やはり乳幼児がヒバク
ますます認められないクリアランス制度導入(改訂版)
原子力安全委員会の1998年クリアランスレベルの再検討結果(2004/10/8)
5年前に原子力安全委員会が報告したクリアランスレベル値(*1)の再検討結果が2004年10月8日に開かれた第13回クリアランス分科会でまとめられました。(資料)
*1)
「主な原子炉施設におけるクリアランスレベルについて」(1999年3月17日)
これは、今年6月に国際原子力機関(IAEA)が大量の物量(1トン以上)の規制免除・規制除外・クリアランスに適用される放射性核種の濃度(一般免除レベル)を定めた(現在は既に安全指針RSG1.7として出版されている)ことから、原子力安全委員会のクリアランスレベル値がIAEAの一般免除レベル値に比べて高いことや算出の根拠などが問題となり、再検討されることとなったものです。( → 関連資料 )
その結果、原子力安全委員会の1998年のレベル値算出には含まれていなかった3項目(①皮膚被ばくの評価、②直接経ロ摂取の評価、③乳児・幼児の評価)を追加し、④ICRP90年勧告以降の新たな線量係数を使って再評価することになりました。しかし再評価の結果を見ると、1-2歳児が③の評価対象にされ、胎児や0歳児は依然としてクリアランス制度の影響評価対象から除外されています。
再評価の結果には次のような特徴が見られます。
◆ 58核種中、19核種で乳幼児の被曝が決定経路(成人よりも乳幼児が多くヒバクする)。 ◆ 皮膚被曝が無視できないことが明らかになった。 ◆ 58核種中、41核種のクリアランスレベル値がIAEAの一般免除レベル値よりも高い。 |
これらの問題点を掘り下げてみましょう。
58核種中19核種で乳幼児のヒバクが最も高い
原子力安全委員会は1998年、成人グループを対象にクリアランスレベルを算出し、乳幼児を含めてもクリアランスレベルに問題はないと説明してきました。
今回の再検討結果では、58核種中19核種で乳幼児の被曝が決定経路となっています。
核 種 名 | 再評価の結果 (端数処理前) |
決定経路 | |
トリチウム | 60( 62 ) | 跡地利用(農産物利用) | |
炭素14 | 4( 3.8 ) | 地下水利用(淡水産物摂取) | |
塩素36 | 0.3( 0.33 ) | 地下水利用(畜産物摂取(飼料)) | |
カルシウム41 | 100( 98 ) | 地下水利用(農産物摂取) | |
コバルト60 | 0.3( 0.31 ) | 壁材等・外部被曝 | |
ニッケル59 | 30( 35 ) | 地下水利用(農産物摂取) | |
ニッケル63 | 100( 130 ) | 跡地利用(農産物利用) | |
ストロンチウム89 | 200( 190 ) | 居住・経口摂取 | |
ストロンチウム90 | 0.9( 0.87 ) | 跡地利用(農産物利用) | |
イットリウム91 | 400( 370 ) | 居住・経口摂取 | |
ニオブ94 | 0.2( 0.18 ) | 跡地利用(居住者・外部被曝) | |
テクネチウム99 | 1( 1.3 ) | 跡地利用(農産物利用) | |
ルテニウム106 | 6( 5.8 ) | 居住・経口摂取 | |
銀108 | 0.2( 0.2 ) | 跡地利用(居住者・外部被曝) | |
テルル125 | 50( 53 ) | 居住・経口摂取 | |
テルル127 | 20( 17 ) | 居住・経口摂取 | |
テルル129 | 20( 16 ) | 居住・経口摂取 | |
セシウム137 | 0.8( 0.81 ) | 跡地利用(居住者・外部被曝) | |
バリウム133 | 2( 1.7 ) | 跡地利用(居住者・外部被曝) |
成人より2~3倍高い、乳幼児・胎児のヒバク影響
これを考慮すると58核種中、34核種で乳幼児の被曝が決定経路に
乳幼児がヒバクした場合の被曝線量当たりのガン白血病などの被害発生は、成人の場合に比べて2~3倍高いとされています。乳幼児の目安線量を成人の3分の1とした場合、58核種中34核種で乳幼児の被曝が決定経路となります。
被曝の影響を考慮すると乳幼児の被曝が決定経路となる核種(58核種中34核種)
H-3、C-14、Cl-36、Ca-41、Mn-54、Fe-55、Fe-59、Co-58、Co-60、
Ni-59、Ni-63、Zn-65、Sr-89、Sr-90*、Y-91、Zr-95*、Nb-94、Tc-99、
Ru-106*、Ag-108m*、Ag-110m*、Sb-125*、Te-125m、Te-127m、
Te-129m、I-129、Cs-134、Cs-137*、Ba-133、Ce-144*、Eu-152、Tb-160
これまで、胎児への影響については具体的に検討せず
0歳児や胎児を評価に加えると、更に多くの核種でクリアランスレベルを下げなければならなくなります。
胎児被曝によるガンなどの確率的影響についても、成人に比べて影響は高いと考えられています。
発生確率の結論は出ていませんが、放射線防護上は発生確率を成人の2~3倍とする、乳幼児と同じ扱いがなされています。
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出典:放射線防護の基礎第3版(辻本忠/草間萌子)p.107 |
原子力安全委員会は1999年の報告書以来、クリアランスによる胎児への影響については、母胎が保護される線量なら胎児も保護されるとして、具体的には何も検討してきませんでした。
原子力安全委員会は今回の再評価においても、0歳児や胎児を除外しました。
「・・・評価対象者としての決定グループは成人としました。成人を基に評価することで幅広い評価経路について評価することが出来る等からです。また、生涯のうちで成人として生活する期間が最も長いからです。確認のため、乳児・幼児のリスクを考慮した線量評価も行いました。その結果を、報告書の付属資料に添付します。なお、胎児についてはICRPにおいて線量係数を計算している段階ですが、ICRPでは母体が保護される線量ならば胎児も保護されると考えています。」 「主な原子炉施設のクリアランスレベルについて」パブリックコメント回答:原子力安全委員会1998年 |
こんなにもずさんな事前評価がまかり通っていることには大きな問題があります。
美浜事故で再び明るみに出た安全審査の形骸化の問題ともつながる根深い問題です。
国は改めて胎児・乳幼児のヒバクの問題を含めた正確な評価を行うべきです。
クリアランスによる、皮膚ヒバク
再評価では、新たに皮膚ヒバクの経路が追加されました。皮膚ヒバクに対するクリアランスの目安線量は年50ミリシーベルトで、公衆の皮膚への年間線量限度いっぱいが当てられています。
今回再評価されたクリアランスレベルに相当する皮膚被曝線量は次のようになります。
核 種 | クリアランスレベル (Bq/g) |
皮膚の被曝線量 (ミリシーベルト/年) |
鉄55 | 2000 | 3.0 |
ストロンチウム89 | 200 | 11.4 |
イットリウム91 | 400 | 26.1 |
ルテニウム103 | 10 | 2.3 |
テルル123 | 9 | 0.9 |
テルル125 | 50 | 3.7 |
テルル127 | 100 | 17.7 |
テルル129 | 20 | 1.3 |
セリウム141 | 80 | 24 |
テルビウム160 | 3 | 0.7 |
ストロンチウム89、イットリウム91、テルル127、セリウム141などがクリアランスレベルに近い濃度で含まれていると、皮膚に高いヒバク線量を受ける危険性があります。
IAEAの一般免除レベルより高い、原子力安全委員会のクリアランスレベル
乳幼児を加えた今回の再評価により20核種で安全委員会の報告(1999年)のレベル値より低くなりました。
しかし問題は、再評価によっても大半の核種(58核種中41核種)でなおIAEAの一般免除レベル値より高いことです。
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IAEAの一般免除レベルは1トン程度の物量を対象にして適用されます。これに対して日本の原子力安全委員会が算出したクリアランスレベルは10トン程度の物量に対して適用するものです。
大量の物量に適用するレベル値の方が高濃度であるということは全く常識に反したもので、理屈に合いません。
原子力安全委員会が行っているクリアランスレベル値の再評価には根本的な欠陥があると考えざるを得ません。
結論として、原子力安全委員会のクリアランスレベルが高すぎることは明白です。
原子力安全委員会は電力会社の経済性に答えることと、国民の健康を守ることのどちらを優先しようとしているのでしょうか。
生まれてくる赤ちゃんのためにも、埋設作業者のヒバクを許さないためにも、
クリアランス制度に反対しよう
今回のクリアランスレベル再評価は胎児や0歳児を除外した過小評価ですが、それでも乳幼児の被曝が決して無視できないことが明るみに出ました。次世代、次々世代を担う胎児・乳幼児に被曝をおしつけてまでクリアランス制度を導入することが社会的に認められるはずがありません。
現在のつけを将来の赤ちゃんに負わせることに対してきっぱりと「ノー」と言いましょう。まずこのことを皆さんに訴えたいと思います。
また、埋設作業者などクリアランスされた放射性廃棄物に直接係わる人々も、皮膚ヒバクなど無視できない線量のヒバクをこうむることも明らかになりました。
一般産業廃棄物処分場が一般の居住地の近くにあり、人口密度の高い日本では、クリアランス制度によるヒバクが放射線の影響を受けやすい胎児・乳幼児を襲い、処分場の労働者や周辺住民を含む、多数の公衆にも及びます。全国からクリアランス制度反対の声を集中し、導入中止に追い込みましょう。