原発被ばく労働者 肺がん死亡労災認定(2018/8/31)

2018年8月31日付けで、福島原発の緊急時作業に従事した男性の肺がん死亡が労災認定されました。
 報道によると、この男性は、東電の協力会社に勤務し、1980年6月~2015年9月のうち約28年3カ月間、東京電力福島第1原発を中心に複数の原発で放射線管理業務などに携わりました。そのうち2011年3~12月は、福島第1原発で除染作業をする現場の放射線量を事前に測る作業などの緊急作業に当たり、2015年9月まで同原発で放射線業務に従事しました。
 2016年2月に肺がんを発症し、その後死亡。遺族が労災申請していました。
 積算被ばく線量は約195mSvで、約34mSvが事故発生から2011年12月までの東京電力福島第1原発における緊急時被ばく作業によるものです。2015年9月までに事故後の福島第1原発における被ばく線量は74mSvに達しました。
 2018年8月28日に開催された厚生労働省の検討会が「業務上」との結論を出し、水戸労働基準監督署長が2018年8月31日付けで労災認定を決定しました。

今回の肺がん労災認定は厚労省の2015年1月28日<当面の労災補償の考え方>に基づくものです。
<当面の労災補償の考え方>
1 放射線業務従事者に発症した膀胱がん・喉頭がん・肺がんの労災補償に当たっては、当面、検討会報告書に基づき、以下の3項目を総合的に判断する。
(1)被ばく線量
膀胱がん・喉頭がん・肺がんは、被ばく線量が100mSv以上から放射線被ばくとがん発症との関連がうかがわれ、被ばく線量の増加とともに、がん発症との関連が強まること。
(2)潜伏期間
   放射線被ばくからがん発症までの期間が、少なくとも5年以上であること。
(3)リスクファクター
   放射線被ばく以外の要因についても考慮する必要があること。
2 判断に当たっては、検討会で個別事案ごとに検討する。
      資料3 肺がんと放射線被ばくに関する医学的知見について

この男性は、肺がんを発症した2016年2月から5年遡った2011年2月には、累積約120mSv被ばくしています(195-74=121mSv)。
放射線被ばく以外の要因についても検討した結果、最終的に業務上との判断となったものと思われます。

政府は福島原発以降、100mSv以上の被ばくで放射線被ばくによる健康影響が認められるとの見解を示してきました。厚生労働省も肺がん等については100mSv以上の被ばくを労災認定の要件としました。
今回そのような高線量の被ばく労働者が労災認定されたことから、改めて原発被ばく労働者が過酷な被ばく労働に従事している実態が明らかになりました。

今回の労災認定に関連して次の問題点があげられます。
(1) 今回の「原発被ばく労働者の肺がん労災認定」は氷山の一角です。
原子力施設被ばく労働者の疫学調査(解析対象者204,103人)では、被ばく線量が100mSvを超える6,508人の労働者のうち48名が肺がんで死亡(2010年12月末)しています。
(2) 原爆被爆者のがんは1mSv以上で原爆症として積極認定されています。
100mSv以下の肺がんを労災認定しない「当面の労災補償の考え方」はあまりにも高い壁です。

事故後の福島第一原発で放射線業務に従事した労働者の労災認定としては5例目です。
1例目 2011年11月~2013年12月の1年半建設会社社員として玄海、福島第一で作業。19.8mSv被ばく。
そのうち2012年10月以降の1年1カ月間は、福島第一原発で作業。15.7mSv被ばく。
会社を辞めたあと、2014年1月に白血病と診断される。2015年10月20日に労災認定。
2例目 2011年4月~2015年1月の3年9カ月間機械修理会社社員として福島第一で作業。約99mSv被ばく
2015年1月に健康診断で白血病と診断され、2016年8月19日富岡労基署が労災認定
3例目 1992年から2012年まで20年間、福島第一原発など複数の原発で原子炉の運転や監視業務などに従事し、累積149.6ミリシーベルト(mSv)被ばくした。
2011年3月から2012年4月まで、福島第一原発事故の緊急時作業・収束作業(水量計や圧力計などの確認、注水ポンプなどの燃料補給など)に従事。1号機と3号機の原子炉建屋の水素爆発時も敷地内で作業に当たっていた。
この期間の被ばく線量は139.12mSvで、うち約40mSvは内部被ばくであった。
東電は甲状腺等価線量と全身実効線量の換算係数として1/20を使っているので、この男性の甲状腺等価線量は800mSvとなる。
2014年4月に甲状腺がんと診断され、既に切断手術を受け職場復帰し、現在も通院を続けている。
2016年12月16日、甲状腺がんが富岡労基署で労災認定された。
4例目 1994年~2016年2月の約19年間、東電社員として福島第一で作業。約99mSv被ばく。
うち、約91mSvが事故発生から2011年12月までの緊急時被ばく作業による。
2016年2月に健康診断で白血病と診断され、2017年12月13日、厚労省検討会が業務上と結論
5例目 1980年6月~2015年9月のうち約28年3カ月間、福島第一原発を中心に複数の原発で放射線管理業務などに従事。累積被ばく線量は195mSv。
うち、約34mSvが事故発生から2011年12月までの福島第一原発緊急時被ばく作業による。事故後の福島第一原発での業務による2015年9月までの累積被ばく線量は74mSv。
2016年2月に肺がんを発症し、死亡。死亡時期は遺族の意向で明らかにされていない。
2018年8月28日、厚労省検討会が業務上と結論、水戸労基署が8月31日付けで労災と決定した。

事故後の福島第一原発作業者から17件の労災申請
 今回認定された件を含め、事故後の福島第一原発の作業従事者から17件の労災が申請されています。
 労災認定5件(白血病3件、甲状腺がん1件、肺がん1件)、不認定5件、調査中5件、取り下げ2件となっています。

50mSv超え緊急時作業従事者に限定した「手帳交付」の問題点が浮き彫りに
 福島第一原発の緊急時作業従に約2万人が従事しました。政府は50mSvを超えた約900人に限定して労働安全衛生法66条に基づく健康管理の「手帳」を交付しています。人数で4.5%、集団線量で30%にすぎません。
 今回肺がん死が労災認定された方は「手帳」交付の対象外です(緊急時作業の被ばく線量34mSv)。
 一人も残さず健康管理し、早期発見するために、国は福島第一原発の緊急時作業従事者全員に「手帳」を交付すべきです。

  全国の原子力施設被ばく労働者の疫学調査によると、累積被ばく線量100mSv以上で肺がん死亡は2012年12月末現在で48人。
 今回の肺がん労災認定は100mSvが認定基準とされました。全国の原子力施設被ばく労働者の疫学調査によると、解析対象者20歳以上の男性204,103人のうち、累積被ばく線量100mSv以上で肺がん死亡した労働者は2012年12月末現在で48人です。そのほぼ全員は(遺族が)労災申請を行っていません。厚労省は福島第一原発事故の後に、100mSv以上の被ばくで労災認定の可能性があると決めたからです。政府はこの労働者の遺族に労災補償の可能性があることを伝えるべきです。

調査 10< 10- 20- 50- 100+ 解析対象者 観察期間
第Ⅳ期 801 102 118 56 33 男性203,904人 2007年12月31日まで
第Ⅴ期 1286 153 180 89 48 男性210,156人 2010年12月31日まで
原子力施設の被ばく労働者肺がん死亡数
第Ⅴ期報告では、調査対象者277,128人(男性:274,560人、女性:2,568人)のうち2014年3月31日までに交付を受けた住民票の写し等による追跡調査に基づき、生死を確認できた男性210,156人のうち、2010年12月31日までの観察期間が設定できた20歳以上の男性204,103人を解析対象者とした。

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