●東電福島第1原発と除染で26万~31万人規模の被ばく労働者が生み出された
福島第一原発 | |
・ | 福島第1原発の「緊急時作業」に、2011年3月に4千人が、同年12月までに2万人が |
従事した。 | |
・ | 線量管理期間の2016年3月末までに総数4万6977人に膨れ上がっている。 |
次の線量管理期間では2021年3月末までに2万5024人が従事している。 | |
更に、次の線量管理期間では2022年7月末現在、1万1402人が従事している。 | ・ | 単純合計は約8万3千人で、重複を考慮すると、福島第1原発の作業従事者は6万人規模 |
と推定される。 | |
除染 | |
・ | 環境省の「除染事業誌(2018年3月)」によれば、延べ従事者は、除染特別区域では |
2018年1月末時点で1,360万人日、汚染状況重点調査地域では2017年11月末時点で | |
1,800万人日である。 | |
・ | 汚染状況重点調査地域については、従事者の被ばく状況等は線量登録管理システムに |
ドキュメントとして保存されているが、統計資料は作成されていない。 | |
・ | 県内の除染特別区域については、放射線影響協会から詳しい統計が公表されている。 |
線量管理期間の2012年から2016年12月末までに7万7千人、次の線量期間では | |
2017年1月から2021年12月末までに5万9045人が従事している。次の線量期間では | |
2022年1月から2022年12月末までに1万9229人が従事している。 | |
・ | 除染特別区域の従事者数は、2つの期間にまたがって従事した労働者もいることを |
考慮すると、9万~11万人と推定される。 | |
・ | 汚染状況重点調査地域と除染特別区域とで、延べ従事者数と実従事者数が比例すると |
仮定すると、汚染状況重点調査地域の従事者数は11万~14万人と推定される。 | |
・ | 除染作業全体では、20万人~25万人が従事したと推定される。 |
以上から、東電福島第1原発事故によって、これまでに、原発と除染を合わせて、26~31万人規模の被ばく労働者が生み出されたと推定される。 |
●高い線量レベル、危険で過酷なイチエフ労働現場
被ばく労働は被ばく線量で測られる点で特異な労働である。
イチエフの労働現場はこれまでの原発被ばく労働に比べ線量レベルが桁違いに高く、短時間で被ばく線量が増加する。
原子炉建屋周辺は特に線量が高く、事故直後は毎時10シーベルト(Sv)の超高レベルスポットがあり、配管やがれきなど至る所が毎時100ミリシーベルト(mSv)を超える高レベルであった。
初期の事故対応、汚染水対策はそうした高線量環境下で行われた。
特に、大量のヨウ素が放出された初期の事故対応で、作業員は大量の甲状腺内部被ばくを被った。
その後、がれき撤去、循環原子炉冷却システムの建設・運転、汚染水貯蔵タンクの組み立て・解体、汚染水漏れ対応、凍土遮水壁建設などの汚染水対策に、土木・建築関連作業を中心に、最盛期で1日7500人の労働者が作業した。
●原子炉建屋内の被ばく労働は1日1ミリシーベルト超の計画線量
5月に原子炉建屋内での作業が開始され、排気ダクト設置、線量調査、写真撮影、水位調査、調査のための穿孔、除染、、1~3号機の循環型冷却システムの設置などが行われた。
その後、4号機燃料貯蔵プールの使用済み燃料取り出しに向けた準備作業と取り出し作業、1~3号機では放射能汚染微粒子の飛散を防止する建屋カバーの設置、使用済み燃料プールの燃料取り出しに向けた建屋カバーの撤去・がれき撤去・取り出し設備の設置などの作業が行われている。
また、1~3号機のデブリ調査に向けて、線量調査、除染、ロボット投入穴あけ作業などの準備作業、ロボット調査などが行われている。
高線量率の建屋内の被ばく労働では、計画線量が1日1ミリを超える作業が強行されている。
2017年3月末現在、計画線量が1mSv以上の作業は公表されているだけでも72件にのぼり、2011年に10件、21012年に19件、2013年に23件、2014年に1件、2015年に1件、2016年に10件、2017年に8件が行われている。
そのうち計画線量が5mSv以上の作業は、2011年に2件、21012年に14件、2013年に2件、2014年に1件が強行されている。
2012年の14件は、15mSv1件(4分間で最高8mSv被ばく)、10mSv8件(最高5.29mSv被ばく)、9mSv1件(最高6.49mSv被ばく)、8mSv1件、7mSv1件、5mSv2件であった。
2016年度に実施された1号機と2号機の原子炉格納容器の内部調査は、計画線量1号機2.5mSv、2号機3mSvで実施され、延べ506名(1日従事者数の合計)が従事した。
詳細は、原子炉建屋内作業リストを参照。
●緊急時作業被ばく限度引上げ法令撤回
緊急時の被ばく限度は法令で100mSvとなっているが、原発重大事故の際にこれを250mSvに引上げる制度化の法改悪が、多くの市民、労働者の反対を押し切って、2015年8月に強行された。
原発被ばく労働者の命と健康を犠牲にする重大な人権問題である。人権を踏みにじり、福島原発事故によってもなお原発運転を強行する政策は絶対に認められない。
●緊急時作業で大量被ばくした労働者の生涯被ばく線量を1000mSvまで容認を撤回せよ
緊急時作業で大量被ばくした労働者の通常被ばくについて、厚生労働省の検討会報告書では、合計して生涯1000mSv を超えないよう被ばく管理を行うとしています。
原子力規制庁は「(運用上の措置として)緊急作業時と通常作業の被ばく線量の扱いは、緊急作業後の処理作業や他の原子力施設での作業等に影響を与えることなく一定の放射線業務を実施できるように区別して管理する。但し、生涯被ばく線量は両実効線量を合算して 1000mSv を超えない。」としています。
15か国原子力施設被ばく労働者の調査結果をもとに評価すれば、1000mSv も被ばくすれば、がん白血病のリスクは通常の 2 倍に高まります。
また、1000mSv も被ばくすると、がん白血病に加えて、心臓・循環器系の疾患のリスクも増大し、その健康被害は甚大なものとなります。このように甚大な健康被害をもたらすレベルの被ばくを労働者に課しても良いとする倫理的・法的根拠はありません。
●日本の原発労働者の総被ばく線量は4200人シーベルト
1970年の原発運転開始以来、イチエフ労働者を含め、日本の原発労働者の総被ばく線量は、2022年3月現在、約4200人シーベルトとなっている。
広島・長崎の原爆被爆者の疫学調査から10人・Svあたり1人のがん・白血病死が引き起こされると推定されている。1990年のゴフマンの評価によれば10人・Svあたり3.7人のがん・白血病死となる。日本の原発労働者の総被ばく線量が4200人シーベルトであることから、がん・白血病死の被害は420人~1500人にものぼる。がん・白血病の罹患、その他の疾病の被害を含めると原発ひばく労働者の健康被害はもっと大きな規模が避けられない。
イチエフ労働者の総被ばく線量は789人・シーベルトで全体の約19%を占めている。イチエフ労働者は個人線量が高く、健康被害を被る個人のリスクが高いことが特徴である。
●すべての原発被ばく労働者に健康管理手帳の交付を
放射線業務は有害危険業務に指定されているが、健康管理手帳交付業務には指定されていない.
すでに23名の労働者が、白血病、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、甲状腺がん、肺がん、咽頭がんで、放射線業務上の労災と認定されている。
そのうち、白血病3名、甲状腺がん2名、肺がん1名、咽頭がん2名は少なくともイチエフで被ばくした労働者である。
被ばくによる健康被害は広島長崎の疫学調査から、被ばく後長い年月を経て顕在化することがわかっている。今労災補償されているのはほんの一部に過ぎない。15か国の原子力施設従事者の疫学調査で、線量限度以下でも健康被害が生じることが示されている。また、労災補償の約3割は死亡後の補償となっており、離職後の健康管理は大変重要である。政府に国の責任ですべての原発被ばく労働者に健康管理手帳を交付させ、離職後も健康管理をさせることがますます重要な課題となっている。
政府に電離放射線業務を健康管理手帳交付業務に指定させ、健康管理手帳を交付させ、国の責任で離職後も生涯無料の健康診断と医療保障を行わせよう。
健康管理手帳の交付は福島原発事故労働者のみならず、すべての原発被ばく労働者の課題である。
●線量限度の10分の1以下への引き下げを
国際放射線防護委員会(ICRP)は1977年勧告で被ばく労働者の年被ばく限度を50ミリシーベルトと勧告し、日本でも国内法に反映された。
1980年代の原爆放射線評価の変更と広島・長崎の原爆被爆者に生じた被害の増加によって、原爆被爆者の疫学調査から放射線被ばくのリスクが10倍高まった。
しかし原子力推進のICRPは、1990年勧告でも2007年勧告でも年50ミリシーベルトを残し5年間100ミリシーベルトと併用する基準を勧告した。
これらの基準は年間50ミリシーベルトの10分の1よりもはるかに高い線量基準のままである。
福島原発事故前に比べて、イチエフ被ばく労働者の場合、5年間100ミリシーベルトや年間50ミリシーベルトの限度に近い大量被ばくをする労働者の比率が高くなっている。
政府は早急に10分の1以下への引き下げを行うべきである。