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放射性廃棄物処分費用を削減

相次いで犠牲者を出したJCO臨界事故、美浜3号事故と根は同じ

~ 経済性優先で人命無視のクリアランス制度 ~

 2004年の免除導入に続き、2005年にクリアランス制度の法制化が強行されました。
クリアランス制度とは、放射性廃棄物の「スソ切り」のことです。 放射性廃棄物のうち「ある濃度(クリアランスレベル)」以下のものは放射性廃棄物でない廃棄物として、捨てたり、再利用することを認める制度です。

再利用されるものは、原発の日常運転で発生する放射性廃棄物や、原発の解体にともなう放射性廃棄物(コンクリート、鉄など)です。その結果、廃棄物処理場の労働者や周辺住民、さらには国民全体に被曝がおしつけられます。

参考:埋設処分に係わる評価経路  再利用に係わる評価経路
出典:原子力安全委員会(1999年)

原発の廃炉費用は一基あたり300億円で、廃棄物処理費が200億円を占めると評価されています。クリアランス制度の導入は、この廃棄物処理費の大半を削減することが目的です。日本の原発全体では約4000億円が削減されると推定されます。この他に青森県六ヶ所村の再処理、ウラン濃縮、廃棄物関連でも計1600億円が削減されると見込まれています。

表1. 原発の廃炉・解体により発生する放射性廃棄物の量(単位:万トン)


放射能レベル区分
BWR(沸騰水型原子炉)
(110万kW級)
PWR(加圧水型原子炉)
(110万kW級)
金属 コンクリート 金属 コンクリート
低レベル放射性
廃棄物
0.9 0.3 1.2 0.4 0.2 0.6
放射性廃棄物として
扱う必要のない物
2.1 0.8 2.9 0.3 0.9 1.2
放射性廃棄物で
ない廃棄物
0.8 48.7 49.5 3.4 44.3 47.7
(1.5) (12.6) (14.1)
合        計 3.8 49.8 53.6 4.1 45.4 49.5


 クリアランス制度は原発の経済性優先の一環です。8月9日に起きた美浜事故でまたも「電力会社は安全性を切り捨て、国はそれを見抜けないという構図」が明るみに出ました。こんな企業と国にクリアランスを許したらどんなことをされるかわかりません。今なら間に合います。徹底して反対しましょう。


原発の放射能がフライパンに !

* 何の管理もされない「安定型」産業廃棄物処分場に捨てられる大量の放射性廃棄物

原発の廃棄物処分費用を浮かすために、クリアランスされた大量の放射性廃棄物が何の管理もされない「安定型」産業廃棄物処分場に捨てられます。有毒物質に加え、コバルト、セシウム、プルトニウム等の放射能が流出して、周辺の地下水、河川、土壌を汚染します。 飲料水や潅漑用水が汚染され、農産物、畜産物の汚染を引き起こします。放射能で汚染された水や大気中に舞い上がった放射性微粒子によって処分場の労働者や周辺住民がヒバクします。

* 再利用で身の回りに放射能が

原発で使われた鉄やコンクリートなどの再利用、再使用、埋設などにより、日用品や建材、土地・道路などいたるところに、放射性物質が含まれます。たとえばフライパンに再利用されると、料理に溶け出した放射性物質で「内部被曝」します。建材やイスやベッドの材質に再利用されると、寝ても醒めても被曝します。

どこまでがクリアランス?

* 人命を犠牲にして経費を削る「クリアランス制度」において
  経費と時間をかけた厳密な「検認」が行われることはないでしょう

原発の建物のコンクリートや鉄材は、原発の運転時に発生する中性子線によってその成分が放射化されていきます。鉄材ではコバルト、鉄、 ニッケル等が放射能を持ち、コンクリートには放射性のナトリウムやカリウム等が含まれてきます。原発建家内、特に管理区域内は核燃料から 漏れ出た放射性セシウム、ヨウ素、ウラン、プルトニウム等で汚染されています。

原発一基の解体に伴う廃棄物は、55万トンにもなります(100キロワットBWRの場合)。このうち、クリアランスレベル以下の廃棄物を捨てたり再利用するには、 50種類以上の放射性核種について含有量を測定し、それぞれがクリアランスレベル以下であることを証明する「検認」が必要です。

* 電力会社は安全性を切り捨て、国は見抜けない構図

電気事業連合会は、「事業者が行う測定・判断方法について国が行う確認は、基本的には事業者の作成した記録に基づいて行われるもの」と国に注文をつけています。これは原発の維持基準の論理と同じです。美浜事故でも電力会社は安全性を切り捨て、国はそれを見抜けないという構図が明るみに出ました。こんな企業と国が行うリアランス認められません。

これまでにも放射性物質の「混入」事件がありました。放射性廃棄物のスソ切り処分においても、放射能濃度の高いコンクリート廃材や鉄材が処分場に投棄 されないという保証はありません。

高い濃度の放射性廃棄物が「誤って」クリアランスされた場合、末端まで流出しても歯止めがありません。一次搬出先しか記録に残されません。

* 乳幼児への影響を無視

原子力安全委員会が1999年にクリアランスレベル値を算出した際の根拠について、原子力安全委員会の放射性廃棄物・廃止措置専門部会クリアランス分科会で、今年6月から見直しが行われています。その中でこんなことも明らかに なっています。乳児・子供の被曝についてきちんとした考慮が行われていなかったこと。可能性が低いとして一部の被曝経路が除外されていたこと...クリアランスレベルの設定段階で既にこのようなスソ切りがされているのです。
最近公表された再評価の結果によると、検討された58の核種のうち19の核種で乳幼児の被曝が埋設処理作業などよりも高いとされています。これまでパブリックコメントの回答などで乳幼児の被曝について含めてもクリアランスレベル値に問題なしと回答してきた責任はどう取るのでしょうか。
また、同じ被曝線量でも胎児や乳児などは成人の2~3倍高い確率で致死的ながんになるとされています。今行われている見直しには、このことが無視されています。0歳児や胎児は、影響評価対象から除外されています。
               見直しの詳細は → クリアランス関連情報

自動車事故死の1/10に相当する被曝の危険を強要

* クリアランスによる被曝で起こる「ガン・白血病死の危険」は交通事故死の1/10の割合いに相当します。

 原子力安全委員会は、「年間10マイクロシーベルト」の被曝をクリアランスレベルの算出根拠としています。実際には、様々な経路からの被曝が重なるので年間100マイクロシーベルトになることもあるとしています。これは公衆の自然からの年間被曝総量の1/10にも相当します。

 クリアランスによる被曝は、労働者や周辺地域住民にとって、毎年10万人に1人の割でガン・白血病死の危険を生じるものです。この危険は交通事故死の1/10にも相当します。
               参考資料  →  我が国に於けるリスク情報

ヒバクの危険の過小評価に支えられたクリアランス制度

* 広島・長崎の被爆者の疫学調査を採用すれば、スソ切り制度は導入できない

クリアランスレベルの算出根拠は1985年に提唱されました。それ以降に、広島・長崎の放射線再評価が行われ、また被爆者のガン死亡が増加していることが認められました。 その結果、被曝によるガン・白血病死の発生確率が、それまでに考えられていたより10倍もたかくなっていたことがわかりました。

広島・長崎の被爆者の疫学調査に基づき放射線被曝の危険性を政党に評価すると、クリアランスレベル値は原子力安全委員会案の1/10以下に下げなければなりません。 そうすると一般廃棄物として処分できる割合が減り、クリアランス制度は成り立たなくなります。

国際原子力機関(IAEA)はいまだに1985年当時のレベルを適用し続けています。日本政府はIAEAに追随し、クリアランスの危険性を10倍も甘く評価し続けています。


やはり乳幼児がヒバク

ますます認められないクリアランス制度導入
(改訂版)

*原子力安全委員会の1998年クリアランスレベルの再検討結果(10/8)

5年前に原子力安全委員会が報告したクリアランスレベル値(*1)の再検討結果が2004年10月8日に開かれた第13回クリアランス分科会でまとめられました。(資料
          *1) 「主な原子炉施設におけるクリアランスレベルについて」(1999年3月17日)

これは、今年6月に国際原子力機関(IAEA)が大量の物量(1トン以上)の規制免除・規制除外・クリアランスに適用される放射性核種の濃度(一般免除レベル)を定めた(現在は既に安全指針RSG1.7として出版されている)ことから、原子力安全委員会のクリアランスレベル値がIAEAの一般免除レベル値に比べて高いことや算出の根拠などが問題となり、再検討されることとなったものです。( → 関連資料 )

その結果、原子力安全委員会の1998年のレベル値算出には含まれていなかった3項目(①皮膚被ばくの評価、②直接経ロ摂取の評価、③乳児・幼児の評価)を追加し、④ICRP90年勧告以降の新たな線量係数を使って再評価することになりました。しかし再評価の結果を見ると、1-2歳児が③の評価対象にされ、胎児や0歳児は依然としてクリアランス制度の影響評価対象から除外されています。

再評価の結果には次のような特徴が見られます。

◆ 58核種中、19核種で乳幼児の被曝が決定経路(成人よりも乳幼児が多くヒバクする)。
◆ 皮膚被曝が無視できないことが明らかになった。
◆ 58核種中、41核種のクリアランスレベル値がIAEAの一般免除レベル値よりも高い。

これらの問題点を掘り下げてみましょう。 

* 58核種中19核種で乳幼児のヒバクが最も高い  

原子力安全委員会は1998年、成人グループを対象にクリアランスレベルを算出し、乳幼児を含めてもクリアランスレベルに問題はないと説明してきました。
今回の再検討結果では、58核種中19核種で乳幼児の被曝が決定経路となっています。

乳幼児(1-2歳)の被曝が決定経路となる核種とそのクリアランスレベル
(10μSv/年に相当する放射能濃度(Bq/g))
核  種 名 再評価の結果
(端数処理前)
決定経路
トリチウム 60( 62 ) 跡地利用(農産物利用)
炭素14 4( 3.8 ) 地下水利用(淡水産物摂取)
塩素36 0.3( 0.33 ) 地下水利用(畜産物摂取(飼料))
カルシウム41 100( 98 ) 地下水利用(農産物摂取)
コバルト60 0.3( 0.31 ) 壁材等・外部被曝
ニッケル59 30( 35 ) 地下水利用(農産物摂取)
ニッケル63 100( 130 ) 跡地利用(農産物利用)
ストロンチウム89 200( 190 ) 居住・経口摂取
ストロンチウム90 0.9( 0.87 ) 跡地利用(農産物利用)
イットリウム91 400( 370 ) 居住・経口摂取
ニオブ94 0.2( 0.18 ) 跡地利用(居住者・外部被曝)
テクネチウム99 1( 1.3 ) 跡地利用(農産物利用)
ルテニウム106 6( 5.8 ) 居住・経口摂取
銀108 0.2( 0.2 ) 跡地利用(居住者・外部被曝)
テルル125 50( 53 ) 居住・経口摂取
テルル127 20( 17 ) 居住・経口摂取
テルル129 20( 16 ) 居住・経口摂取
セシウム137 0.8( 0.81 ) 跡地利用(居住者・外部被曝)
バリウム133 2( 1.7 ) 跡地利用(居住者・外部被曝)


* 成人より2~3倍高い、乳幼児・胎児のヒバク影響
   これを考慮すると58核種中、34核種で乳幼児の被曝が決定経路に

乳幼児がヒバクした場合の被曝線量当たりのガン白血病などの被害発生は、成人の場合に比べて2~3倍高いとされています。乳幼児の目安線量を成人の3分の1とした場合、58核種中34核種で乳幼児の被曝が決定経路となります。

     被曝の影響を考慮すると乳幼児の被曝が決定経路となる核種(58核種中34核種)
      H-3、C-14、Cl-36、Ca-41、Mn-54、Fe-55、Fe-59、Co-58、Co-60、
      Ni-59、Ni-63、Zn-65、Sr-89、Sr-90*、Y-91、Zr-95*、Nb-94、Tc-99、
      Ru-106*、Ag-108m*、Ag-110m*、Sb-125*、Te-125m、Te-127m、
      Te-129m、I-129、Cs-134、Cs-137*、Ba-133、Ce-144*、Eu-152、Tb-160

* これまで、胎児への影響については具体的に検討せず

0歳児や胎児を評価に加えると、更に多くの核種でクリアランスレベルを下げなければならなくなります。
胎児被曝によるガンなどの確率的影響についても、成人に比べて影響は高いと考えられています。
発生確率の結論は出ていませんが、放射線防護上は発生確率を成人の2~3倍とする、乳幼児と同じ扱いがなされています。

放射線防護に適用される胎児の放射線誘発ガンの発生確率
 放射線誘発ガンの発生確率(Sv-1)
  胎児    1.0~1.5×10-1
  成人    5×10-2
出典:放射線防護の基礎第3版(辻本忠/草間萌子)p.107

原子力安全委員会は1999年の報告書以来、クリアランスによる胎児への影響については、母胎が保護される線量なら胎児も保護されるとして、具体的には何も検討してきませんでした。
原子力安全委員会は今回の再評価においても、0歳児や胎児を除外しました。

資料 : 乳幼児のヒバクに関するパブリックコメント回答例
「・・・評価対象者としての決定グループは成人としました。成人を基に評価することで幅広い評価経路について評価することが出来る等からです。また、生涯のうちで成人として生活する期間が最も長いからです。確認のため、乳児・幼児のリスクを考慮した線量評価も行いました。その結果を、報告書の付属資料に添付します。なお、胎児についてはICRPにおいて線量係数を計算している段階ですが、ICRPでは母体が保護される線量ならば胎児も保護されると考えています。」
「主な原子炉施設のクリアランスレベルについて」パブリックコメント回答:原子力安全委員会1998年

こんなにもずさんな事前評価がまかり通っていることには大きな問題があります。
美浜事故で再び明るみに出た安全審査の形骸化の問題ともつながる根深い問題です。
国は改めて胎児・乳幼児のヒバクの問題を含めた正確な評価を行うべきです。

* クリアランスによる、皮膚ヒバク

再評価では、新たに皮膚ヒバクの経路が追加されました。皮膚ヒバクに対するクリアランスの目安線量は年50ミリシーベルトで、公衆の皮膚への年間線量限度いっぱいが当てられています。
今回再評価されたクリアランスレベルに相当する皮膚被曝線量は次のようになります。

再検討されたクリアランスレベルとそれに相当する皮膚被曝線量
 核  種 クリアランスレベル
(Bq/g)
皮膚の被曝線量
(ミリシーベルト/年)
 鉄55 2000 3.0
 ストロンチウム89 200 11.4
 イットリウム91 400 26.1
 ルテニウム103 10 2.3
 テルル123 0.9
 テルル125 50 3.7
 テルル127 100 17.7
 テルル129 20 1.3
 セリウム141 80 24
 テルビウム160 0.7

ストロンチウム89、イットリウム91、テルル127、セリウム141などがクリアランスレベルに近い濃度で含まれていると、皮膚に高いヒバク線量を受ける危険性があります。 

* IAEAの一般免除レベルより高い、原子力安全委員会のクリアランスレベル

乳幼児を加えた今回の再評価により20核種で安全委員会の報告(1999年)のレベル値より低くなりました。
しかし問題は、再評価によっても大半の核種(58核種中41核種)でなおIAEAの一般免除レベル値より高いことです。

IAEAの一般免除レベルと原子力安全委員会の再評価の結果の比較
(原子力安全委員会の再評価の結果が一般免除レベルの5倍以上となっている例)

 核 種
原子力安全委員会の再評価値...① IAEAの一般免除レベル...②
 ①/②
Sc-46 0.1 10倍
Mn-54 0.1 20倍
Zn-65 0.1 20倍
Nb-95 8倍
Ru-103 10 10倍
Ru-106 0.1 60倍
Ag-110 0.6 0.1 6倍
In-114 50 10 5倍
Sn-113 8倍

 核 種
原子力安全委員会の再評価値...① IAEAの一般免除レベル...②
 ①/②
Sb-125 0.1 20倍
Te-123m 9倍
I-129 0.5 0.01 50倍
Cs-134 0.5 0.1 5倍
Cs-137 0.8 0.1 8倍
Ba-133 0.1 20倍
Eu-155 10 10倍
Hf-181 8倍
Ta-182 0.1 20倍

IAEAの一般免除レベルは1トン程度の物量を対象にして適用されます。これに対して日本の原子力安全委員会が算出したクリアランスレベルは10トン程度の物量に対して適用するものです。
大量の物量に適用するレベル値の方が高濃度であるということは全く常識に反したもので、理屈に合いません。
原子力安全委員会が行っているクリアランスレベル値の再評価には根本的な欠陥があると考えざるを得ません。
結論として、原子力安全委員会のクリアランスレベルが高すぎることは明白です。
原子力安全委員会は電力会社の経済性に答えることと、国民の健康を守ることのどちらを優先しようとしているのでしょうか。

* 生まれてくる赤ちゃんのためにも、埋設作業者のヒバクを許さないためにも、
   クリアランス制度に反対しよう

今回のクリアランスレベル再評価は胎児や0歳児を除外した過小評価ですが、それでも乳幼児の被曝が決して無視できないことが明るみに出ました。次世代、次々世代を担う胎児・乳幼児に被曝をおしつけてまでクリアランス制度を導入することが社会的に認められるはずがありません。
現在のつけを将来の赤ちゃんに負わせることに対してきっぱりと「ノー」と言いましょう。まずこのことを皆さんに訴えたいと思います。
また、埋設作業者などクリアランスされた放射性廃棄物に直接係わる人々も、皮膚ヒバクなど無視できない線量のヒバクをこうむることも明らかになりました。
一般産業廃棄物処分場が一般の居住地の近くにあり、人口密度の高い日本では、クリアランス制度によるヒバクが放射線の影響を受けやすい胎児・乳幼児を襲い、処分場の労働者や周辺住民を含む、多数の公衆にも及びます。全国からクリアランス制度反対の声を集中し、導入中止に追い込みましょう。

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