被爆65周年原水禁世界大会「ひろば」
JCO臨界事故ヒバクの風化を許さず、
ウラン採掘被害者と共に
世界のヒバクシャとの連帯を深めた
ヒバクを許さない集い-Part11
2010年8月5日 広島 ホテルチューリッヒ(東方2001)
概要
「ヒバクを許さない集い」は東海村JCO臨界事故翌年の2000年8月に第1回が開催され、今回で11回目を迎えました。
今回は原爆被爆者、JCO臨界事故被害者、原発被曝労働者、ウラン採掘の被害に焦点を当てて開催されました。
今回の集いでは、この集いの原点であるJCO臨界事故ヒバクについて、被害者の大泉昭一さんが「裁判には負けたけれど、決して風化させず、語り継いでいく。晩発障害も監視していく。広島・長崎の人々と手を結び互いに頑張って行こう」と決意を表明されたこと、
アメリカ先住民のピノさんからウラン採掘の被害者についてのメッセージを受けて世界のヒバクシャとの連帯をより深めたこと、
これらが特に大きな成果としてあげられます。
開会挨拶:木原省治さん;(広島県原水禁の常任理事、原発はごめんだ!ヒロシマ市民の会)
木原さんは、「広島・長崎の原爆被爆以外にも様々なヒバクがあり、ヒバクシャをつくらせない、ヒバクの障害に苦しむ人たちが救われるべきだ、という立場で、ヒバクということの共通点で一致をして何ができるだろうか、ということを聞きながらこれまで10回の集いをやってきた。
今回は前被爆2世協代表の平野伸人さん、JCO事故健康裁判原告の大泉昭一さん、アメリカ先住民のピノさんをお招きした。
ヒバクを許さない、その共通項で皆さんといっしょに何ができるか、ヒバクとは広島長崎だけではないんだということを改めて感じてもらう場になればと思います。」と参加者に呼び掛けました。
この集いは広島・長崎に代表される被爆者運動と核実験、原発などのあらゆるヒバクシャの運動と結んでヒバクシャの救済を考える10年間の取り組みでした。
ヒバクシャは全世界に2千万人とも3千万人ともいわれますが、これ以上新たなヒバクシャを作らないために私達は何をなすべきか一緒に議論し、JCO事故から10年経た今年、改めてヒバクというものについて問い直して討論を深めて行きたい。
報告1.「原爆被爆者の訴えと一刻も早いその実現を目指して」:全国被爆2世協前会長 平野伸人
長崎の「被爆体験者」の問題を主テーマにして講演をされました。平野さんは全国被爆2世協の前会長で、在外被爆者をはじめ被爆者問題に広く深く関わってこられました。現在は平和活動支援センターで被爆者の問題に取り組んでおられます。
平野さんは、最初に、広島市のオリンピック招致の動きに対して、その前にやるべき事が山積していると危惧の念を表明されました。
被爆者の現状について、「被爆から65年を経た今も原爆症認定問題、在外被爆者問題、被爆2・3世問題、被爆地域拡大問題などが未解決である。この背景には、新たな科学的な知見が無ければ被爆者を増やさないという『55年の基本懇答申』があり、それに基づく行政が被爆者の援護を阻み続け、原爆の被害を極めて小さな限定的なものにしてきた。」と指摘されました。
主テーマの「被爆体験者問題」について概略次のように話されました。
「長崎では長崎市と限られた隣接町村が被爆地域である。昭和49年にその周辺に新たに『みなし地域』が設けられた。指定の疾病にかかれば被爆者として認められる。これらの指定地域は細長い。その後、被爆地の拡大是正は実現しなかった。未指定地域の調査でPTSDが多い事が判明すると、国は『PTSDはあるが原爆の放射線とは関係が無い』として平成14年に新たに『被爆体験者支援事業』の制度を設けた。その医療保障はPTSDに関する80疾病例に限られる。被爆手帳の交付を求めて裁判を闘っている。裁判では、放射性降下物が降り注いだ事も含め『被爆体験者』も原爆放射能の影響を受けていると主張している。アンケートから当時に下痢や発熱などの急性症状があったことが明らかになっているが、裁判で国は食べ物や衛生状態のせいであると主張している。対政府の30万人全国署名を行っている。
また、広島の黒い雨地域の拡大に関して、長崎と同じてつを踏まないよう注意を喚起されました。
講演の最後に、平野さんは、「とりあえず残された課題の中で、被爆者とは何か、被爆の実相を正しく伝えて、広島長崎の被爆者を基にして、世界の核被害者の救済を果たさなきゃいけない、そのことから核兵器をなくさないといけないという理屈に持って行って、私達の運動を続けていくことこそ肝要、広島長崎のありようじゃないか」と結ばれました。
参加者は用意された「被爆体験者に被爆者手帳を」の全国署名を持ち帰りました。
報告2.「JCO臨界事故健康被害裁判の最高裁判決と今後の取り組み」:原告として夫婦で闘ってこられた大泉昭一さん
大泉さんはこれまでに第1回、第2回、第4回の集いに参加・報告しておられます。本年5月に最高裁が上告不受理の決定を下し、原告敗訴となりました。6月に水戸市で集会がもたれ、そこでご夫妻は、最高裁の決定に抗議し、風化を許さず、JCO臨界事故を語り継いでいくと強い決意を表明されました。裁判を支援する会は解散し、新たに臨界事故を語り継ぐ会が結成されました。大泉さんは、その決意を広島で表明するために、広島長崎世界のヒバクシャとの連帯を求め、肋骨を5本骨折という体で猛暑の中この集いに参加されました。
大泉さんは、「JCO事故で広島長崎と同じような悲惨な事が起きた。労働者が大量の放射線を浴びて2名が死亡した。自分たちも公衆の被曝限度の6年半分を一度に浴びた。事故の後妻は重いPTSDとなり夫婦ともども大変な苦しみを味わった。」と、当時の状況から話し出されました。
「裁判では、国が言っている事と対応して裁判長も認めないという事で、負けた。しかし絶対に風化させてはならない。投げ出してしまうという事では面目が立たないということで『臨界事故を語り継ぐ会』を作った。村長に会い、絶対に風化させませんときっぱり言った。健康診断が年1回実施されている。6月に県知事に会い、住民健康診断の精密検査費用を政府の交付金で負担せよと訴えた。広島長崎で苦しんでいる人がおり、私達も苦しんでいる。互いに手を取って頑張って行きたい。」
この大泉さんの力強い決意表明に応えて会場の参加者から連帯の大きな拍手が起こりました。
討論では、今後の晩発障害の監視が必要、原子力事故を繰り返えすなと11周年の行動をする、ヒバクを許さない集いを継続しようなどの意見が出ました。健康相談で現地と関わってこられた阪南中央病院の村田三郎医師からの今後も運動を継続しようとのメッセージが読み上げられました。平野さんからは、多くの在外被爆者裁判に関わった立場から、裁判で負けてもその後が大切との発言がありました。
報告3.「第1回政府交渉と今後の取り組み」:ヒバク反対キャンペーン 建部暹
原発被曝労働者とJCO臨界事故被害者の救済に向けた取り組み、労災認定の壁の問題を説明し、申し入れへの賛同を呼び掛けました。
ウラン採掘、原発、再処理などで日々被曝労働者が生み出されている。日本では原発で被曝労働した人は30万人規模に達しているがその健康被害は放置されている。40年間に労災認定されたのはわずかに10人である。
放射線被曝の労災では死亡または致死性の疾病の割合が一般の労災に比べて高い(ドイツの統計では2倍)。しかし健康管理手帳が交付されず、離職後の健康管理がなく、健康被害の発見が遅れる。本人には放射線との関連が分かりにくく、労災申請は40年間で20件と非常に少ない。イギリスでは25年間に1400件の申請、114件の認定となっている。長尾さんと喜友名さんの労災認定を勝ち取り、今春から労災認定の対象疾病に多発性骨髄腫と悪性リンパ腫が追加されているが、原爆症認定が全てのがんと放射線起因性のある疾病を対象に明記しているのと比べてもまだまだ限定されている。白血病にのみ認定基準線量が決められていて、その他の疾病には適用されない。労働現場や疾病などこれまで厚労省が公開していたものが非公開となり情報公開が大きく後退している。このように労災認定には厚い壁があり、海外に比べても労災申請・認定の実態は極めてシビアである。
原発被曝労働者・JCO臨界事故被害者の救済に向けた「対政府申し入れ書」への賛同を増やし今秋に第2回の対政府交渉を行いたい。労働者の課題であるので、帰られたらぜひ皆さんの職場で広げていただきたい。
報告4.「連帯のアピール」:アメリカ先住民でアコマ族のピノさん
ウラン採掘の被害を、特に労働者の被害とその補償の実現を目指した運動を中心にして訴え、ともに連帯して世界的な原発推進で被害が拡大する事に反対しようと呼びかけられました。(通訳全文を6ページから掲載しています。)参加者は、これまで知らなかった事が次々と明らかになるピノさんの話に熱心に聞き入りました。ウラン採掘に反対すること、原発推進に反対すること、世界のヒバクシャと連帯することの重要性が改めて参加者に認識されました。
<討論>
これらを受けて、集いパート11のアピールを採択しました。
アピールでは、「国家補償に基づく被爆者援護法への改正を含め、原爆被爆者の闘いの支援の輪を全国に広げよう。『被爆体験者を被爆者と認めよ』の全国署名に取り組もう。『JCO臨界事故を語り継ぐ活動』を支持し、JCO事故ヒバクについて全国に伝え、今後も住民健康診断の長期継続、精密検査の無料化、健康影響の監視の取り組みを継承しよう。『申し入れ書』の賛同を各地に広げ交渉を前進させよう。労働者に一層の被曝を強要し、重大事故の危険性を高める原発の運転期間延長に反対し、新増設を許さず、脱原発に向かわせよう。原発輸出に反対し、先住民と連帯してウラン採掘に反対しよう。新たなヒバクシャを生みださないために、ヒバクをもたらすあらゆる核に反対し、世界のヒバクシャとの連帯を深めていこう。ヒバクを許さない集いのこれまでの成果を引き継ぎ、今後も運動を前進させよう。」と呼び掛けています。
最後に、運営委員の木原さんが、「この平和運動の原点といえる広島・長崎を体験している日本人として、今日この会に参加された皆さん一緒にヒバクを許さないために頑張っていこうではありませんか。また来年会いましょう。」と締めくくりました。
プログラム
1.原爆被爆者の訴えとその一刻も早い実現に向けて
講演 平野伸人(全国被爆2世協 前会長) 及び 質問と討論
2.JCO臨界事故被害者、原発被曝労働者の救済に向けて
JCO臨界事故健康裁判の最高裁判決と今後の取り組み
報告 大泉昭一(健康被害裁判 原告) 及び 質問と討論
第1回政府交渉と今後について
報告 建部 暹(ヒバク反対キャンペーン) 及び 質問と討論
3.ウラン採掘による被害
連帯のアピール メニュエル・ピノ(アメリカ先住民)
4.総合討論とアピール採択
案内ビラより
被爆65周年を迎え、原爆被爆者の訴えを一刻も早く実現させるための取り組みが活発化しています。
原爆症認定については現在約6000人の被爆者が審査を待っています。新基準のもとでも昨年から「却下」が激増し、今年度はその傾向が一層強まっています。認定の拡大が緊急の課題です。広島では大規模な住民アンケートを基礎に黒い雨地域の拡大をめざす取り組みが進められています。長崎では「被爆体験者」の扱いを受けている被爆者が「被爆者として認めよ」と裁判・署名活動に取り組んでいます。在外被爆者、被爆2世の課題を含め、講演「被爆者の訴えとその一刻も早い実現に向けて」を受けて、取り組みの拡大に向けて話し合います。
日本で最大の原子力事故・JCO臨界事故から11年目です。この事故で、政府の過小な評価でも労働者・住民あわせて666名が被曝し、大量被曝の労働者2名が死亡しました。今春の周辺住民健康診断には例年の規模の住民245名が受診し、その多くが健康不安を訴えています。大泉夫妻を原告とする健康被害裁判は、5月13日、最高裁が上告を却下しました。政府は大量被曝した3名以外はJCO事故の人的被害は生じないとしてきました。大泉夫妻の具体的な健康被害の訴えに対して、司法は原告に厳しい因果関係の立証を求める一方、事実を歪曲したJCOの主張を認め、訴えを却下したのです。茨城では「臨界事故を語り継ぐ会」が発足しました。東海村からの報告を受け、運動の継承に向けて討論を深めます。JCO事故ヒバクについて全国に伝えましょう。
原発被曝労働者とJCO臨界事故被害者の救済に向けた政府交渉の取り組みが続けられています。原発被曝労働者については、離職者への健康管理手帳の交付と、全てのがんと放射線起因性疾病を労災認定の対象とさせることが中心課題となっています。報告を受け今後の取り組みを議論します。
原発の推進が再び強まる中で、日本はウラン採掘と原発輸出を進めています。今大会に参加されるウラン採掘に反対する米先住民の人たちからのアピールを受け、世界のヒバクシャとの連帯を深めます。
ヒバクを許さない集い-Part11 アピール
被爆65周年の今もなお多くの被爆者が苦しみ続けています。その原爆被爆者の訴えを一刻も早く実現させるための取り組みが活発化しています。
原爆症認定については2008年4月から新基準のもとで約6000人が認定され、現在約6000人の被爆者が審査を待っています。ところが、新基準のもとでも昨年から「却下」が激増し、今年度はその傾向が一層強まっています。認定の拡大が緊急の課題です。
広島では大規模な住民アンケートを基礎に黒い雨地域の拡大をめざす取り組みが進められています。
長崎では「被爆体験者」の扱いを受けている被爆者が「被爆者として認めよ。」と裁判・署名活動に取り組んでいます。
在外被爆者は医療費上限の撤廃などを、被爆2、3世は国家補償に基づく援護法の適用などを求めています。
これらの被爆者の闘い、さらに現行法を国家補償に基づく被爆者援護法へ改正することを含め、その支援の輪を、全国に広げましょう。「被爆体験者」の「被爆者として認めよ」の署名に取り組みましょう。
日本で最大の原子力事故・JCO臨界事故から11年目です。この事故で、大量被曝の労働者2名が死亡し、政府の過小な評価でも労働者・住民あわせて666名が被曝しました。今春の周辺住民健康診断には例年の規模の住民245名が受診し、その多くが健康不安を訴えています。政府は大量被曝した3名の労働者以外はJCO事故の人的被害は生じないとしてきました。2003年の刑事裁判判決でも3名以外の健康被害は問われていません。事故現場から130メートルで被曝した大泉夫妻を原告とする健康被害裁判は、本年5月13日、最高裁が上告を却下しました。具体的な健康被害の訴えに対して、司法は原告に厳しい因果関係の立証を求める一方、被告JCOの事実を歪曲した主張を認め、訴えを却下したのです。健康被害に苦しみながら原告として裁判を闘った大泉昭一さんが「集い」に参加され、「最高裁の決定に抗議する。決して風化を許さない。語り継いでゆく。」と決意を語りました。JCO臨界事故の問題は何も解決していません。それは東海村・茨城県だけの問題ではありません。各地の原子力施設立地点・周辺地域、更には全国の問題なのです。茨城では「臨界事故を語り継ぐ会」が発足しました。これを支持し、JCO事故ヒバクについて全国に伝え、今後も住民健康診断の長期継続、精密検査の無料化、健康影響の監視の取り組みを継承しましょう。
「ヒバクを許さない集い」は臨界事故の翌年の2000年8月に開催され、今回で11回目を迎えます。これまでに、「ヒバクを許さない集い」でJCO臨界事故および喜友名正さんの原発被曝労災の課題で対政府署名の拡大が呼び掛けられ、原水禁の取り組みとなって全国に広がりました。これを引き継いで、原発被曝労働者とJCO臨界事故被害者の救済に向けた取り組みが粘り強く続けられています。
日本の原発被曝労働者は30万人規模に達しています。その被曝線量から癌・白血病死に限っても300人規模の被害が推定されます。しかしこれまでの原発被曝労働者の労災認定は白血病の5件と白血病類縁の多発性骨髄腫及び悪性リンパ腫の2件のみです。健康被害のほとんどが放置されています。原発被曝労働者に健康管理手帳を交付させ無償の健康管理をおこなわせること、全てのがんと放射線起因性疾病を労災認定の対象とさせること、抜本的に労災補償をおこなわせることが課題となっています。政府への「申し入れ書」への賛同を拡げ、それを背景に今秋に第2回交渉を行いたいとの呼び掛けがありました。「申し入れ書」の賛同を各地に広げ交渉を前進させましょう。
世界的に原発の推進が再び強まる中、日本政府は原発を基軸電源と位置づけ国内で原発・核燃料利用を推進しています。その一方で、原発輸出を進めています。また、ウラン燃料の確保のため海外でのウラン開発を官民一体となって進めています。これらは新たなヒバクをもたらします。
国内では原発の運転期間の延長方針を打ち出されています。労働者に一層の被曝を強要し、また重大事故と被曝の危険性を高める運転期間の延長に反対し、新増設を許さず、脱原発に向かわせましょう。
ウラン採掘に反対し今大会に参加されたアメリカ先住民のピノさんから、「60年以上にわたる核兵器開発と原子力エネルギー利用のため、ウラン採掘による被害が先住民に押し付けられてきた。今また世界で新たなウラン開発が進められている。反核・反原発運動に取り組む日本の人々と共にウラン鉱再開発反対を闘っていこう」と力強い連帯のアピールを受けました。原発輸出に反対し、先住民と連帯してウラン採掘に反対しましょう。
被爆65周年の今日もなお苦しんでいる原爆被爆者、被爆2世、3世、原発推進のもとで日々放射線被曝している原発被曝労働者、JCO臨界事故で被曝しながらなんら補償されない住民・労働者、ウラン採掘により被曝させられている先住民、核実験やチェルノブイリ原発事故など被曝と放射能に苦しんでいる人々など、あらゆるヒバクシャを結んで、互いの運動に学び、健康管理手帳の交付、ヒバク補償を求める運動を強めていきましょう。
新たなヒバクシャを生みださないために、ヒバクをもたらすあらゆる核に反対し、世界のヒバクシャとの連帯を深めていきましょう。ヒバクを許さない集いのこれまでの成果を引き継ぎ、今後も運動を前進させましょう。
2010年8月5日
ヒバクを許さない集い-Part11 参加者一同