厚生労働省は直ちに長尾さんの労災申請を認定せよ」の声を全国に広げよう!
原発被曝労働者に発症した多発性骨髄腫を労災認定に!
福島第一原発2・3号機、浜岡原発1・2号機、新型転換炉ふげんで、配管工事や現場の監督をして放射線被曝した、元石川島プラント建設正社員の長尾光明さん(77歳)は、離職10年後頃から体調不良となり、離職17年後の1998年に血液(形質細胞)の癌の一種である多発性骨髄腫を発症した。
長尾光明さん(大阪市西淀川区在住)は、2003年1月に、「多発性骨髄腫の発症は原発内の被曝労働に起因する」として、福島県の富岡労働基準監督署に労災認定を申請した。申請は現在、本省への「りん司」扱いにおかれている。長尾さんは体調不良を自覚してから少なくとも4つの医療機関を受診し、労災申請までに実に10年もの年月が費やされ、申請から既に半年が経過している。
多発性骨髄腫は白血病類似の疾病で、放射線起因性がある。長尾さんの「放射線管理手帳」には、1977年から1982年1月までの4年3ヶ月間に、70mSv(7レム)の被曝をしたことが記録されている。長尾さんの被曝線量は白血病の労災基準の3倍以上にも達している。
厚生労働省は労働者保護の立場に立ち即刻労災に認定するべきである。
「私の後に続いてほしい。そのためにも勝たなくては。」
目次
ページ
1 「私の後に続いてほしい。そのためにも勝たなくては。」 長尾さんの労災申請の意義
2 被曝労働の健康影響
3 放射線被曝と多発性骨髄腫
放射線被曝の影響
多発性骨髄腫はどのような病気か
4 被曝労働者の多発性骨髄腫は被曝線量に関係がある...日本の調査結果
原爆被爆者に発生している多発性骨髄腫
5 多発性骨髄腫の死亡率と被曝線量に有意な相関
ハンフォード、オークリッジなど米原子力施設労働者の調査でも
6 長尾さんの疾患と放射線被曝との因果関係について
7 厚生労働省は、労働者保護の立場にたち、長尾さんの労災申請を業務上疾病として認定せよ
8 電離放射線に係わる疾病の業務上外の認定基準(基発第810号)
9 労働者保護の観点に立った認定業務を行わせよう
10 全国の原発被曝労働者の健康補償を行わせよう。
「私の後に続いてほしい。そのためにも勝たなくては。」
長尾さんの労災申請の意義
「たくさんの労働者が原発で働いている。病気になった、被曝のせいではと訴える人がなぜこんなに少ないのか?」と長尾さんは問いかける。
日本で原子力発電所が稼動して30年以上を経過するが、原発労働者が被曝労働に起因する疾病に罹患したとして、労災申請をした事例は、長尾さんを含めて、1975年の岩佐嘉寿幸さん以後わずか14名に過ぎない(このうち3名はJCO臨界事故関連)。
その理由は、過去に多くの人々が指摘してきたように、原発労働者は被曝したという事実を証明する「放射線管理手帳」を持たない、健康管理がなされていない、被曝記録の保存期間が5年と極めて短く、被曝と健康障害との因果関係を証明することが困難であるという、過酷な労働環境と不充分な労働行政にある。
また、業務上疾病として労災認定された5名は、いずれも白血病であり、その他の疾病はいずれも却下されており、白血病以外の疾病には、労災申請は極めて狭い門戸しか開放されていない。
このような中で、長尾さんが過去に申請されたことのない「多発性骨髄腫」という疾患で労災申請をしたことは、労災認定の狭い門をこじ開けるためにも大きな意義がある。
「私の後に続いてほしい。そのためにも勝たなくてはいけない。」と長尾さんは現在の気持を語る。
表1 原発・核燃料施設労働者の労災補償申請・認定状況 (「脱原発情報」№52号より作成)
申請日 決定日 |
結果 | 疾病名 | 期間 被曝線量 |
労基局 | 施設名 | 備考 |
75.3.19 75.10.9 |
不支給 | 皮膚炎 | 敦賀 | 原電敦賀 | 配管加工 ・岩佐嘉寿幸さん | |
82.5.31 | 不支給 | 白血病性悪性リンパ腫 | 松江 | |||
88.9.2 81.12.26 |
支給 |
慢性骨髄性白血病 | 11ヶ月 40mSv |
富岡 |
福島第一 |
配管腐食防止作業 |
92.12.1 94.7.27 |
不支給 | 急性骨髄性白血病 | 神戸西 | |||
92.12.14 94.7.27 |
支給 |
急性骨髄性白血病 | 87.7-92.12 5年5ヶ月 |
神戸西 |
玄界・大飯・高浜 | 定期検査作業 |
93.5.6 94.7.27 |
支給 |
慢性骨髄性白血病 | 81.3~89.12.8 8年10ヶ月 50.63mSv |
磐田 |
浜岡 |
計測装置点検作業 |
96.5.27 | 不支給 | 再生不良性貧血 | 富岡 | |||
97.5.16 | 不支給 | 慢性骨髄性白血病 | 富岡 | |||
98.12.22 99.7.30 |
支給 |
急性リンパ性白血病 | 87.12~97.1 約12年 129.8mSv |
日立 |
福島第一、東海、島根 | 日立市電機メーカー作業員・装置点検従事 人間ドックで発見 |
99.10.20 99.10.26 |
支給 | 急性放射線症 | 1~4.5Sv | 水戸 |
JCO東海事業所 |
臨界事故被曝 |
99.10.20 99.10.26 |
支給 | 急性放射線症 | 6.0~10Sv | |||
99.10.20 99.10.26 |
支給 | 急性放射線症 | 16~20Sv | |||
99.11.20 00.10.24 |
支給 |
急性単球性白血病 | 88.10~99.10 約12年 74.9mSv |
富岡 | 福島第一・第二、東海第二 |
配管・架台・構造物等の溶接作業に従事。自ら受診 |
03.1.31 審査中 |
多発性骨髄腫 | 77.10~82.1 4年3ヶ月 70mSv |
富岡 | 福島第一、浜岡 | 濃縮廃液系配管・格納容器内定検作業 |
長尾さんの被曝した集積線量は70mSvです(詳細はこの後に記載)。
被曝労働者全体の中で、この被曝線量が持つ意味を見てみましょう。
原子力発電施設等放射線業務従事者に係る疫学的調査結果(財団法人放射線影響協会)によれば、第Ⅱ期調査(平成7~11年度)の対象となり、生死が確認できた被曝労働者17万5939人のうち、50mSv以上被曝した労働者は11551人です。
長尾さんの労災を認定させることにより、この人たちへの労災認定の道が開けます。
表2 日本の被曝労働者の線量別分布(第Ⅱ期調査)
累積線量群 (mSV) |
<10 |
10- |
20- |
50- |
100+ |
合計 |
人数(人) |
131,807 |
16,309 |
16,270 |
7,390 |
4,161 |
175,939 |
割合(%) |
74.1 |
9.3 |
9.2 |
4.2 |
2.4 |
100.0 |
平均累積 線量(mSV) |
1.6 |
14.3 |
31.6 |
69.8 |
154.0 |
12.0 |
注)中央登録センターに線量記録がある等一定用件に該当する労働者24万4千人
被曝労働の健康影響
長尾さんは、1977年から1982年1月までの4年3ヶ月間に、現場の監督、熟練労働者として、福島第一原発2号機で原子炉建屋の配管追加工事、SCC対策改良工事、建屋遮蔽工事、MSSR弁補修、モノレール新設工事に従事した。また新型転換炉ふげんの定検期間の作業、浜岡1・2号機濃縮廃液系改良工事にも従事した。
この間の外部集積線量として1977年度に16.70mSv、78年度に10.70mSv、79年度に13.00mSv、80年度に5.6mSv、81年度に24.00mSvと、合計70mSv(7レム)の被曝をした。
この被曝線量は、その当時の各原発における社員の年平均被曝線量の3倍~8倍も多い。また、その他の労働者(臨時・下請け労働者など)は正社員と比較して被曝線量が高い区域での労働を強いられているが、その下請け労働者と比較しても1.5倍~3.5倍の高さになっている。
表3 長尾さんの労働と被曝線量
年度 |
日数 (日) |
被曝線量 (mSv) |
施設 作業内容 |
年間平均被曝線量 (mSv) | |
社員 | その他の 労働者 | ||||
1977 1978 1979 1980 1981 |
114 66 250 73 214 |
16.70 10.70 13.00 5.6 24.00 |
福島第一 2号機 原子炉建屋配管追加 工事 福島第一 2号機 SCC対策改良工事 福島第一 2号機 原子炉建屋遮蔽工事 ふげん 定期検査。 浜岡 1,2号機 濃縮廃液系改良工事 福島第一 2号機 MSSR弁補修、モノレ ール新設 |
3.6 3.7 3.2 1.1 2.7 3.0 |
4.7 7.4 5.8 2.2 2.2 6.6 |
この時期の長尾さんの健康状態について、長尾さんの「放射線管理手帳」と自身の克明な被曝・健康記録から拾ってみると、白血球数が被曝労働の開始前後に徐々に増加していることが分る。この白血球数の増加が直ちに放射線被曝の結果であるとは断定できないが、原発内での作業による慢性的な放射線被曝が徐々に長尾さんの骨髄に影響を及ぼしていた可能性は否定できない。
表4 白血球数の変化(基準値は約5000
- 8300/μl)
年度 | 77年度 | 78年度 | 79年度 | 80年度 | 81年度 |
線量(mSv) | 16.70 | 10.70 | 13.00 | 5.60 | 24.0 |
白血球数 (μl当り) |
6800 | 6700-6800 | 7500 - 10300→ 8200 |
8900-8600- 9000 |
8600 |
放射線被曝と多発性骨髄腫
多発性骨髄腫はどのような病気か
骨髄腫は免疫に関係する血液の細胞(形質細胞)が腫瘍化したもので骨髄に局在しつつ全身の骨髄に多発するために多発性骨髄腫といわれる。日本では年々高齢者に増加しており、慢性に経過して貧血や疼痛、腎不全を起こし急速に死亡にいたる例もある。骨髄腫細胞から産生されるM蛋白が多くの臓器に障害をもたらし、骨では腫瘍細胞から遊離する物質のために全身的な骨破壊が起こる。そのために、転倒や打撲をすることなく骨折をしたり(病的骨折)して突然発見されることが多い。
多発性骨髄腫は骨髄の被曝によって起こる白血病と類縁の疾患である。
図1 白血病とその類縁疾患
放射線被曝の影響
多発性骨髄腫の原因については、遺伝説、胆嚢炎や骨髄炎などの慢性的な刺激説、広島・長崎の原爆被爆者に発生率が高いことから放射線・放射能説、遺伝子変異説が唱えられている。
今日、広島・長崎の原爆被爆者に多発性骨髄腫が多く発生していることは、遺伝子変異の物理的要因である放射線と多発性骨髄腫の間に関連があることを裏付けるものである。また、国内外の原子力労働者に多発性骨髄腫が多く発生しているという、疫学調査結果が報告されている。
被曝労働者の多発性骨髄腫は被曝線量に関係がある...日本の調査結果
我が国における原子力労働者の多発性骨髄腫発生の実態は、原子力発電施設等放射線業務従事者に係る疫学的調査結果(財団法人放射線影響協会)の第1期(平成7年3月)、第2期(平成12年12月21日付け)報告で、その深刻な実態を不十分ながら、垣間見ることが出来ます。
第2期報告によれば、調査対象になった期間内(平成7-12年)に、8人の原発労働者が多発性骨髄腫で死亡している(白血病は60名)。その内訳は、10mSv未満で6名、50-100mSvで1名、100mSv以上で1名です。被曝線量毎に分類された集団における多発性骨髄腫での実際の死亡者数/死亡期待値(O/E値)は、線量が増える毎に増加しています。
この事実に対して調査結果報告書は、「多発性骨髄腫は、住所地を調整した解析では有意な傾向性を認めたが、症例数が極めて少ないので放射線との関係を論ずる段階にはない」と結論づけています。一方で、報告書が英文で公表されており、Iwasakiらは、要約で、「白血病を含む多くの癌では集積線量と死亡率の間に量反応関係は認めなかった。但し、食道・胃・直腸・多発性骨髄腫では正の相関関係があった」と報告しています。
表5 被曝労働者の多発性骨髄腫(第2期報告書) 前向き調査:潜伏期を0年と仮定
被曝線量区分 | 10mSv未満 | 10~20mSv | 20~50mSv | 50~100mSv | 100mSv以上 |
死亡数 O/E値 |
6名 1.00 |
0名 0 |
0名 0 |
1名 3.63 |
1名 7.22 |
現時点において、原子力労働者に関する国内の唯一の「公的な」疫学調査結果からみても、多発性骨髄腫は、放射線被曝線量と死亡率の間に相関関係がある悪性新生物であるということは明白です。
原爆被爆者に発生している多発性骨髄腫
広島・長崎の原爆被爆者に多発性骨髄腫が多く発生していることは、原爆被爆者の寿命調査や成人健康調査結果からも明らかです。
被爆者の癌・白血病を始めとする健康影響を広範囲に記述している成書である「原爆放射線の人体影響1992」は、多発性骨髄腫に関して、「高齢化社会に入りつつある現在では本症は増加傾向にある造血器腫瘍の一つであり注目されている」と記載され、「骨髄形質細胞への放射線障害による腫瘍発生は、病変の場が同じ骨髄である白血病が被爆者に多発したことを考え合わせると放射線による晩発障害の一つとして念頭におくべきである」と総説しています。
さらに、京都原爆症訴訟公判で明らかになった「厚生省原爆医療審議会による認定基準(内規)平成6年9月19日」によれば、「原爆放射線起因性のあるとみなせるもの」として、胃癌、結腸癌、卵巣癌につづいて多発性骨髄腫が記載されています。
このように、放射線被曝集団としては最も多数で、長期的に疫学調査がなされている原爆被爆者において、多発性骨髄腫が多発し、これを放射線に起因する血液疾患とみなしていることは明らかです。
原爆被爆者を苦しめている国の厳しい認定基準によっても、多発性骨髄腫については17例が原爆症に認定されています。
表6 原爆症の認定状況(多発性骨髄腫、平成5年度~平成10年度)
№ |
年度 |
認定年月日 |
審査会日 |
被爆線量(rad) |
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 |
H 5 H 5 H 5 H 5 H 5 H 6 H 7 H 8 H 8 H 8 H 9 H 9 H10 H11 H12 H12 H13 H14 |
H5.8.5 H5.8.5 H5.8.5 H6.1.31 H6.3.31 H6.8.31 H7.6.29 H7.11.9 H8.10.18 H8.12.18 H9.4.8 H10.2.9 H10.8.14 H12.3.29 H12.7.19 H13.2.2 H13.10.18 - |
H5.6.14 H5.6.14 H5.6.14 H5.12.6 H6.3.7 H6.7.4 H7.5.22 H7.9.25 H8.10.7 H8.12.2 H9.3.10 H9.11.10 H10.5.25 H12.1.24 H12.6.5 H12.12.25 H13.7.25 - |
0.6 7.2 12.8 22.4 49.6 415 720 291 1418.34 95 50 22 15 170 19 79 555 該当なし |
注1)平成15年4月10日作成。厚生労働省健康局総務課の10年保存(平成5~14年度)資料
2)平成13年5月から「原爆症認定に関する審査の方針」が審査基準となっている。
3)平成14年度は該当者なし。
多発性骨髄腫の死亡率と被曝線量に有意な相関
ハンフォード、オークリッジなど米原子力施設労働者の調査でも
クリントン/ゴア調書
1 アメリカエネルギー省(DOE)関連施設労働者の疫学調査とその救済策に関するクリントン/ゴア調書によれば、核兵器関連施設の従業員の疫学調査で、22種類のガンが一般国民と比較してより高率に発生していることが確認されました。その労働者の累積線量の平均値は30mSvでした。
このなかで、ハンフォード原子力施設労働者の集計では、膵臓癌と多発性骨髄腫については線量と死亡率の間に統計的に有意な相関がみられたと記載されています。
オークリッジ国立研究所労働者の調査
2 オークリッジ国立研究所で働いた1万4095人の労働者における低線量放射線被曝と死亡率の間の関係についての調査(Richardson, Wingら)では、45歳を過ぎて被曝した線量が多ければ多いほど、また潜伏期間を長く仮定すればするほど、死亡原因が癌である事が明らかとなりました。
調査は、全癌死亡率は、10年間の潜伏期間を考慮して、45歳以後に被曝した集積線量、10mSv当たり4.98%増加すること。20年の潜伏期間を考慮すると、45歳以後に受けた累積線量、10mSv当たり7.31%増加すること。これらは、低レベルの放射線被曝と癌死亡率の増加の間には相関関係があることを示唆し、高齢(45歳以後)での被曝が電離放射線被曝の癌原性効果に対してより高い感受性を示す可能性があると報告しています。
線量と死亡の増加の関係は、多発性骨髄腫および白血病(慢性リンパ性白血病以外)について、95%の信頼性で明らかとなりました。また、すべての白血病については、90%の信頼性で認められました。
表7 線量ごとの観測された死亡数と期待値の比(上:観察値 中:期待値 下:観察値/期待値)
線量(mSv) | 0 | 10~ | 20~ | 50~ | 100~ | 200~ | 400~ | 死亡合計 | 結果(p) |
全ガン 観察値/期待値 |
2317 2317.3 1.00 |
483 483.5 1.00 |
465 494.7 0.94 |
285 263.2 1.08 |
201 196.8 1.02 |
165 151.5 1.09 |
60 69.9 0.86 |
3976 |
-0.02 (0.508) |
白血病以外のガン 観察値/期待値 |
2234 2228.3 1.00 |
462 465.4 0.99 |
445 476.9 0.93 |
276 254.3 1.08 |
196 190.5 1.03 |
161 147.5 1.09 |
56 67.3 0.83 |
3830 |
-0.28 (0.609) |
多発性骨髄腫 観察値/期待値 |
28 26.6 1.05 |
3 5.2 0.58 |
1 4.7 0.21 |
5 2.7 1.85 |
3 2.1 1.43 |
2 1.9 1.05 |
2 0.8 2.50 |
44 |
1.87 (0.037) |
すべての白血病 観察値/期待値 |
72 75.7 0.95 |
23 21.2 1.08 |
20 21.8 0.92 |
12 11.3 1.06 |
9 7.8 1.15 |
4 5.5 0.73 |
6 2.6 2.31 |
146 |
1.43 (0.076) |
慢性リンパ性白血病以外の白血病 観察値/期待値 |
60 62.0 0.97 |
19 17.2 1.10 |
14 17.4 0.80 |
8 9.0 0.89 |
8 6.4 1.25 |
4 4.7 0.85 |
6 2.3 2.61 |
119 |
1.85 (0.046) |
注)白血病は死亡時から2年間、他のガンは死亡時から10年間の潜伏期間を設定した。
図2 被曝線量と癌死亡率の関係
被曝線量に対するがん死亡率の増加は45歳以後で被曝したグループが大きい。
さらに詳しい調査・分析
3 その後、ノースカロライナ大学のウィングらは、累積被曝線量が 50mSvを超すと多発性骨髄腫の発生率が高まることを報告しています。累積線量が50mSvを超える者と10mSv以下の者では、多発性骨髄腫による死亡率に相対的に約3.5倍の開きがあった。累積被曝線量が同じでも、高年齢になって被曝線量が増えた労働者は、若い時期に被曝線量が多かった労働者に比べ、発生率が高い傾向があります。
表8 多発性骨髄腫による死亡率のオッズ比 (この場合は相対リスクを示す)
区 分 | 10mSv未満 | 10~50mSv未満 | 50~100mSv未満 | 100mSv以上 |
オッズ比 | 1.0 | 0.77 | 3.55 | 5.15 |
ベータ (標準誤差) |
Reference |
-0.26 (0.54) |
1.27 (0.81) |
1.64 (0.66) |
ケース/コントロール | 83/341 | 5/31 | 3/7 | 7/12 |
表 ● オッズ比とは、相対リスクで被曝の危険性を示すものです。
の つまり、被曝によって死亡率が高くなっているかどうかを示しています。
見 オッズ比は、脚注2)の補正を施して計算してあります。
方 ● ベータ - 標準偏差 >0 であれば、有意さがあります。
50~100mSvの被曝量では、1.27-0.81=0.46となり、
この被曝線量域では統計的に有意に多発性骨髄腫で死亡することになります。
● ケース/コントロールは、死亡率が線量と共に増加することを示しています。
こちらは補正なし。
-----------------------------------------
注 1) 45歳以上からの被曝、5年間のタイムラグ。
2) 誕生日、人種、性別、最も長く働いた施設、内部各種モニタリング、等の補正を施している。
-----------------------------------------
このように、多発性骨髄腫は、アメリカの原子力施設労働者のなかでも労働者の線量限度とされている年間50mSvという集積線量でも、被曝線量の低い労働者と比べて、発生率が高いことが示されています。
特に比較的高齢(45歳以上)から被曝労働に従事した場合に、放射線に高い感受性を示すことが示されています。
長尾さんの疾患と放射線被曝との因果関係について
長尾さんの年間被曝線量は、当時の放射線作業従事者の平均被曝線量の最低1.5倍から最大3.5倍であったこと、長尾さんが罹患している多発性骨髄腫は、骨髄の癌(血液疾患)として考えられるべき悪性疾患であること、慢性的放射線被曝に起因する血液疾患である多発性骨髄腫を発症するに相当する放射線を被曝していることから、長尾さんは、原発内での被曝労働によって多発性骨髄腫を発症した「労災」として認定されるべきです。
我が国の被曝労働者では、過去に白血病に罹患した5人が業務上認定されており、その人達の累積線量は40-129.8mSvです。長尾さんの場合は、5年間の総被曝線量は70mSv、年間平均被曝線量は16.47mSvです。これは、白血病の労災認定基準の一つである、年平均被曝線量基準の3倍以上に達する線量であると同時に、これまで白血病で業務上認定されている人達の年平均被曝線量を超える数値を示しています。アメリカの調査結果では、累積線量50mSvレベルの集団では10mSv以下の集団に比べて多発性骨髄腫の発症のリスクが3.5倍高い。累積線量が70mSvの長尾さんの場合は多発性骨髄腫発症の危険性が高いことを示しています。
表9 長尾さんの被曝線量と白血病で業務上認定されている人達の年平均被曝線量
番号 | 病名 | 集積線量 (mSv) | 作業期間(ヶ月) | 年平均線量 (mSv) |
3 5 6 9 13 |
慢性骨髄性白血病 急性骨髄性白血病 慢性骨髄性白血病 慢性リンパ性白血病 急性単球性白血病 |
40 不明 50.63 129.8 74.9 |
11 65 104 144 132 |
44 不明 5.6 10.08 6.8 |
長尾さん | 多発性骨髄腫 | 70 | 51 | 16.47 |
以上のように、長尾さんの累積被曝線量が、白血病で業務上認定された労働者の累積線量よりも多いことと、これが、多発性骨髄腫の発生頻度、死亡率を上昇させるに足る線量であること、年平均線量も白血病として業務上認定された被曝労働者よりも多いこと、当時の他の放射線業務従事者よりも多くの放射線被曝を毎年のように受けていたことを重視して、長尾さんの多発性骨髄腫は、原発内での被曝労働によって発症した「労災」として認定されるべきです。
厚生労働省は、労働者保護の立場にたち、長尾さんの労災申請を
業務上疾病として認定せよ。
被曝労働による疾病の労災認定は「電離放射線に係る疾病の業務上外の認定基準」(基発第810号)によって行われてきました。長尾さんの多発性骨髄腫が放射線作業に起因する業務上疾病であることは、これまで説明してきたとおり、現行の認定基準に則っても明らかです。
電離放射線に係わる疾病の業務上外の認定基準(基発第810号 昭和51年11月8日) 放射線障害に対する認定は、電離放射線に係わる疾病のうちで、以下に掲げる電離放射線に 係わる疾病業の務上外の認定基準(基発810号-昭和51年11月8日)に基づいて行われる。 (1)急性放射線障害 急性放射線症、急性放射線皮膚障害、その他の急性局所放射線障害 (2)慢性的被曝による電離放射線障害 放射線皮膚障害、放射線造血器障害 (3)電離放射線による悪性新生物 白血病 外部被曝によるもの 皮膚癌、甲状腺癌、骨の悪性新生物 内部被曝によるもの 肺癌、骨の悪性新生物、肝臓・胆道系の癌、甲状腺癌 白血病に関する業務上認定基準 (1)相当量の電離放射線に被曝した事実があること。 相当量とは、0.5レム×電離放射線被曝を受ける業務に従事した年数 (注:0.5レムは5mSv) (2)被曝開始後少なくとも1年を超える期間を経た後に発症した疾病であること。 (3)骨髄性白血病又はリンパ性白血病であること。 |
労働者保護の観点に立った認定業務を行わせよう
クリントン/ゴア調書の結論
クリントン/ゴア調書は、以下の3条件が揃っておれば補償を行うという結論に達した。
①その労働現場で癌がSMRで有意に高い頻度で発生していること
②被曝をする労働現場で働いていたこと
③被曝が原因で生じる癌に罹っていること
その理由は、「調査を行った全期間中で発生した、3000人の発癌者・癌死者が、放射線被曝以外の原因で発生したとどうやって証明できるのか。被曝線量の測定や保存が不適切であり、データそのものが残っていないという不公平も存在する。全期間の集積線量をもとに、100人Sv/年で1名のガン死者が出ると予想すると、約440人の過剰死が生じると計算される。この440人を選別し、一人一人の癌死が被曝に起因することを証明しょうとするために極めて厳格な高い線量基準(閾値)を設定せざるを得ないし、そうしてきたという現実がある。しかし、それでは、労働者の補償に関して不公平が生じる。」という大きな反省によるものです。
米エネルギー省関連の被曝補償の対象となっている疾病(ウラン鉱山作業者の場合)
...多発性骨髄腫が含まれている
●骨癌 ●腎臓癌 ●白血病(慢性リンパ球性白血病を除く) 最初の被曝から少なくとも2年後以降に発症の場合 ●肺ガン ●下記のうち1つ 最初の被曝から少なくとも5年後以降に発症の場合 多発性骨髄腫 リンパ腫(ホジキン病をのぞく) 原発性癌 甲状腺、胸部、食道、胃、いん頭、小腸、すい臓、胆管、胆嚢、唾液腺 膀胱、脳、結腸、卵巣、肝臓 (肝硬変、B型肝炎を除く) |
これまでの日本の原子力労災行政は、被曝労働者の救済よりも、健康被害の隠蔽・切り捨てという側面が前面に出ています。基本的には、基発第810号の基礎にある考え方は、社会的に容認される水準までは被曝による労働者の死を容認せよというもので、労働者の命を金勘定するということに大きな問題があります。また、基発第810号が作られた当時に比べ、現在は放射線の影響はほぼ10倍かそれ以上大きく評価されており、少なくとも認定基準を10分の1に切り下げる必要があります。
今後の認定業務については、労働者保護の観点から、基本的にクリントン・ゴア調書と同様の観点で行うべきであり、我々は、被曝反対・被曝労働者救済の立場でこのような原子力行政への転換を運動の力で迫っていく必要があります。
全国の原発被曝労働者の健康補償を行わせよう
長尾さんの被曝労働から労災申請までの経過を見ると改めて、労災申請を行うためにはいくつもの障壁があったことが分かる。
長尾さんが体調不良を覚えてから、多発性骨髄腫の発症・治療、労災申請に至るまでに少なくとも4つの医療機関を受診し、10年の年月が費やされた。放射線被曝労働は労働安全衛生法の有害業務に含まれていないために、被曝労働者は離職後、まず自費で健康管理をしなければならない。これらの問題を解決するために、国は放射線被曝労働を有害業務と認め、健康管理手帳を発行し、健康診断経費の補償と放射線障害に対し適切な診断・治療の行える医療機関の充実を行うべきです。
疾病が業務上であると認定されるためには被曝記録が必要とされる。長尾さんの場合、放射線管理手帳を手元に所持していて詳細な被曝記録が残っていたことが労災申請に踏み切る上で大きな役割を果たしました。長尾さんは離職17年後に発症しています。長尾さんの場合を教訓にし、被曝から長期間経過後の発症にも対応できるよう、放射線管理手帳の保存期間を現行の5年から大幅に延長し、永久保存にする必要があります。
具体的には以下のことを迫っていく必要があります。
(1)放射線被曝労働を労働安全衛生法の有害業務に加えること
(2)健康管理手帳を交付し、国の責任で健康管理を行うこと
(3)放射線管理手帳を現行の5年保存から永久保存にすること
(4)放射線障害に対し適切な診断・治療の行える医療機関を充実させること
「厚生労働省は直ちに長尾さんの労災申請を認定せよ」の声を全国に広める上で役立つことを願って、このリーフレットを作成しました。間違いや不十分点などお気づきの点、また、学習会等の反響、追加情報などお知らせください。 | 発行:2003年8月4日
作成:ヒバク反対キャンペーン 連絡先 〒591-8691 堺市堺金岡郵便局私書箱17号 E-mail hibaku-hantai@nyc.odn.ne.jp ホームページ http://www1.odn.ne.jp/hibaku-hantai/ 頒価:300円 |