放射線業務を健康管理手帳交付業務に指定させる課題

原発被ばく労働は有害危険業務で、18歳未満の従事は禁止されています。
労働安全衛生法では、がんその他の重度の健康被害を引き起こすおそれのある業務への従事歴があり、一定の要件を満たす場合に、離職の際又は離職後に健康管理手帳が交付され、国の費用で健康診断が実施されます。
しかし原発被ばく労働は健康管理手帳交付業務には指定されておらず、離職後の健康管理は個人任せです。
被ばく労働を健康管理手帳交付業務に指定させ、国の責任で離職後の健康管理を行わせることが大きな課題です。

健康管理手帳に関する法令
・健康管理手帳については、労働安全衛生法第67条
・手帳を交付附する業務は、労働安全衛生法施行令第23条で、
・手帳の交付要件は、労働安全衛生法施行規則 第53条第1項で、 それぞれ定められています。

厚生労働省は、「被ばく限度を守っていれば被害は生じない」として、放射戦業務を健康管理手帳交付業務に指定することを拒んできた。
2022年12月末現在、放射線業務の労災補償件数は50件を超えている。
「被ばく限度を守っていれば被害は生じない」という説明はもはや通用しない状況にあるのです。

健康管理手帳制度の創設と手帳交付業務の拡大
健康管理手帳制度は、昭和47年の労働安全衛生法制定時に創設されました。

健康管理手帳制度の考え方
法案を審議した昭和47年4月25日衆議院・社会労働委員会において田辺誠議員(社)に対する労働大臣答弁がその後、「健康管理手帳制度の考え方」として踏襲されてきた。
労働大臣答弁の内容


健康管理手帳制度は、離職後の労働者について、その業務に起因して発生する疾病であって、発病した場合重篤な結果を引き起こすものの予防ないし早期発見のために創設するものである。


対象としては、業務起因性の明らかなもの、たとえば当該業務従事労働者について、その疾病の発生が疫学的に一般の人と明らかに有意の差があるものを選定したい。


当面、交付対象としては、ベンジジン、ベータ「ナフチルアミン等、労働安全衛生法により製造等の禁止をするものを中心にとり上げ、この制度を発足させたいと考えているが、今後は有害物質等について広く検討を重ねて漸次対象を拡大し、この制度の充実に努めたい。

手帳交付業務の拡大の経過
1.制度化当初の健康管理手帳交付業務
・ベンジジン及びその塩を製造若しくは取り扱う業務
・ベータナフチルアミン及びその塩を製造若しくは取り扱う業務
・粉じん作業に係る業務

その後、対象業務が徐々に追加され、現在は14業務が健康管理手帳交付業務に指定されています。

2.1975年に3業務を追加
・クロム酸、重クロム酸及びこれらの塩を製造若しくは取り扱う業務
・三酸化ヒ素を製造する工程における培燃もしくは製錬、またはヒ素を含有する鉱石を製錬する業務
・製鉄用コークス又は製鉄用発生炉ガスを製造する業務(その後範囲が拡大され、「コークス又は発生炉ガスを製造する業務」となっている)

3.1976年に4業務を追加
・ビス(クロロメチル)エーテルを製造し、又は取り扱う業務
・ベリリウム及びその化合物を製造又は取り扱う業務
・ベンゾトリクロリドを製造、又は取り扱う業務
・塩化ビニルを重合する業務

4.1996年に2業務を追加
・石綿を製造、又は取り扱う業務
・ジアニシジンを製造、又は取り扱う業務

5.2019年に追加
オルト-トルイジン及びオルト-トルイジンを含有する製剤その他の物を製造し、又は取り扱う業務

6.2023年に追加
三・三´-ジクロロ-四・四´-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)及びこれを含む製剤を製造し、又は取り扱う業務

健康管理手帳の交付状況
健康管理手帳の累積交付数は、2021年末現在、約7万件となっています。

労災対象疾病の拡大、「固形がん100ミリシーベルト基準」の引き下げで、労災補償の敷居を下げましょう。
健康管理手帳制度は、離職後の健康診断等の健康管理を国の費用で実施することが目的で、生じた健康被害の補償は行われません。
被ばく労働者の健康被害を救済する唯一の社会的制度として、労災補償制度があります。
原発被ばく労働者の場合、労災申請や労災認定の数、認定された疾病の種類が極めて少なく、被害は放置されてきました。

政府の厳しい認定基準の下で、これまでに、原発・核燃料施設労働者の労災補償申請・認定は申請約70件、認定28件と徐々に増加してきました。この他にJCO臨界事故による急性障害3件があります。医療分野、工業分野を含めた放射線業務全体では、労災認定は2021年度末で50件を超えています。

これに比べ、例えば、イギリスの原子力施設労働者の補償制度では、1986年から25年間に申請1400件、認定114件、2021年報告では申請1710件、認定163件です。(Compensation Scheme for Radiation Linked Diseases)
依然として日本の被ばく労働者の健康被害が放置されている事は歴然としています。

福島原発事故の少し前から「固形がん」の労災申請が出始め、現在では申請の多数を占めています。厚生労働省は100ミリシーベルト以上で被ばく線量と固形がんの発生に関連がみられるとして、100ミリシーベルト以下の申請を切り捨てています。
労災対象疾病の拡大と合わせて、「100ミリシーベルト基準」を引き下げ、労災補償の敷居を下げましょう。

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