トリチウム汚染の水海洋放出反対/避難指示地域の医療費無料措置継続
12月11日、政府交渉報告
2020年10月23日に予定されていた政府の海洋放出方針の決定は、福島県をはじめ全国の反対により見送られました。
海洋放出の問題点を更に追及するために、12月11日、脱原発福島県民会議等8団体は政府交渉を行いました。
新型コロナウイルスの感染が危惧されたことから、会場参加者は8団体関係者に限定し、zoomによるオンライン参加で補いました。
主催:脱原発福島県民会議、双葉地方原発反対同盟、原水爆禁止日本国民会議、原子力資料情報室、全国被爆2世団体連絡協議会、原発はごめんだ!ヒロシマ市民の会、チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西、ヒバク反対キャンペーン
1.トリチウム汚染水海洋放出の問題点
経産省との交渉
冒頭に、福島県平和フォーラムの共同代表の志賀さんが、福島からの訴えを述べられました。
交渉の主な追及点と経産省の見解
追及点1 漁協との約束を守れと、これまでに続き追及しました。
@ | 漁協は、ALPS処理水を増やさない、ALPS処理水を海洋放出しないということで、苦渋の選択としてサブドレインや地下水バイパスの地下水海洋放流を認めた。 |
A | 地下水のうち濃度の高いものはタンクに保管する。薄めて海洋放出しないという運用基準が設けられている。 |
B |
昨年11月に新聞報道された、「ALPS処理水については関係者の理解を得ることなくしていかなる処分も行わない」とする県漁連への経産省文書回答を取り上げ追及しました。 2015年1月7日の廃炉・汚染水対策福島評議会で、福島県漁業協同組合連合会野ア代表理事会長の質問に対して、糟谷廃炉・汚染水対策チーム事務局長補佐は「関係者の方の理解を得ることなくしていかなる処分もとることは考えておりません。」と答弁しています。 これまでの交渉で経産省は、中長期ロードマップに沿って進めると繰り返し回答してきました。 中長期ロードマップでは「液体廃棄物については、地元関係者の御理解を得ながら対策を実施することとし、海洋への安易な放出は行わない。海洋への放出は、関係省庁の了解なくしては行わないものとする。」となっています。 これは「関係者の理解を得ることなくしていかなる処分も行わない。」とはずいぶん違います。 今回は経産省の文書回答を取り上げ、改めて、「約束を守れ」と厳しく追及しました。 |
参考資料 2015年8月24日県漁連への経産省文書回答抜粋 | |
4. | 建屋内の水は多核種除去設備等で処理した後も、発電所内のタンクにて責任を持って厳重に保管管理を行い、漁業者、国民の理解を得られれない海洋放出は絶対行わないこと。 |
(回答) | |
・ | 建屋内の汚染水を多核種除去設備で処理した後に残るトリチウムを含む水については、現在、国(汚染水対策委員会トリチウム水タスクフォース)において、その取扱いに係る様々な技術的な選択肢、及び効果等が検証されております。また、トリチウム分離技術の実証試験も実施中です。 |
・ | 検証の結果については、漁業者をはじめ、関係者への丁寧な説明等必要な取組みを行うこととしており、こうしたプロセスや関係者の理解なしには、いかなる処分も行わず、多核種除去設備で処理した水は発電所敷地内のタンクに保留いたします。 |
経産省の見解
(@)「地下水とALPS処理水は分けて考えるべきもの」と回答しました。
サブドレイン、地下水バイパス等の地下水放流に当たっては運用基準等が設けられ守られてきたことは否定できず、「薄めて放出しない」などの約束がALPS処理水に及ばないように意図したごまかし回答です。
(A)ALPS処理水に関する「関係者の理解を得ることなくしていかなる処分も行わない」との約束については、「ALPS処理水を放出しないと約束したものではない。今後とも理解を得ることに努める。」と回答しました。
・「ALPS処理水を放出しないと約束したものではない。」という見解は一方的なものです。
・2021年4月7日の菅首相との面会で全漁連岸会長は「反対の考えはいささかも変わるものではない」と述べており、そもそも理解を得ている状況ではありません。
・今後とも、ALPS処理水に関する約束を守れと追及していく必要があります。
(B)経産省文書回答は政府内で共有されているかについては、「共有されている」との回答でした。
追及点2 事故後に出るがれきや汚染水による敷地境界線量の評価値が年1mSv以内なら海洋放出は認められるとの見解を批判しました。
指摘した問題点には触れず、放出基準を満たすとの回答が繰り返されました。
福島第一原発は特定原子力施設に指定されており、その「イチエフ規則」では実用炉規則で定められている「敷地外線量年1mSv以下」が適用されています。福島第一原発の敷地境界線量は現在も10mSv/年のレベルであり、これを敷地外線量の評価から除外できるとの規定はありません。事故時に放射性物質をまき散らした上に、更に汚染水を海洋放出することは許されないと批判しました。
農林水産省との交渉
交渉の目的
農林水産省との交渉は今回初めてです。農林水産省は昨年10月23日の廃炉・汚染水対策チーム会合で、「漁業関係者の強い反対を踏まえ、農林水産業者の復興に向けた努力に水を差すことにならないような処分方法を検討すること」との意見を述べています。
今回の交渉では、@この意見表明の趣旨を確認し、Aそれが政府でどのように受け止められているのか、B農林水産省として、10月23日の意見表明が政府の方針に反映されるようどのような努力をするのか、C経済産業省が糟谷答弁および県漁連への文書回答で「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない。」としていることは政府内で共有されているのか、を取り上げました。
参考資料 2020年10月23日の廃炉・汚染水対策チーム会合で、葉梨康弘農林水産副大臣は、「『ご意見を伺う場』においては、農林水産関係者が放出した場合の風評被害等を懸念しております。特に水産関係者は、海洋放出に強く反対の意見を表明しています。」と、こうした反対の声を紹介し、「漁業関係者の強い反対を踏まえ、農林水産業者の復興に向けた努力に水を差すことにならないような処分方法を検討すること」と意見表明しています。 |
・政府内に広げることの確約はなかったが、我々の要求については理解する旨の発言がありました。
・県漁連との約束(経産省の文書回答)については農水省の出席者は知らないとのことでした。
原子力規制委員会との交渉
事故後に出るがれき等からの放射線を含めて敷地境界の追加線量の評価値が年1mSv以内なら海洋放出は問題ないとの見解について批判
論点
政府は福島第一原発を特定原子力施設に指定し、東電に措置を講ずべき事項を指示し、その中で、事故後に出るがれき等からの放射線を含め敷地境界の評価値を年1mSv以内とするよう求めています。
しかし、「線量告示」の上位規則の「イチエフ規則」では実用炉規則で定められている「敷地外線量年1mSv以下」が適用されると明記されています。福島第一原発の敷地境界線量は現在も10mSv/年のレベルであり、これを敷地外線量の評価から除外できるとの規定はありません。従って、指示事項で定めた年1mSv以内を守っていれば汚染水の放出は問題ないとする見解は法律違反です。
主な追及点
@敷地境界線量が年10mSvレベルである。
A線量告示は、自然放射線以外を除き、敷地外の線量を年1mSv以下と規制。
B敷境界の線量評価に当たって、自然放射線の除外のみで、事故による線量は除外されるという規定はない。
規制庁の回答
「イチエフ」では「敷地外線量年1mSv以下」を遵守できない状態である。実用炉の運転に際しては運転に伴う放射線を規制している。今の福島第一原発は特定原子力施設で廃炉を進めており、そのための規制である。公衆の被ばく線量限度年1mSvを担保していないというが、福島第一原発周辺に公衆は不在である。
回答の批判
・「イチエフ」の敷地外線量の基準は実用炉規則で定められている「敷地外線量年1mSv以下」が適用されている。
・敷地外線量の基準は福島第一原発周辺に公衆が居住しているか否かにかかわりなく定められている。
2.帰還困難区域等住民の保険料・医療費一部負担の免除措置長期延長要請
復興庁、厚生労働省との交渉
(1)要望書の再提出
新たに53団体を追加して要望書を再提出しました。賛同は8団体を含め106団体
要望書のダウンロード ⇒ 106団体連名の要望書(2020年12月11日)
(2)交渉
前回交渉では、質問に対する具体的な回答がなかったので、より具体的に問題点を指摘し再質問しました。
(@)「見直し」はどのような経緯で出てきたのかと追及し、経緯が改めて明らかになりました。
・自治体からは延長の要望が出ていたし、今も出ている。
・自民党から見直し論が出た。
・復興庁と関係省庁が原案を作成し、有識者会議の論議を経て閣議決定された。
「無料化措置長期継続の取り組み」を自治体も含めて強めていきましょう。
(A)住民を被ばくさせた政府の責任において、健康保障すべきと追及
回答:「国の責任」問題は内閣府(原子力災害対策本部)の担当であり、復興庁としての見解は差し控える。
(B)@今も自治体からの強い要望が続いており、見直しはそれに反するものであること、A復興庁の事業レビューでも、「ニーズが大きく、国が負担すべき」と積極的に評価されていること、を指摘し、延長すべきと追及しました。
回答:事業レビューシートの中でも、状況の変化を踏まえて検討するようにと指摘されている。
(C)避難指示地域以外では2011年8月に国の支援が8割に減らされ、岩手県以外では無料化措置は消滅したという現実を直視すべきだ。
回答:窓口負担の減免措置につきましては市町村の判断で行うことが可能となっております。財政負担が厳しい場合は、全額負担の廃止された市町村におきましても、負担増加分の10分の8を国が支援することになっております。今回の見直しにあたりましては、さきほども述べた通り、当該自治体のご意見をよくお聞きながら、調整を図りながら検討してまいりたいと思います。
その後明らかになったこと
・無料化措置が、2021年2月末から更に1年間延長されることが決まり、福島県ホームページ等に公表されています。
・2021年3月9日に閣議決定された「『復興・創生期間』後における東日本大震災からの復興の基本方針」で、再び「見直し」が明記されています。下線部が追加されたのみで、交渉で要求したことは反映されていません。
適切な周知期間を設けつつ、激変緩和措置を講じながら
、「適切な見直しを行う。