規模の被害が生じていると考えるべきです。

健康管理手帳の交付と、生涯に渡る「がん検診を含む健康管理」を
労災補償と併せて、健康被害を早期に発見し、治療するために、原発被ばく労働を健康管理手帳交付業務に指定し、健康管理手帳の交付と、生涯に渡る「がん検診を含む健康管理」を行わせることが差し迫った課題です。
労働安全衛生法は、離職の際にまたはその後に健康管理手帳を交付された労働者の健康診断は政府が行うとしています。
参考:労安法第67条 2 政府は、健康管理手帳を所持している者に対する健康診断に関し、厚生労働省令で定めるところにより、必要な措置を行なう。

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