緊急時作業者に高線量被ばくを強いる
特例緊急被ばく限度250mSvの設定 と その後の生涯1000mSvによる線量管理

東京電力福島第一原子力発電所事故の緊急時被ばく

事故発生とともに緊急時作業に指定され、更に3月14日に被ばく限度を法定の100ミリシーベルト から250ミリシーベルトに引き上げる特例省令が施行され、遡って適用されました。多数の労働者が250mSv超えを含む高線量大量被ばくさせられました。
緊急時作業限度100ミリシーベルトは、短期間に少なくとも100ミリシーベルトを超えて被ばくすれば晩発性障害以外に急性障害が発生する恐れがあることを根拠として定められています。
「放射線障害防止」および「緊急時被ばく限度」の法的規定
1.放射線障害防止の基本
放射線障害防止の基本は、「放射線障害防止の技術的基準に関する法律」第三条に「基本方針」として書かれている他、電離放射線障害防止規則第一条にもうたわれています。
・放射線障害防止の技術的基準に関する法律 第三条
放射線障害の防止に関する技術的基準を策定するに当つては、放射線を発生する物を取り扱う従業者及び一般国民の受ける放射線の線量をこれらの者に障害を及ぼすおそれのない線量以下とすることをもつて、その基本方針としなければならない。
・電離放射線障害防止規則 第一条
事業者は、労働者が電離放射線を受けることをできるだけ少なくするように努めなければならない。
2.緊急時被ばく限度
・原子炉等規制法の体系
実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の規定に基づく線量限度等を定める告示 第八条

実用炉規則第九条第二項及び貯蔵規則第三十条第二項の経済産業大臣の定める線量限度は、実効線量について百ミリシーベルト、眼の水晶体の等価線量について三百ミリシーベルト及び皮膚の等価線量について一シーベルトとする。
・労働安全衛生法の体系
電離放射線障害防止規則 第七条

事業者は、第四十二条第一項各号のいずれかに該当する事故が発生し、同項の区域が生じた場合における放射線による労働者の健康障害を防止するための応急の作業(以下「緊急作業」という。)を行うときは、当該緊急作業に従事する男性及び妊娠する可能性がないと診断された女性の放射線業務従事者については、第四条第一項及び第五条の規定にかかわらず、これらの規定に規定する限度を超えて放射線を受けさせることができる。
2  前項の場合において、当該緊急作業に従事する間に受ける線量は、次の各号に掲げる線量の区分に応じて、それぞれ当該各号に定める値を超えないようにしなければならない。
一  実効線量については、百ミリシーベルト
二  眼の水晶体に受ける等価線量については、三百ミリシーベルト
三  皮膚に受ける等価線量については、一シーベルト
3  前項の規定は、放射線業務従事者以外の男性及び妊娠する可能性がないと診断された女性の労働者で、緊急作業に従事するものについて準用する。

厚生労働省は、2015年8月31日、「特例緊急被ばく限度の設定」(特例省令により緊急作業時の特例被ばく限度を250ミリシーベルトとする)など、電離放射線障害防止規則改定を強行しました(施行は2016年4月1日)。(厚生労働省ホームページ

それに併せて、緊急作業従事者等の長期健康管理に関する大臣指針が改定されました。(2016年4月1日から適用)(厚生労働省ホームページ
東京電力福島第一原子力発電所以外の原発等も対象となるために、指針の名称は、「東京電力福島第一原子力発電所における緊急作業従事者等の健康の保持増進のための指針」から「原子力施設等における緊急作業従事者等の健康の保持増進のための指針」に変更されました。

今回の大臣指針改訂により、通常被ばく限度を超えた緊急作業従事者のその後の線量管理を「生涯1000mSv」によって行うことが具体化されました。

その考え方は、


緊急時作業で100mSを超える被ばくをしても次の線量管理期間から被ばく労働従事を認める。





緊急時被ばくを含め、生涯1000mSvまでの被ばくを容認する。
具体的には、(「1000mSv」 - 「緊急時作業の被ばくを含むこれまでの累積被ばく線量」)を「残余の線量」、(「68歳」 - 「次の従事開始時年齢」)を「残余の従事年数」、として、「残余の線量」÷「残余の従事年数」 × 5年 が100mSv未満ならそれを次の線量管理期間5年間の線量限度とする。
というものです。

仮に福島第一原発の緊急時作業で600mSv、それまでに80mSv被ばくしていた38歳の労働者について、考えてみましょう。

600mSvは5年間100mSvの限度で6線量管理期間30年間の被ばく上限と考えると、緊急時作業以降68歳まで被ばく労働は認められず、生涯線量は680mSvです。

一方、厚生労働省の線量管理方式では、2016年4月1日から被ばく労働従事が認められます。その後68歳までに最大320mSvの追加被ばくが認められ、生涯線量は1000mSvとなります。

線量管理期間 開始年齢 残余年数 残余線量 線量管理値 被ばく線量
計算値 実施値 期間内 累積
1991~1995 18 20 20
1996~2000 23 20 40
2001~2005 28 20 60
2006~2010 33 20 80
2011~2015 38 600 680
2016~2020 43 25 320 64 60 60 740
2021~2025 48 20 260 65 65 65 805
2026~2030 53 15 195 65 65 65 870
2031~2035 58 10 130 65 65 65 935
2036~2040 63 5 65 65 65 65 1000

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