10.26放射線のホント、改訂版放射線副読本を並べて批判する緊急討論集会 決議

復興庁の「放射線のホント」から半年後、文科省が「放射線副読本」再改訂版を公表しました。順次、全国の小、中、高校に配送される予定です。ほぼ全生徒数分の予算2億円が付けられています。
両冊子は昨年12月閣議決定された「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」の一環です。東電福島第一原発事故の放射線被害をなかったことにする安倍政権の福島復興政策なるものが全国に向けて本格化するのです。
このような「ウソ」で世論操作され、子どもたちの教育が行われて良いものでしょうか。
2つの冊子を見れば、政府の復興政策なるものが何なのかよくわかると考え、2018年10月26日に集会を持ち、内容を検討し、対策を相談しました。 案内チラシ
議論の結果をまとめ、 集会決議とし、文科省に送りました。
集会決議
安倍内閣が文科省に作らせた、再改訂「放射線副読本」の撤回を求めます
 子どもに放射線の「安全」を教え込み、福島事故の幕引き、被害者切り捨てを図るものです。
 文科省は放射線副読本の再改訂版を 10 月 1 日ホームページに提示しました。小中高生のほぼ全員分が全国の学校に送られています。予算は 2 億円です。
 2011 年初版は文科省研究開発局の予算でつくられ、福島事故直後に全国の学校や公民館に配布されました。
 原発推進の原子力学会の要求で事故前から準備していたものでした。事故後にもかかわらず、福島事故には触れず、原発事故は起こさない、放射線は役に立つという主張であったため撤回運動が巻き起こり、その結果、事実上の撤回、文科省初等中等局による改訂版が作成されました。この 2014 年 2 月の改訂版は「放射線被ばく 100mSv以下ではがんなどの病気になるかどうかさまざまな見解がある、事故で放射能が流れてきても屋内退避で被ばくを避けられる」という政府の公式見解を踏襲しており、賛成できないものでしたが、それでも撤回運動を反映して、福島事故の汚染と被害について教えようとするものでした。
 今回の 2018 年再改訂版(初等中等局作成)は昨年 12 月に復興大臣の下で作成された「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略(以下、「強化戦略」)」の指示をそのまま取り入れて作られています。
 「強化戦略」は福島原発事故の被害者を切り捨て、事故に幕を引き、オリンピックまでに福島事故をなかったことにしようとする安倍内閣の「福島復興政策」そのものです。「強化戦略」によると放射線の被害はないので、「知ってもらう、食べてもらう、来てもらう」の情報発信をする、しかも「知ってもらう」の「伝えるべき内容」には放射線の被害はない、食品は安全だと述べ、「伝えるべき対象」のトップには「児童生徒及び教育関係者」があげられています。そして放射線副読本改訂をその具体的な施策の中心に置いています。「強化戦略」の指示に従って文科省が放射線副読本の再改訂を行ったのです。
 つまり、放射線副読本の初版は原子力学会の要求で、今回の再改訂版は安倍内閣の要求で、どちらも原発を維持・推進するために、放射線の被害は心配ないという教育を児童生徒に対して行うために作成されたのです。教職員研修もセットになっています。
 「強化戦略」の主張はお手本として一般向けに先に作られた『放射線の「ホント」)』でも分かるように、「復興が進んでいる、放射線の被害はない、人々を苦しめているのは放射線ではなく知識不足からくる思い込みや誤解」であるから、「正しい知識」が「未来を築く」というものです。
 再改訂版副読本は「強化戦略」の「伝えるべき内容」をすべて取り入れ、以下のように作られています。
 2014 年版では、福島原発事故と被害から始まっていたものが、再改訂版では初版同様に放射線はどこにでもあるからで始まっている。そこでは、放射線は光と同じもの(エネルギーの 4 ケタ以上違う危険を知らせず)で、医療などに役立つとしている。
 健康影響は放射線の有無ではなく量が関係している、100mSv 以上の被ばくでがんになるリスクが上昇する、(それ以下では影響ないかのように記述)、100~200mSv では固形がんのリスクは 1.08 倍であり、野菜の少ない食事や塩分の多い食事を続けた時のリスクと同じ程度と、根拠のない比較を行い被害を小さく見せる。
 福島原発事故による住民の放射線被ばくの主要な「100mSv 未満の被ばく」については、がんの相対リスクは「検出困難」の一言で済まされていて、数mSv 以下の被ばくでもがん死または発がんのリスクが上昇することが最近のいくつもの研究で示されていることには触れていない。
 放射線の遺伝性影響を示す根拠はこれまで見つかっていません、との言い回しで遺伝的影響がないかのように述べ、自然放射線や医療被ばくは心配ないが「これから長く生きる子供たちは、放射線を受ける量をできるだけ少なくすることも大切です」と逃げている(医療被ばく線量を減らさなければならないことは世界の共通認識である)。さらに、原爆被爆者の調査を利用しているが、放射線被ばくによる原爆症でたくさんの人が亡くなっていることは隠している。原爆被爆者は爆心から 3.5kmの被爆(1mSv 程度の被ばく)でも被爆者援護法により補償されていることにも触れていない。
 こうして、「100mSv 未満の被ばくで被害はない」ことにされている。
 後半は「原子力発電所の事故と復興のあゆみ」となっており、事故の様子は数行のみで、チェルノブィリよりも放射性物質の放出が少ないと軽い事故であるように見せ、国は速やかな避難指示や出荷制限を行ったと充分に対処したように述べ、SPEEDI の情報を知らせず避難者に被ばくをさせたことや避難の過程で多数の死者を出したこと等には触れない。内部被ばくは少なく健康に影響ない(ないというのは誤り)とし、外部被ばくについては、量が問題としながら住民や労働者の被曝線量を示さず、「県民などに、事故後 4 か月間において体の外から受けた放射線による健康影響があるとは考えにくいとされています」と、かえって不安にさせるような書き方である。「震災後、生まれつきの障害のある新生児が生まれた割合などは、全国の平均的なデータと差がないことがわかっています」と、慎重に検討する必要のあるデータを軽く扱っている。これでは、何故福島事故で人々を避難させたのかという、子どもたちの当然の疑問に答えられない。
 避難指示地域の人々が受けた被害については少し書いてある(2014 年版を踏襲)が、やはり深刻な事態である死亡と自死には触れず、補償が果たされていないことなど解決すべき課題も示されていない。事故 7 年で放射線が減少したことのみ述べ、福島県と周辺県の汚染地域では、今も事故前より線量が高いこと、追加被ばくが今後長期にわったることは述べない(今後は主として半減期 30 年のセシウムからの放射線によるので線量の低下は遅い)。線量変化のグラフでは H27 年から H30 年の期間を 1 年間分の幅に狭めるごまかしが施されている。
 避難指示解除で帰還する人は子育て世代が少なく高齢者の割合が高いことにはまったく触れていない。区域外避難者については全く触れていない。
 福島出身の子が学校でいじめられないようにというのも「強化戦略」によって副読本の課題とされているが、放射能が人にうつるというような「根拠のない思い込みから生じる風評」に惑わされず、「科学的根拠や事実に基づいて行動していくことが必要」と説教するのみである。実際には、事故の深刻なことと政府が責任を持たないことが被害者・避難者の生活を困難にしており、それがいじめにつながっているのである。むしろ科学も事実も無視したこの副読本がいじめを助長する恐れさえもある。
 食べものの基準を国が定めたので健康に影響を及ぼさないとしているが、内部被ばくだけで年間 1mSv とした基準であり、外部被ばくとの総合は最大 2mSv となる基準である。諸外国と比べて厳しい基準というが、示されたのは 2012 年に設定された現行の基準で、EU、米国のものは事故直後での基準であり、ペテンというべきかもしれない。学校給食も安全だとし南相馬市の給食風景の写真があるが、これで何を示すのか。
 ふたば未来学園、ホープツーリズム、イノベーション・コースト構想、再生可能エネルギーの研究と開発、環境創造センター交流棟「コミュタン福島」が未来へ向けての取り組みとされている。これらが復興に繋がっていないことや汚染のひどい浜通り、浪江、飯館などに子どもや若い人がほとんど帰っていない等の不都合な真実は教えないようだ。子供たちが「考える」ためには、全ての事実を伝えなければならない。
 事故時に放射線から身を守るには、退避・避難、食べ物に注意と書いてあるが、避難は困難で被ばくも避けられないことは明らかで、福島をはじめ全国から批判の集まっているところである。
「強化戦略」の指示に従った質問は子どもたちの顰蹙をさそうかもしれない。福島原発事故の社会的影響については「節電」のみとなり、「国のエネルギー政策をめぐる様々な課題に関して、社会全体で議論が行われるようになりました」の記述は削除されている。最後のコラム「お家の人と話してみよう」では、「災害を乗り越えて未来に向かうために、私たちが何をしていくべきか」とある。災害ではなく「原発事故」であり、私たちではなく、「国と東電」であるべきである。
 このように再改訂版放射線副読本は科学と事実に反しています。それは、福島原発事故の放射線被害を過少に見せ、事故被害者への健康管理や補償を切り捨て、人権を蹂躙し、子どもと保護者にウソの情報で国の政策を刷り込み、原発運転・再稼働の承認を迫るものになっています。「原爆被爆国」日本では、原爆の放射線被害に学び、福島原発事故の被害にしっかり向き合わなければなりません。
 再改訂版放射線副読本は誤った知識を教える情報操作、学校教育に対する不当な支配です。教育を守るべき文科省が内閣の不当な要求に従ってしまったのです。文科省に再改訂版放射線副読本の撤回を求めます。
 「強化戦略」、「放射線のホント」、「再改訂版放射線副読本」は一体のものであり、政府に撤回を求めます。
2018 年 10 月 26 日
放射線の「ホント」と 文科省 2018 年版放射線副読本をならべて批判する緊急討論会(大阪)
主催:ヒバク反対キャンペーン、地球救出アクション 97
連絡先:地球救出アクション 97 代表稲岡美奈子 大阪府松原市一津屋 4-9-6 minako-i@estate.ocn.ne.jp

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