増加する被ばく労働者の労災補償申請・認定 厚生労働省のリーフレット

近年、原発被ばく労働者の放射線被ばくによる障害の労災補償申請・認定の頻度が増えています。東電福島第一原発事故以前の原発の運転開始からの35年間で労災認定は10人でした。最近は、原発や医療分野などで通常年1~2例です。原発被ばく労働者で増加傾向にあり、福島原発事故後の10年余りで11件です。疾病の種類も増えています。

厚生労働省の「当面の労災補償の考え方」

厚労省は2012年9月、放射線被ばくによる胃がん・食道がん・結腸がんについて、「当面の労災補償の考え方」を公表しました。
労災補償に当たっては、当面、
(1)これらのがんは100ミリシーベルト以上で放射線被ばくとがん発症との関連がうかがわれ、被ばく線量の増加とともに、がん発症との関連が強まること。
(2)放射線被ばくからがん発症までの期間が、少なくとも5年以上であること。
(3)放射線被ばく以外の要因についても考慮する必要があること。
を総合的に判断するとしています。

続いて、膀胱がん・喉頭がん・肺がん、甲状腺がん、肝がん、膵がん、脳腫瘍、前立腺がんについて「労災補償の考え方」を公表しました。
    胃がん・食道がん・結腸がん(2012年9月28日)
    膀胱がん・喉頭がん・肺がん(2015年1月28日)
    甲状腺がん        (2016年12月16日)
    肝がん          (2017年10月27日)
    膵がん          (2018年6月27日)
    脳腫瘍        (2020年3月19日)
    咽頭がん       (2020年3月19日)
    前立腺がん      (2022年6月28日)

○放射線によるがんの閾値がないことが明らかにされているにもかかわらず100ミリシーベルト以上の放射線被ばくに限定していることは全く不当です。
○日本の原子力施設労働者の疫学調査によると、100ミリシーベルトを超える被ばくをし、これらのがんで死亡した労働者は140名を超えます。
 少なくともこれらの労働者遺族に厚労省の労災補償の考え方や個人の被曝線量などを通知させ、遺族補償の時効5年を適用せず労災申請を受け付けさせなければなりません。 → 詳細
○これらのがんを労規則別表の労災対象疾病リストに追加させること(肺がんは労災対象疾病リストに含まれている)、認定基準を引き下げさせることが課題です。
○原爆症認定基準に準じて、悪性腫瘍については全てを対象とし、その他の疾病も対象に明記させましょう。

「当面の労災補償の考え方」を盛り込んだ厚労省の被ばく労働者向けリーフレット

厚生労働省は、リーフレット「放射線被ばくによるがんなどの疾病の補償制度のお知らせ」を配布しています。一般的には被ばく労働者に労災補償の制度を知らせるものですが、固形がんについて100ミリシーベルト以上という被ばく線量の厳しい制限が示され、それにより、労災申請を抑制する内容です。


   

1.放射線被ばくによって発症する恐れのある疾病として、白血病と16のがん、白内障、皮膚障害が示されています。
  ○放射線による悪性新生物(がん)
   白血病,非ホジキンリンパ腫,悪性黒色腫,胃がん,咽頭がん,肝がん,結腸がん,甲状腺がん,
   咽頭がん,骨肉腫,食道がん,膵がん,多発性骨髄腫,脳腫瘍,膵がん,皮膚がん,膀胱がんなど
  ○放射線皮膚障害等
   白内障、皮膚潰瘍などの皮膚障害

2.肺がん等の固形がんについて「当面の労災補償の考え方」が記載されています。
  ①被ばく線量が1OOmSv以上から放射線被ばくとがん発症との関連がうかがわれ、
   被ばく線量の増加とともに、がん発症との関連が強まること
  ②放射線被ばくからがん発症までの期間が少なくとも5年以上であること
  ③放射線被ばく以外の要因についても考慮する必要があること
  などを含めて、総合的に検討します。

肺がん等固形がんの発生を100ミリシーベルトを閾値とする根拠はない

肺がんなど固形がんは100ミリシーベルト以上から放射線被ばくとがん発症との関連がうかがわれるとする見解は、政府が福島原発事故以降マスコミ等を通じて広めている見解に沿ったものです
100ミリシーベルトに閾値があるという根拠はなく、論争されるとしても統計の検出能力の問題です。
従って補償制度においては100ミリシーベルト以下を切り捨ててはなりません。

固形がんの放射線被ばくによる発症を限定する根拠はない

リーフレットでは16の固形がんが記載されています。これ以外は放射線被ばくによって発症しないとする根拠はありません。
現に同じ厚生労働省が管轄する原爆症認定においては、がんについては認定対象となる疾病は限定されていません。

被ばく労働者の線量限度を大幅に引き下げよ

放射線被ばくの健康影響については、主に、広島長崎の被爆者の追跡調査の結果が根拠にされています。
1980年代に被害が増加したことと原爆放射線の見直しから、放射線影響が10倍高いことがわかりました。しかし、ICRPは線量線量率効果で通常の放射線被ばくの健康影響は原爆放射線によるものの半分であるとしています。
1985年のパリ声明でICRPは公衆の線量限度を年5ミリシーベルトから年1ミリシーベルトに引き下げました。
しかし、当時の1977年勧告による被ばく労働者の線量限度年50ミリシーベルトはそのまま据え置かれています。
1990年勧告でも2007年勧告でも残され、5年間100ミリシーベルトの基準と併用されています。
従って、被ばく労働者の線量限度は1/10に、大幅に引き下げられるべきです。
これにより、健康被害の個人リスクを減少させることができます。

Copyright(c)ヒバク反対キャンペーン.All rights reserved.