答弁本文情報
平成十三年七月二十三日受領
答弁第一〇三号
内閣衆質一五一第一〇三号
平成十三年七月二十三日
内閣総理大臣 小泉純一郎
衆議院議長 綿貫民輔 殿
衆議院議員北川れん子君提出JCO臨界事故に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員北川れん子君提出JCO臨界事故に関する質問に対する答弁書
一の(一)について
御指摘の原子力安全委員会決定文の記載は、核燃料施設の安全性の審査に当たっては、核燃料施設安全審査基本指針(昭和五十五年二月七日原子力安全委員会決定。以下「基本指針」という。)を用いることとしつつも、核燃料施設の種類によってはその特質に即した事項を審査することで安全性の審査を客観的及び合理的に行うため、必要な場合には核燃料施設の種類に応じた個別の安全審査指針を設けることとする趣旨で決定されたものであって、すべての種類の核燃料施設について、また、個々の核燃料施設ごとに必ず個別の安全審査基準を策定することを義務付けるものではないところ、日本核燃料コンバージョン株式会社(現在の名称は、株式会社ジェー・シー・オーであり、以下「JCO」という。)の転換試験棟は、個別の安全審査基準の策定を要するような特質を有する核燃料施設ではない。
このため、右転換試験棟に係る核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号。以下「原子炉等規制法」という。)第十六条第一項の許可に際しては、基本指針を用いて審査を行ったが、御指摘のウラン加工施設安全審査指針(昭和五十五年十二月二十二日原子力安全委員会決定)の項目中には基本指針の内容を詳細かつ具体的に記載し、当該施設の処理するウランの濃縮度を問わずウラン加工施設一般に適用することが可能な項目が含まれていることから、審査に当たりウラン加工施設安全審査指針の一部を併せ用いて厳格な審査を行ったものである。
一の(二)について
JCOが原子炉等規制法第十六条第一項に基づいて昭和五十八年十一月二十二日付けで申請した核燃料加工事業に係る変更許可については、その申請内容を基本指針の指針十及び指針十一に照らして審査したところ、技術的にみて想定されるいかなる場合でも臨界を防止する対策が講じられていると判断されたことから、変更を許可したものであり、その処分に誤りはなかったと考えている。
なお、御指摘の沈殿槽については、核燃料物質の質量によって臨界が発生しないよう管理されていたものである。
一の(三)について
お尋ねの「無条件に」臨界事故を想定することの意味が必ずしも明らかではないが、加工施設の設計及び工事の方法の技術基準に関する総理府令(昭和六十二年総理府令第十号。以下「府令」という。)第三条第二項により「臨界質量以上のウラン(ウラン二三五の量のウランの総量に対する比率が百分の五を超えるものに限る。)又はプルトニウムを取り扱う加工施設」に義務付けられる適切な措置は、安全確保に万全を期するため、当該施設における万一の臨界事故の発生を想定してのものである。
臨界警報設備の設置については、「誤操作等により臨界事故の発生するおそれのある核燃料施設については万一の臨界事故時に対する適切な対策が講じられていること」とする基本指針の指針十二により既に審査の対象とされていたことから、新たに指針類を整備する必要を認めず、また、JCOの転換試験棟その他の既存の施設においては、府令の制定前において、強い放射線が発生した場合に警報を発する機能を有するガンマ線エリアモニタが既に設置されていたことから、行政指導の必要性も認めなかったものである。
また、原子炉等規制法第十六条の二第三項第二号の加工施設に関する設計及び工事の方法の認可については、平成十三年一月六日前においては科学技術庁原子力安全局が事務を所掌し、同日以後においては経済産業省資源エネルギー庁原子力安全・保安院が事務を所掌している。
一の(四)について
JCO東海事業所において発生した臨界事故(以下「本件事故」という。)の際には、国は、初動において事故状況の正確な把握が十分できず、災害対策基本法(昭和三十六年法律第二百二十三号)に基づく防災基本計画(平成九年六月十一日中央防災会議決定)に沿った指導及び助言を、本件事故が生じた東海村に対し適切に行うことができなかった。もっとも、東海村は、本件事故発生から約四時間半後に、事故現場周辺約三百五十メートルの範囲の住民に対して避難の要請を行っており、この判断はその後確認された放射線の測定結果からすると妥当なものであったと考えられる。
国は、本件事故における対応を反省し、原子力災害対策特別措置法(平成十一年法律第百五十六号)においては、原子力事業者が選任する原子力防災管理者に対し主務大臣等への通報を義務付けているほか、原子力緊急事態が発生した場合には、直ちに内閣総理大臣が原子力緊急事態宣言を発出するとともに関係する自治体の長に避難のための立ち退き又は屋内への退避の勧告又は指示を行うべきこと等緊急事態応急対策に関する事項を指示することとしている。
一の(五)について
JCOの転換試験棟については、原子炉等規制法に基づく設計及び建設段階の許可、認可及び検査は適切に実施されていた。平成十一年法律第百五十七号による改正前の同法は操業開始後の検査制度を設けていなかったが、科学技術庁においては、JCOについて保安規定の遵守状況の調査を行っていたところである。
本件事故の原因は、JCOが許可と異なる作業手順を定め、違法な手順により作業を行ったことにあるが、政府としては、結果として本件事故が発生したことを重く受け止め、同法を改正し、施設定期検査及び保安検査の制度を導入したところである。
二の(一)について
一の(五)についてで述べたとおり、JCOの転換試験棟については、当時の原子炉等規制法に基づく許可、認可及び検査は適切に実施されていたが、本件事故はJCOが許可と異なる作業手順を定め、違法な手順により作業を行ったことが原因であり、その結果、放射線により従業者二名が死亡し、多数の周辺住民が避難することとなったものである。
二の(二)について
原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害の賠償については、原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号。以下「原賠法」という。)において、原子力事業者は、文部科学大臣の承認を受けた原子力損害を賠償するための措置を講じていなければ原子炉の運転等をしてはならず、その原子炉の運転等の際に原子力損害を与えた場合には無過失の賠償責任を負うほか、政府は、原子力事業者の賠償すべき額が右の措置に係る額を超え、かつ、原賠法の目的を達成するため必要があると認めるときは、国会の議決により政府に属せられた権限の範囲内において、当該原子力事業者に対し損害を賠償するために必要な援助を行うものとされている。
原賠法は、原子炉の運転等と原子力損害との間の因果関係の立証については格別の規定を設けておらず、原子力損害の賠償を請求する場合には被害者が右因果関係の存在を立証すべきこととなるが、本件事故に関しては、右因果関係の簡易かつ迅速な認定に資することができるように、科学技術庁において開催された原子力損害調査研究会において、各損害項目について本件事故との間に相当因果関係が認められる範囲等に関し、基本的な考え方を整理、集約した報告書を取りまとめたほか、原賠法に基づき文部科学省に設置している原子力損害賠償紛争審査会において、公正かつ中立の立場から、原子力損害の調査及び評価を行い、これを踏まえて和解の仲介を行っており、これらは被害者の負担の軽減に役立っていると考えている。
二の(三)について
本件事故発生地点の周辺の住民の健康管理に関しては、文部科学省、茨城県、東海村及び那珂町が連携及び協力して、定期的な健康診断、健康相談及び心のケアの取組を無償で実施するとともに、健康診断の対象となる者が茨城県以外に転出した場合については、転出先で同様の健康診断が行われるよう茨城県において既に対応が行われているところである。
また、周辺住民の治療等に係る医療費については、当該治療等が本件事故との間に相当因果関係が認められるものであれば、原賠法第三条第一項の規定により、原子力事業者が損害賠償の責めに任ずることとなる。
これらのことから、本件事故に関し、現時点においては、お尋ねのような健康手帳に係る制度を設ける予定はない。
二の(四)について
原賠法に基づく原子力損害の賠償に関する事務については、文部科学省研究開発局原子力課が所掌している。
また、原子力災害が生じた場合における厚生労働省の役割としては、原子力災害対策マニュアル(暫定版)(平成十二年八月二十九日原子力災害危機管理関係省庁会議決定)に沿って関係省庁と共同して行う事後対策としての地域医療機関への助言及び指導等があるほか、業務上の事由又は通勤による労働者の疾病等について労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)の規定に基づく保険給付の実施等がある。
三の(一)について
政府としても、国際放射線防護委員会の勧告等に照らし、御指摘の見解は妥当なものと考えている。
三の(二)について
原子力安全委員会臨界事故調査委員会第五回会合の資料に示されている周辺環境の線量評価の結果に基づいた周辺住民等の健康への影響について、原子力安全委員会健康管理検討委員会(以下「健康管理検討委員会」という。)においては、本件事故の発生から臨界終息までの間本件事故発生現場である転換試験棟の直近の敷地境界の屋外に居続けた場合を除き、急性の影響が現れることはなく、また、がんの増加などの確率的影響についても直ちに懸念する必要はないとしていた。その上で、御指摘の行動調査は、あくまで長期的な健康管理の取組を行うための基礎資料を作成する観点から行ったものであるところ、その対象者については健康管理検討委員会における右検討を踏まえ、避難を要請された周辺住民等の不安に対応することを考慮して、本件事故発生現場周辺約三百五十メートル以内の避難要請区域に滞在したことがある者を対象としたのであり、同区域外の住民等の行動調査を行うことは考えていない。
三の(三)について
御指摘の告示は、国際放射線防護委員会の新勧告について(意見具申)(昭和六十一年七月放射線審議会決定)において、原子炉等の設置及び運転等における放射線の管理においては、放射線の測定等の便宜の観点から、容易に測定が可能な一センチメートル線量当量を用いることができるとされたため、これによることとしたものである。一方、放射線を受けた個人の健康管理をより適切に行う観点からは、複雑な計算を行うことによって人体に対する放射線の影響を一センチメートル線量当量よりも正確に表すことができる実効線量当量の方が評価方法として適切であることから、本件事故現場周辺の住民等に対する通知においては実効線量当量を用いたものである。
三の(四)について
御指摘の通知及び通達は、中性子の被ばくによる影響の評価自体は維持しつつ、事業者に対し、従業者が受ける中性子の影響を仮に二倍に見積もったとしても法令の限度を超えないように当該原子力施設の放射線管理に努めるという目標を設定するもので、これらはいずれも厳しく放射線管理を行う努力をするよう事業者を指導する趣旨で発出されたものであるから、本件事故が周辺住民等の健康に与えた影響を評価するような場合においてまで、中性子の影響を二倍にして評価することを求める趣旨のものではない。
三の(五)について
原子力施設における事故の被害推定に当たり、どのような手法を用いて被害を評価すべきかについて規定した法令はない。
御指摘の集団線量による評価は、一定の集団が受ける放射線の量を集団として評価する手法であるところ、これは原子力施設における事故の発生による社会的な損害をその設計段階において推計し又は原子力施設の運転等に際し放射線防護の最適化を図るための事前評価の指標としては有用であるが、実際に事故が起きた場合の個々の被害を評価する場合にはこれを用いるのは適切ではないと考えている。健康管理検討委員会の検討結果も本件事故に係る集団線量の算出を行うことは適切ではないとしていることから、本件事故について集団線量による評価は行わないこととしたものである。
なお、右に述べた健康管理検討委員会の検討結果に照らしても、集団線量を事前の社会的損害推定又は放射線防護の最適化のための指標として用いることは適切な使い方であると考えている。
三の(六)について
本件事故に係る周辺住民等の推定被ばく線量は五十ミリシーベルト以下であり、これは、健康管理検討委員会における検討を踏まえ、広島市及び長崎市に投下された原子爆弾の被ばく者のデータから判断すると、身体に放射線の影響が発生する可能性は極めて小さく、影響を検出することはできない線量であると考えられる。しかしながら、政府としては、御指摘の直線非しきい値の線量関係の仮定を踏まえて、周辺住民等の健康管理を行っているところである。
三の(七)について
原賠法により、本件事故による原子力損害の賠償責任はJCOが負っており、どのような範囲の者を対象として損害賠償が行われるかについては、JCOと被害者との間で決定されるべきものであるから、政府は答弁する立場にない。
四について
政府は、従来から、平成十二年版原子力安全白書の第一編で述べたように、「原子力は『絶対に』安全」とはだれにも言えないことから原子力の安全確保のためのたゆまぬ努力が不可欠であるとの認識に立って安全確保のために必要な取組を行ってきており、これまで政策を転換したことはない。