原発労働者に健康管理手帳交付の必要性
ウラン採掘、原発・再処理等は過酷な被曝労働、多数の被曝労働者を必要としその犠牲の上に成り立っています。
日本の原発で被ばく労働に従事した労働者は、福島原発事故前で40万人、2022年3月末で福島原発事故除染労働者を含め65万人規模に達します。
その総被ばく線量は、福島原発事故前で約4100人・シーベルト、2022年3月末で4300人・シーベルトとなっています。この線量からガン・白血病死に限っても400人規模と推定されます。
厚生労働省は「これを評価する立場にはない。」と被害の深刻さを認めようとしません。
「被ばく限度を超えない程度の被ばく線量では健康への深刻な影響はない。」として離職後の健康管理とそのための健康管理手帳の交付の必要性を認めようとせず、また、被ばく労働者の救済に役立てるために必要な労災申請とその結果に関する基礎資料の開示も拒否してきました。
厳しい労災補償認定基準の下でも、原発の運転以降2022年12月末現在、24名の労働者が電離放射線による疾病として労災補償が認められています。
被ばく線量が「被ばく限度」以下でもがん・白血病などの重篤な死亡を含む健康被害が発生していることは、健康管理手帳を交付し離職後の健康管理を国の責任で行う必要性を示しています。
2015年に公表された国際がん研究所の米英仏3か国原子力施設労働者の疫学調査報告をはじめ近年の大規模な疫学調査によって、100ミリシーベルト以下の被ばく線量であっても、線量に比例してがん死の被害が生じることがより確実に示されています。
米国放射線防護委員会は、NCRP Commentary No.27「最近の疫学研究の直線しきい線量なしモデルと放射線防護への示唆」において、「29件の疫学調査を検討し、閾値なし直線モデルを支持する調査が多い(強く支持5件、)という結論を出しています。2020年12月に刊行された国際放射線防護委員会ICRPのpub.146(大規模原子力事故における人と環境の放射線防護― ICRP Publication 109 と 111 の改訂 ―)でこのことが引用されています。
日本の原発被ばく労働者の第Ⅴ期(2010年度~2015年度)疫学調査資料によれば、2013年3月末現在、調査対象の男性274,560人のうち、100mSv以上が7,027人、20mSv以上が38,920人(全体の14.2%)です。その後福島原発事故の対応に従事した労働者がいることなどから、これらの人数は更に増加しています。
現在1万人規模に達していると考えられます。、このことは、健康管理手帳の必要性の大きな根拠となります。
日本の原発被曝労働者の被曝線量
線量(mSv ) | <5 | 5+ | 10+ | 20+ | 50+ | 100+ |
人数< | 190,773 | 22,468 | 22,399 | 21,662 | 10,231 | 7,027 |
調査対象は男性274560人、被曝線量20mSv以上の労働者は38920人で全体の14.2%
放置された被曝労働者 健康管理手帳の交付・国の費用による離職後の健康補償が課題
線量限度以下でもがん・白血病などの被害が生じること、実際に労災認定された事例においても本人死亡の割合がかなりあることから、原発被ばく労働者の離職後の健康補償が必要です。
原発被ばく労働は有害危険業務で、18歳未満の従事は禁止されています。
労働安全衛生法では、がんその他の重度の健康被害を引き起こすおそれのある業務への従事歴があり、一定の要件を満たす場合に、離職の際又は離職後に健康管理手帳が交付され、国の費用で健康診断が実施されます。
しかし原発被ばく労働は健康管理手帳交付業務には指定されておらず、離職後の健康管理は個人任せです。
被ばく労働を健康管理手帳交付業務に指定させ、国の責任で離職後の健康管理を行わせることが大きな課題です。
健康管理手帳に関する法令
・健康管理手帳については、労働安全衛生法第67条で
・手帳を交付附する業務は、労働安全衛生法施行令第23条で、
・手帳の交付要件は、労働安全衛生法施行規則 第53条第1項で、 それぞれ定められています。