福島第一原発緊急時作業の被ばく(2011年3~12月)

緊急時作業従事者の被ばく線量
・政府は2011年3月4日に「緊急時線量限度100mSv」を250mSvに引き上げ、12月16日に戻した。
・2011年3月の緊急時作業従事者は、東電社員1696人、下請等2286人、計3382人。
・事故発生から12月末までの従事者は、東電社員3282人、下請け等16308人、計19590人。
下請け等従事者が大部分を占めた(3月57.4%、4月71.7%、5月79.8%、6~12月80%台)。

表1.毎月ごとの従事者数、被ばく線量(出典:東電報告)
期間東電社員下請け等下請け等の割合
(%)
従事者数被ばく線量(mSv)従事者数被ばく線量(mSv)
最大値平均値最大値平均値
2011-031696670.3631.532286238.4214.1557.4
2011-04165759.606.66420449.614.3571.7
2011-05147733.423.14582848.803.3779.8
2011-06135116.292.12640289.503.0882.6
2011-07135131.131.69652161.972.4382.8
2011-08128623.331.72623066.502.2082.9
2011-09120711.351.45600033.402.0183.3
2011-10117936.351.57562323.501.8482.7
2011-11118013.401.07558023.031.4682.5
2011-12119223.201.10540819.201.4381.9

地震後のイチエフの状況と対応作業
(01) 津波の襲来、炉心溶融、水素爆発
・原子炉建屋やタービン建屋を 数mも覆う津波が襲来し、建屋内へ大量の水が浸水した。
・地震の影響を調査していた社員2名が4号機タービン建屋地下で津波に被災し、死亡(捜索中に3月30日に発見された)。
・中央制御室のあるサー ビス建屋は、2階は浸水を免れたが、1階は浸水し、管理区域入域のための装備品や線量計などが海水で使えなくなったり、ラックごと倒れたりするなどの被害を受けた。
(02) 全電源喪失
・建屋内にある電源設備の電源(交流、直流)はすべて喪失し、電動の弁や ポンプ、監視計器などが動かなくなった。
・建屋内は照明がなくなり手探り状態で進むしかないような暗闇となった。
(03) 通信障害が発生
・中央制御室外の建屋や建屋外で通信が困難な状態に至った。
(04) 構内はガレキの散乱、道路の陥没、マンホール蓋流出等危険な状態に
・発電所の海側周辺は津波により流された重油タンク(直径11.7m×高さ9.2m)や自動車をはじめ瓦礫が散乱し、マンホールの蓋が流され、 現場の道路は陥没するなど危険な状態へと変わり果てた。
(05) 地震・津波後の対応作業
・自動車からのバッテリー調達を含め、バッテリーを集めるなど電源の確保、バッテリーをつないで計器用電源として使用した。
・中央制御室での炉心状態の把握、図面による原子炉システムの確認、危機対処方法の検討、原子炉建屋での弁操作、道路の復旧作業(耐震裕度向上工事等のために構内に入っていた協力企業の協力を得て重機やダンプ、砂利を確保し、通行不能となっていた道路を復旧)、津波によるがれき撤去、ポンプ車による注水ラインの確保、ポンプ車による炉心冷却水注入作業(実働部隊は消防車による消火活動を委託している協力企業N社の従業員)。
・電気関係以外の社員も動員してケーブルの敷設作業を人力で実施。通常であれば1・2ヶ月を要するが、数時間でやり遂げた。暗闇の中で、敷設のための貫通部を見つけたり、端末処理を行う必要も ある。水たまりの中での作業で、感電の恐怖すらあった。
(06) ベント作業
・原子炉建屋に入った作業員の証言:「ベント弁の開放作業のため、現場に出かけた。・・・弁が、一番上の物であったので、トーラス部分に足をかけ作業をしようとしたら、黒い長靴がズ ルッと溶けた。 」(出典)(東電中間報告 別冊p.41)
(07) 炉心溶融が進行
1号炉:11日20:00頃、炉心と圧力容器の損傷が始まった可能性がある。12日02:45、原子炉圧力容器破損の可能性が高い。15:36、水素爆発により原子炉建屋が損傷。
2号炉;13日12:30、原子炉の熱で運転されていた炉心隔離時冷却系が故障。18:22 までに、炉心が完全露出した徴候。21:18 頃までに原子炉圧力容器が破損。15日6:14頃 大きな衝撃音と振動が発生。07:38 頃より、大量の放射性物質放出。
3号炉:13日02:42、高圧注水系が停止。11:01、水素爆発により原子炉建屋が損傷。
(08) 12日、東電社員の線量が100mSvを超過
・「1号機の原子炉格納容器の圧力を降下させる操作を実施しておりますが、原子炉建屋内で作業をしていた当社社員1名の線量が100mSvを超過しております。(106.3mSv)。現在、産業医が不在のため、後日診断することとします。」(出典)東京電力プレスリリース(2011年3月12日午後1時)
(09) 注水作業
注水作業はポンプ車を操作できる消防委託契約の下請企業(N社)の従業員が行った。
・11日夜、消防車・水源・注水ラインの確認。使用可能な消防車は1台のみ、消防車の追加手配。12日4:00注水開始、14:53約8万㍑淡水注入完了。
・「N社は、東京電力からの委託業務外である上、作業員を高い放射線量の中で危険な作業に従事させることになるが、急を要する事態であったため、これを応諾した。・・・ 3月12日4時20分頃、1号機T/B付近の放射線量が上昇したため、N社社員は一旦免震重要棟に戻った。 N社は、高い放射線量の中で、社員に委託業務外の危険な作業をさせることになるため、これ以上、注水作業に従事することに難色を示した。しかし、発電所対策本部は、東京電力社員の中に消防車の運転操作をできる者がいない以上、N社に協力してもらうよりほかになかったことから、N社に対し、「東京電力社員で組織された自衛消防隊の人間も同行するので、引き続きN社から消防車の運転操作をできる者を出して注水作業を手伝って欲しい。」旨要請し、N社も、非常事態であることから、これを応諾した。」(出典)事故調査・検証委員会中間報告書Ⅳ4章p.123~、P.131~
(10) 3月12日15 時36 分頃、1号炉水素爆発
・電源復旧のために緊急作業で敷設した電源ケーブルが損傷し、復旧作業が頓挫
・海水注入の準備作業中の東京電力社員3名、N社社員2名が 負傷し、海水注入に向けてほぼ敷設を終えていたホースが損傷した。消防車による給水作業が続けられた。
(11) 3月14日11:01、3号炉水素爆発
・東電社員4 名、協力企業作業員3名、自衛隊4名が負傷。
(12) 3月15日06:00~06:12、4号炉で水素爆発
・3号炉から排気された水素ガスが逆流し、水素爆発が発生したとみられている。
(13) 恐怖に満ち過酷を極めたイチエフ作業の継続
・現場は、高まる放射線、圧力容器破壊の恐れ、相次ぐ水素爆発など、恐怖に満ち、作業は高線量下で強行され、過酷を極めた。

3月14日、緊急時作業被ばく限度の250ミリシーベルト引き上げ
 事故発生とともに緊急時作業に指定され、更に3月14日に被ばく限度を法定の100mSv から250mSv に引き上げる特例省令が施行され、遡って適用された。多数の労働者が250mSv超えを含む高線量大量被ばくさせられた。
 法令では、短期間に少なくとも100mSvを超えて被ばくすれば晩発性障害以外に急性障害が発生する恐れがあることを根拠として、100mSvと定められている。
 緊急時作業限度の引き上げは、労働者に急性障害のリスクを負わせ、労働者の生命と健康を犠牲にする変更である。
「放射線障害防止」および「緊急時被ばく限度」の法的規定
1.放射線障害防止の基本
放射線障害防止の基本は、「放射線障害防止の技術的基準に関する法律」第三条に「基本方針」として書かれている他、電離放射線障害防止規則第一条にもうたわれている。
・放射線障害防止の技術的基準に関する法律 第三条
放射線障害の防止に関する技術的基準を策定するに当つては、放射線を発生する物を取り扱う従業者及び一般国民の受ける放射線の線量をこれらの者に障害を及ぼすおそれのない線量以下とすることをもつて、その基本方針としなければならない。
・電離放射線障害防止規則 第一条
 事業者は、労働者が電離放射線を受けることをできるだけ少なくするように努めなければならない。
2.緊急時被ばく限度
・原子炉等規制法の体系
実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の規定に基づく線量限度等を定める告示 第八条

 実用炉規則第九条第二項及び貯蔵規則第三十条第二項の経済産業大臣の定める線量限度は、実効線量について百ミリシーベルト、眼の水晶体の等価線量について三百ミリシーベルト及び皮膚の等価線量について一シーベルトとする。
・労働安全衛生法の体系
電離放射線障害防止規則 第七条

 事業者は、第四十二条第一項各号のいずれかに該当する事故が発生し、同項の区域が生じた場合における放射線による労働者の健康障害を防止するための応急の作業(以下「緊急作業」という。)を行うときは、当該緊急作業に従事する男性及び妊娠する可能性がないと診断された女性の放射線業務従事者については、第四条第一項及び第五条の規定にかかわらず、これらの規定に規定する限度を超えて放射線を受けさせることができる。
 2  前項の場合において、当該緊急作業に従事する間に受ける線量は、次の各号に掲げる線量の区分に応じて、それぞれ当該各号に定める値を超えないようにしなければならない。
 一  実効線量については、百ミリシーベルト
 二  眼の水晶体に受ける等価線量については、三百ミリシーベルト
 三  皮膚に受ける等価線量については、一シーベルト
 3  前項の規定は、放射線業務従事者以外の男性及び妊娠する可能性がないと診断された女性の労働者で、緊急作業に従事するものについて準用する。

事故発生当時の大量被ばくが5月、6月に判明
 放射性物質を含む空気が中央制御室に流入し、常駐していた運転員など多数の作業員が大量被ばくした。
このことが明らかになったのは5月以降であった。
 5月23日、運転員2名が日本原子力研究開発機構で体内に入り込んだ放射性物質の量の検査を受け、それぞれ甲状腺から、ほかの作業員の10倍を超える9760ベクレルと7690ベクレルの放射性ヨウ素が検出された.
 6月10日に2名の全身被ばく量が678mSv、643mSvと判明し、その他にも高線量を被ばくした作業員が明らかになっていった。
被ばく線量が緊急時作業被ばく限度250mSvを超えた6名
職員 所属 内部被ばく 外部被ばく 実効線量
職員A 当直(3,4号) 590 88.08 678.08
職員B 当直(3,4号) 540 105.56 645.56
職員C 当直(3,4号) 241.81 110.27 352.08
職員D 計測制御(1,2号) 259.7 49.23 308.93
職員E 計測制御(1,2号) 433.1 42.4 475.5
職員F 計測制御(1,2号) 327.9 31.39 359.29

高濃度に汚染され、極めて高線量率のイチエフで、緊急作業が強行された
 相次ぐ水素爆発、2号炉での爆発・損傷などで、一時、緊急作業員のほとんどは第2原発まで退避した。
 3月19日未明の記者会見で、東電は、「福島第一原発には、18日朝の段階で東電や協力企業の作業員ら279人がいる。体につけた線量計が80mSvになるとアラームが鳴り、作業を中断していたが、「100mSv近くになる作業員が増えてしまい、一部で超えるケースが出始めた」と説明している

高濃度に汚染され、極めて高線量率の現場
 現場は放射性物質で高濃度に汚染され、極めて高線量率であった。
 大量放出から約10日後の3月23日の測定で、最高130mSv/時が原子炉建屋西側で2か所測定されている。
 東京電力ホームページ 建屋周辺サーベイマップ
(2011年3月23日現在)

電源ケーブル敷設作業中に3名の足が汚染水に浸かり、大量被ばく
 線量計が個人に行き渡らずグループ代表の被ばく線量が使われるという状況であった。
3月24日、3号機タービン建屋内で、下請け企業従業員6名が電源ケーブルを敷設する作業に従事し、3名の足が高濃度汚染水に浸かるという事件が発生した。3人の被ばく線量は1回の作業で173から180ミリシーベルトに上った。足が汚染水に浸からなかった男性は11ミリシーベルト超被ばくした。従業員は、東電社員は撤退したのにK工業が作業を命じたと、訴訟を起こしている。
3月中の緊急時作業に、東京電力社員1696名、協力企業従業員2277名が従事し、うち474名が通常の年被ばく限度の50mSvを超え被ばくした。
表1 緊急時作業者の被ばく(2011年3月分)
区分 250mSv超え 50mSv超え 5mSv超え 従事者総数
東電社員 6名 最大670.36mSv 87名 327名 1590名 1696名
下請企業 21名 147名 1350名 2277名

5月から原子炉建屋内での作業
 5月から、原子炉建屋内での写真撮影、線量調査、水位調査、調査のための穿孔、除染などの作業が行われた。
重さ10数kgの空気ボンベを背負って、10分間、14分間に限定された線量調査、29分間で実被ばく線量が10mSvを超える現場確認、床を紙で拭き取りながら進んでいった現場調査などが強行された。これらの作業は1件の従事者10人以下の規模で行われた。
表2 2011年5月以降の建屋内緊急時作業
作業日 作業内容 線量(mSv) 作業員数
2011.05.05 1 換気ダクトの設置(重さ10数kgの空気ボンベを背負って作業) 計画3、実最大3.16 東電2
2011.05.09 1 現場状況の確認(29分間) 計画?、実最大10.56 東電7、保安院2
2011.05.18 2 放射線量の測定(空気ボンベを背負って作業) 作業時間 14分間 計画?、実3~4 東電4
2011.05.18 3 放射線量の測定  作業時間 10分間 計画?、実2~3 2
2011.06.09 3 窒素封入に向けた線量調査、計器点検。床を紙で拭き取りつつ進んだ。 計画?、実最大7.98 9
2011.07.26 3 Quinceによる建屋2階の線量その他調査 計画?、実最大2.22 東電6

緊急時作業が解除された2011年12月16日までに、約2万人が作業に従事
●全面マスクで空中の放射性物質の吸入を防ぐ以外は放射線防護もなく、放射性物質の侵入を防ぐために密閉した服装(タイッベックス)で体温が上がり熱中症になりやすい、という過酷な環境下で、がれき処理、除染、循環冷却システムを含む汚染水処理関連施設の増設・運用(建屋の建設、貯蔵タンクの組み立て、汚染水移送パイプ敷設・点検作業、汚染水移送作業・点検)、伐採等タンク増設用地の確保、原子炉建屋内の線量その他状況の調査、等の作業が行われた(イチエフ原子炉建屋内作業の詳細はイチエフ原子炉建屋内作業リスト参照)。

●緊急作業従事者約2万人のうち、約900人が単年度線量限度の50mSvを超えて被ばくし、約1万人が白血病労災認定基準の年間5mSvを超えて被ばくしている。

表3 緊急時作業者の被ばく(2011年12月まで)
区分 250mSv超え 100mSv超え 50mSv超え 5mSv超え 従事者総数
東電社員 6名 最大679mSv 150名 593名 2091名 3282名
下請企業 24名 350名 8462名 16305名

●甲状腺被ばく
東電はWHOに対し、作業員のうち、全身の内部被曝線量が比較的高いと考えられ、甲状腺被曝線量検査を受けた社員や関連企業などの社員522人のデータを提供した。それを受けて、2013年、WHOは、1万mSv超え2人、2千超え~1万mSv以下10人、1千超え~2千mSv以下32人、500超え~1千mSv以下50人、200超え~500mSv以下69人、100超え~200mSv以下15人、100mSv以下344人と報告書に記載した。
その後、厚生労働省の指導により、甲状腺被ばくの評価方法の吟味・線量再評価が行われた。その結果、甲状腺等価線量が100mSvを超える緊急作業従事者は1757名(東電社員892名、協力企業社員865名)に上ることが判明した。
表4 緊急時作業者の甲状腺被ばく線量
線量区分(mSv) 東電社員 協力企業
15,000超え 0 0
10,000超え~15,000以下 2 0
2,000超え~10,000以下 15 0
1,000超え~2,000以下 44 13
500超え~1,000以下 129 67
200超え~500以下 236 305
100超え~200以下 416 480
100以下 2391 15413
合計 3283 16278

●原発での作業が初めての業者が半数
厚生労働省によると、6月末時点で502社の作業員が福島第一原発に入っているが、このうち250社以上は原発での作業が初めての業者であった。重機を使ったがれき撤去など原発の通常時にはない作業が多いことによる。
事故前は放射線管理手帳の発行数は例年1万1000冊程度であったが、事故後4月から7月で1万1442冊に達した。7月は4124冊で、前年同期の830冊に比べ約5倍が発行された。
出典:放射線管理手帳の発行激増=収束作業に新規250社超―福島第1(時事ドットコム:2011年8月12日)

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