厚生労働省および専門委員の検討会に向けた「要請書」

 長尾光明さんは原発被曝労働を離職して17年後に多発性骨髄腫にり患し、健康破壊の体で不安な毎日を過ご
しておられます。
 多発性骨髄腫は既に海外では放射線被曝労働従事者に発生する被害として補償の対象となっています。また国
内の疫学調査でも放射線被曝線量との相関が認められています。多発性骨髄腫は白血病類縁性の疾患であり、長
尾さんは白血病認定基準の被曝線量の3倍以上被曝していることから、相当因果関係があることは明らかです。
 2003年1月に労災補償を申請してからすでに8ヶ月以上が経過しています。厚生労働省は一刻も早く長尾
光明さんの労災申請を業務上と認め補償を行うべきであると考えます。

1.多発性骨髄腫を補償対象とするべきであると考えます。

(1)医学の教科書にも記載されているように、多発性骨髄腫は白血病類縁性の疾病です。
(2)日本の疫学調査で統計的に多発性骨髄腫の放射線起因性が認められています。調査期間が7年と短いために多発性骨髄腫
   の死亡総数が少ないのであり、もしこの調査は科学的に不十分で例数が増えるまで補償しないということであればそれは
   放置であると考えます。

(3)アメリカの核関連施設労働者の職業病補償問題に関するクリントン・ゴア調書と関連する疫学調査では、多発性骨髄腫の
   放射線起因性が認められています。中でも、オークリッジ国立研究所、サバンナリバー、ハンフォード、ロスアラモスの
   労働者115,143人を対象とする調査は対象者が最も多く、死亡原因のはっきりしている24,331人の死亡者の
   うち98名が多発性骨髄腫でした。対照群との比較調査により多発性骨髄腫が放射線被曝に起因していることが明らかに
   されています。

(4)アメリカで2001年7月に施行されたEnergy Employees Occupational Illness Compensation Program Act では、多発性骨髄
   腫は補償の対象となっています。

(5)アメリカの被曝補償法においても、多発性骨髄腫は核実験場風下住民、核実験従事兵士の補償対象疾病となっています。

2.基発810号の白血病認定基準を準用するべきであると考えます。

(1)多発性骨髄腫は白血病類縁性の疾病であり、その認定基準は白血病認定基準に準ずるべきであると考えます。

(2)労働者保護を目的とする現行の認定基準で認定するべきであると考えます。基発810号の白血病認定基準では(5ミリ
   シーベルト×従事年数)の被曝線量をもって相当因果関係があるとされています。5ミリシーベルトは基発810号が作
   られた当時の公衆の被曝線量限度であり、この基準は(27年前の基準は現在ではもっと低く設定し直されるべきである
   という問題がありますが)労働者の保護を目的に放射線被曝労働者の労災補償を行うために重要な意味を持っています。

3.長尾さんの被曝線量70mSvは、多発性骨髄腫の増加が疫学調査により認められている線量域
  にあります。

(1)長尾さんの被曝線量70mSvは基発810号の白血病認定基準の相当因果関係の3倍以上の被曝線量です。
(2)この被曝線量域では多数の疫学調査で、多発性骨髄腫の放射線起因性が統計的に有意に認められています。

4.放射線被曝労働者が多発性骨髄腫の労災適用を申請した初めての事例であることから、個別
  案とはいえ、専門家の委員による検討は可能な限り公開で行われるべきであると考えま
  す。

  委員会のメンバーの公開、委員会開催日程と審議事項の事前発表、毎回の議事録と関係資料等の公開を求めます。

                                                                    2003年10月9日
                                                                   ヒバク反対キャンペーン