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 平成十三年六月十八日提出
質問第一〇三号

JCO臨界事故に関する質問主意書
提出者  北川れん子





JCO臨界事故に関する質問主意書


 一九九九年九月三〇日、茨城県東海村で日本国内としては初めて多数の住民・労働者が被曝しうち二名が死亡するという日本で初の原子力災害いわゆる「JCO臨界事故」が起こった。同事故に関する様々な問題が未だに残されたままになっている。安全審査や事故対応等における国の責任、被曝した人々に対する救済措置の必要性、被曝線量の推定及び健康影響評価の不適切性、「事故は起こりうる」と転換した原子力行政の問題点の四点について、以下、質問する。

一 「JCO臨界事故」の国の責任について

 (一) 「核燃料施設安全審査基本指針」(以下、基本指針という)は「核燃料施設に共通した安全審査の基本的考え方をとりまとめたもの」であり、原子力安全委員会決定文「核燃料施設安全審査基本指針について」には、「本基本指針に基づき、各種核燃料施設について、その特質に応じた個別の安全審査指針を整備するものとする」と書かれている。
 「日本核燃料コンバージョン株式会社における加工の事業の変更許可申請に係わる安全審査」は、「基本指針」に基づく他「ウラン加工施設安全審査指針」を準用して行われた。
 五%を超える濃縮ウランを扱う本施設の安全審査に際して、その特質に応じた個別の安全審査指針を制定し、それに基づいて審査しなかったのはなぜか。
 そもそもこのような審査のやりかたは「基本指針」違反であると考えるが、どうか。
 (二) 「基本指針」の指針一〇と指針一一の「技術的に見て想定されるいかなる場合でも臨界を防止する措置が講じられていること」という要件に対しては、濃度管理と形状管理が徹底しているか否かの厳重な審査が必要である。本施設は、例えば沈殿槽には形状管理がなされていないなど、臨界事故の生じる危険性を有していた。「臨界事故は起こらない」として認可したのは原子力行政の誤りであり、その責任は免れないと考えるがどうか。
 (三) 「加工施設の設計及び工事の方法の技術基準に関する総理府令」第三条二項は、濃縮度五%を超える加工施設に対して、「臨界警報設備の設置その他の臨界事故の発生を想定した適切な措置が講じられているものでなければならない。」と定めている。これは該当施設に対して無条件に臨界事故を想定することを要求するものと解するがどうか。総理府令制定時に指針類の整備や既存の施設に対する新たな行政指導を行うべきところ、政府はこれを怠ったと考えるがどうか。上記の総理府令は一九八七年に定められており、とりわけ臨界事故との関係からその責任は重い。担当部局はどこか、また責任はどこにあるのか。
 (四) 実際に、事故時に政府は自治体への適切な指示が出せなかった。例えば、原子力安全委員会の臨界事故調査委員会(以下、事故調査委員会という)の報告書には、「(科技庁は)午後五時頃のJCO敷地境界での中性子線量率の連絡を受けるまで、臨界が継続していると確認するには至らなかった……誤操作があったとしても臨界事故は起こり得ないとされており、……」と記されている。指示の遅れは確実に住民の被曝を増大させた。これらの点を認めるか。政府としてはどのような責任をとるのか。
 (五) JCO転換試験棟に関する基本設計、詳細設計、設計工事認可、使用前検査、保安規定審査、供用期間中検査、操業実態の監査の各段階からなる安全審査・規制体制に不備があった。これらの各段階においてどのような不備があったと政府が判断しているのか、具体的な内容とその責任の所在を明示されたい。

二 「健康手帳の交付」、健康管理・治療等について

 (一) 原子力災害は晩発障害、様々な疾病の増加、遺伝的影響などの被害をもたらすものであり、従って原子力基本法には「安全の確保を旨として」(第二条)、「放射線による障害を防止し、公共の安全を確保するため、」(第二〇条)と定められている。今回の臨界事故では「放射線による障害を防止し、公共の安全を確保する」ことができなかったと考えられるが、政府はこれを認めるか。
 (二) 放射線の被曝により、障害はいつ発生するかもしれず、また発生した場合は何十年にも及び苦しむこととなる。従って、臨界事故で被曝した人々は長期にわたる健康調査の継続、健康影響に対する適切な治療等が必要である。このような特徴を有する放射線障害に対する補償を確実に行うには、政府が法的根拠を持つ制度を整備し、そのうえで責任を持って対処すべきであると考えるがどうか。
 原子力災害によって被曝を余儀なくされた住民が健康被害に対する補償を求める場合、中曽根弘文科学技術庁長官が一九九九年一二月二日、参議院経済・産業委員会で述べたように「原子力損害賠償紛争審査会(略)を設置し(略)被害者の方々の立証負担を軽減すべく努め」るとしても、基本的には放射線の作用等と「相当因果関係」のあることを被害者が立証しなければならないとされている(原子力損害調査研究会報告)。被害者が企業を相手取り、「相当因果関係」を立証し、司法の場で争った結果、救済の道が開かれるというのでは、あまりにも大きな壁である。迅速で簡易な救済措置の制定の必要性について、どういった見解をもっているか。
 (三) 右記の具体的な内容として、原爆被爆者健康手帳を参考に制度化し、JCO臨界事故で被曝したことを証明し、本人の負担によらない定期的な健康診断と全国どこに居住しても医療補償を受けられることを明記した「健康手帳」を交付するべきであると考えるが、見解を問う。
 (四) 原子力災害が生じたとき、緊急措置としての防災は別として、被曝した国民の何十年という長期にわたる放射線影響への補償について責任をもつ担当部局は、どこか。この件において、国民生活の補償や公衆衛生の向上、労働者の働く環境の整理を任務としている厚生労働省の役割は何なのか。
 もし、法律がない、担当部局がないということであれば「原子力政策」は住民の健康被害の切り捨てを前提としたものであると考えざるを得ないがどうか。

三 被曝の過小評価と切り捨てについて

 (一) 「今回の事故に関連する健康影響を考えるにあたって、がんのリスクに関しては、直線非しきい値の線量関係を適用するのが適切である。」との見解が健康管理検討委員会の最終報告書に記されている。政府もこの見解に立っているか。
 (二) 事故調査委員会第一一回会合の資料によれば、三五〇メートル地点に居続けた場合の法令に基づく実効線量当量(ICRPの一cm線量当量)は二・四ミリシーベルトである。三五〇メートル圏(避難地域)以遠の住民でも公衆の年被曝限度一ミリシーベルトを超えている可能性が高い。この地域を含む行動調査を行うべきだと考えるがどうか。
 右記の評価より高い線量が推定されていた(一九九九年一一月五日第五回事故調査委員会資料)もとで実施された行動調査がなぜ三五〇メートル圏内に限定されたのか。
 (三) 科技庁告示第二〇号「試験研究の用に供する原子炉等の設置、運転等に関する規則等の規定に基づき線量当量限度を定める件」第一一条に、「外部放射線に係わる線量当量は、一センチメートル線量とし」と記されている。しかし、住民等には実効線量当量(一センチメートル線量よりも低い値)が通知されている。これは法令違反ではないのか。
 (四) 放射線審議会は一九八六年七月、「ICRP(国際放射線防護委員会)では、中性子の線質係数について今後も検討を続けていくこととしているので,わが国においてもICRPの検討の推移を見守っていくこととするのが適当である。しかしながら,暫定的な意味であるにしても,パリ声明において中性子の線質係数を二倍とすることとされているので,当面そのように行政的に指導することが望ましい。」との意見具申を行い、科技庁原子力安全局放射線安全課長通知(一九八八年一〇月一日)及び労働省労働基準局安全衛生部長通達(一九八九年三月六日)にこれが反映されている。
 臨界事故の被曝に関しては、この意見具申の趣旨を踏まえ、これらの「通知」・「通達」の中性子線の評価のもとに、被曝した人々の健康への影響等を評価すべきである。行動調査の範囲の決定、被曝線量の推定、健康影響の評価、健康管理のあり方の検討等において、右記の意見具申の趣旨は生かされなかったと考えるがどうか。また、これらの「通知」・「通達」はどのように扱われたのか。「通知」・「通達」の中性子線の評価に従わなかった場合はその理由を明らかにされたい。
 (五) ケメニー報告等にみられるとおりアメリカ合衆国で起こったスリーマイル島原発事故では、同国政府は集団線量による被害推定を行っている。しかし、政府は、JCO臨界事故について「集団線量は事前評価に用いるべきもので、臨界事故の被害推定に適用するのは不適切」と判断した。この判断の科学的根拠および法的根拠を明示されたい。集団線量を事後の被害推定に適用できないとすれば、集団線量を事前の被害推定に適用すること自体が科学的・法的意味を持たなくなるが、政府としては集団線量そのものによる事故評価をやめる方針だと解釈してよいか。
 (六) ガン等の晩発性の健康被害については、「直線非しきい値の線量関係」がICRP一九九〇年勧告その他で国際的に広く採用され、その考えに沿って政府も同勧告を国内法に取り入れてきた。そうした経緯によれば、「被曝した多数の人々の中に確率は低くても被害が発生する危険性がある」という考えにたって政府の対応はなされねばならない。「五〇ミリシーベルト以下なら影響は統計的に検出されない」(健康管理検討委員会報告)として、政府が広範囲の住民等の「線量推定」を行わず、集団線量の適用などによる住民等の被害推定をあえて行わないのは、「被曝による健康被害の危険性」を切り捨てることに他ならない。このような対応は、直線非しきい値の線量関係についてのICRPほか国際的に認められている立場に反するのではないか。
 (七) アメリカ合衆国政府は二〇〇〇年一二月七日の大統領令一三一七九等で示しているとおり、核兵器工場で働いて被曝したと確認できる人(線量は不明な人も多い)でガンになった人に対して、健康被害を放射線の影響と認め、推定される被害者数を超える労働者を対象に補償を行っている。これは低線量被曝の被害はある個人に特定できず、集団全体を補償の対象としなければならなかったからである。従って臨界事故で被曝した人達の今後についても集団として同様の扱いがなされるべきであると考えるがどうか。

四 「事故はあり得る」と転換したことについて
 二〇〇〇年版原子力安全白書では、「原子力は『絶対に』安全」とは誰にもいえない、などと「事故はあり得る」との立場にたっている。
 これは、事故調査検討委員会最終報告が提言で述べた「原子力の『安全神話』や観念的な『絶対安全』」を「捨てられなければならない」こととした原子力政策の転換だと受け止めるが、どうか。この転換によって、原発が周辺住民をはじめ国民の命と健康を危険にさらすものと政府も認める立場となったと考えるがどうか。
 これまで、こうした見解は、原発立地の現地住民をはじめ国民には示されてこなかった。「事故は起こらない」から「事故はあり得る」と認識を政府が転換したのであるなら、今までは国民を偽ってきたことになるがこの点はどうか。

 右質問する。



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