原発被ばく労働の特徴、労働者の置かれた状況

 ウラン採掘、原子力発電、使用済み燃料再処理等は過酷な被ばく労働、多数の被ばく労働者を必要としその犠牲の上に成り立っています。
 日本の原発被ばく労働者は多重下請構造の下で搾取され、使い捨てされてきました。
 原発の運転開始から50年間に50万人規模の労働者が原発被ばく労働に従事しました。
 この間の原発被ばく労働者の総被ばく線量は累積約4200人・シーベルトで、がん白血病死亡の健康被害だけでも、広島長崎の被爆者の疫学調査に基づけば、400人規模と推定されます。
 原発被ばく労働者の放射線被ばくによる疾病・障害の労災補償は、労災認定数、認定疾病の種類が極めて少なく、原発被ばく労働者の健康被害は事実上放置されています。
 厚生労働省は「被曝限度を超えない被曝線量では健康への深刻な影響はない。」として離職後の健康管理とそのための健康管理手帳の交付の必要性を認めようとせず、また、被曝労働者の救済に役立てるために必要な労災申請と認定の結果に関する基礎資料の開示も拒否してきました。
2022年3月現在、原発被ばく労災認定は23件です。この他に核燃料工場JCO臨界事故による急性障害3件(うち2名死亡)があります。
 日本の被曝労働者が放置されている事は、海外との比較からも歴然としています。
 例えば、イギリスの原子力施設労働者の補償システム(Compensation Scheme for Radiation Linked Diseases)では1986~2020年度の申請総数1710件、認定総数163件となっています。

 東京電力福島第一原発事故は労働者と住民にこれまでになかった高線量の被ばくをもたらしました。また今後、長期にわたる廃炉汚染水対策でも被ばくが避けられません。

 東京電力福島第一原子力発電所の事故後、菅直人首相の指示により全原発のストレステスト(健全性検査)に着手しました。
 原子力規制委員会による原発再稼働に向けた安全審査は当初、「順調なら半年程度」と見込まれたが、地震・津波対策などが強化された新規制基準(2012年6月)に基づく作業が難航し、それ以降、一時的に稼働した原発はあったものの、2013年9月半ば以降は「原発ゼロ」の状態が続きました。
 2023年7月現在、関西電力高浜1,高浜3,高浜4,大飯3,大飯4,美浜3、四国電力伊方3、九州電力川内1,川内2,玄海3,玄海4の11基が安全審査をクリアし再稼働済みです。一部は現在定期検査中です。東北電力女川2,東京電力柏崎刈羽6,柏崎刈羽7、関西電力高浜2、中国電力島根2、日本原電東海第二の6基が安全審査をクリヤしていますが未再稼働です。
 震災後、福島第一原発では4基が2012年4月に廃止となり、残る2基も2014年1月末に廃炉となりました。これまでに廃炉決定した原発は事故後に21基、事故前の東海第一、浜岡1号、2号の3基と合わせて計24基です。

 原子力規制委員会は安全審査について、福島原発事故のような重大事故のリスクゼロを保証するものではないとしています。重大事故時の原発運転員の居住性確保や避難計画の住民被ばくは最大100mSvとされています。福島原発事故は緊急停止後の崩壊熱によるものですが、重大事故はこのタイプに限らず、急激に進む大口径破断タイプもあり得ます。安全審査はこうした重大事故はには目をつむり労働者・住民を危険にさらすものです。
 2014年、政府は、法令により100mSvと定められている緊急時作業の線量限度を、重大事故の場合250mSvに引き上げる制度化に着手しました。私たちは全国の22団体の呼びかけで制度化反対の全国署名運動を展開するなど徹底して反対しましたが、2015年8月31日、原子力規制委員会、厚生労働省は緊急時被ばく限度引上げ等に係る原子炉等規制法関連法令、電離放射線障害防止規則等の改定を強行・公布し、2016年4月施行されました。
 再稼働は労働者も住民も大量被ばくする重大事故を否定できず、人権無視で、絶対に許せません。

背景
1970年11月に福井県の関西電力美浜発電所1号(PWR)が、また1971年3月に福島県大熊町の東京電力福島第一1号(BWR)が、相次いで営業運転を開始し、原子力発電は本格化しました。
1973年10月6日に勃発した第四次中東戦争をきっかけに、いわゆる石油危機(石油ショック)が発生し、その後脱石油政策がとられ、原子力発電所の建設が加速されました。
日本の原子力発電所の認可基数の推移
    1970年  1980年  1990年  2000年  2010年  2018年
 基数  3基   21基  39基   51基  54基   43基(再稼働は10基)

<放射線影響協会のホームページから転載>

エネルギー構造、産業構造の変化が進み、余剰労働力の一部が原発に吸収された。

1.下請け・孫請け・ひ孫請け・・・・の多重構造
 文書によらない雇用契約、偽装請負、高率のピンハネをはじめ様々な搾取、雇用保険未加入、長時間労働など業界では珍しくない。

2.原発の作業
・機械関係の主要設備の保守・修理加工作業
 原子炉容器、タービン、弁、ポンプ、熱交換器、配管、空調設備など
・燃料交換
 加工工場からの燃料輸送、原子炉の使用済み燃料取り出しと冷却プールへの移送、新燃料の装荷など
・労働者はヒバク要員として従事しているという側面がある。
  線量がオーバーすれば働けなくなり、配置転換の余裕がない零細企業では使い捨てされる。
・放射性廃棄物の保管・管理
 作業衣等のクリーニング、固体廃棄物のドラム缶詰めと建屋貯蔵、液体廃棄物の保管・管理、漏れ修理
・放射線管理区域特有の作業(除染、線量測定)
・放射線管理区域特有の装備(防護服、防水服、全面マスク)
 作業能率の低下、熱中症、転倒事故の原因ともなる

3.定期検査
・定期検査では被ばく線量が多く、危険が高まる。
・定期検査の原発に労働者が集中し、1つのサイトで4~5千人規模の労働者が働く。
・福島第1原発の場合、最も多かった2010年7月には、407社、6778人が関わった。
・各地の原発を渡り歩く労働者も多い。被ばく線量統計で年間関係事業所6以上などの区分もある。

4.被ばく労働者の線量限度
・国際放射線防護委員会(ICRP)は1977年勧告で被ばく労働者の年被ばく限度を50ミリシーベルトと勧告した。
・それは日本でも国内法に反映された。
・1980年代の原爆放射線評価の変更と広島・長崎の原爆被爆者に生じた被害の増加によって、原爆被爆者の疫学調査から放射線被ばくのリスクが10倍高まった。
・公衆の被ばく限度は年5ミリシーベルトから年1ミリシーベルトに引き下げられた。
・ICRPは、被ばく労働者に対しては、1990年勧告でも2007年勧告でも、年50ミリシーベルトを残し5年間100ミリシーベルトと併用する基準を勧告した。
・これらの基準は年間50ミリシーベルトの10分の1よりもはるかに高い線量基準のままである。
・日本でも国内法に反映された。

5.重大事故時に緊急時被ばく限度を250ミリシーベルトに引き上げることが制度化された
・通常時とは別に、緊急時の被ばく限度が定められている(事故当たり100ミリシーベルト)
・東京電力福島第一原発事故では、緊急時被ばく限度が250ミリシーベルトに引き上げられた。
 その後、重大事故時の緊急時被ばく限度を250ミリシーベルトに引き上げることが法的に制度化された。

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