資料 放射線被曝と多発性骨髄腫の関係を示す疫学調査の結果
1. アメリカ、イギリス、カナダの各施設労働者の調査
表1.外部放射線被曝線量が記録されており、6ヶ月以上働いた労働者95,637人の調査(文献1)
ハンフォード | ロッキーフラット | オークリッジ | シェラフィールド(英) | シェラフィールド以外のサイト | AECL(カナダ) | 合計 | |
被曝労働者数 | 32,595 | 6,638 | 6,591 | 9,494 | 29,000 | 11,355 | 95,673 |
働いていた期間 | 1944-1978 | 1951-1979 | 1943-1972 | 1947-1976 | 1946-1982 | 1956-1980 |
|
調査期間 | 1944-1986 | 1951-1979 | 1943-1984 | 1947-1988 | 1946-1988 | 1956-1985 | |
死亡数 | 6,445 | 587 | 1,246 | 2,027 | 4,629 | 891 | 15,825 |
ガン死者数 |
1,508 | 109 | 306 | 544 | 1,272 | 239 | 3,976 |
人・年 |
781,549 | 100,022 | 173,730 |
233,090 |
637,925 |
198,210 |
2,124,526 |
集積線量(Sv) |
877.2 | 241.8 | 141.4 |
1,309.6 |
958.6 | 314.6 |
3,843.2 |
表2.観測された死亡数(上段)と期待値(下段)(文献1)
線量(mSv) |
0 |
10− |
20− |
50− |
100− |
200− |
400− |
死亡合計 |
結果(p) |
全ガン |
2317 2317.3 |
483 483.5 |
465 494.7 |
285 263.2 |
201 196.8 |
165 151.5 |
60 69.9 |
3976 |
-0.02(0.508) |
白血病以外のガン |
2234 2228.3 |
462 465.4 |
445 476.9 |
276 254.3 |
196 90.5 |
161 147.5 |
56 67.3 |
3830 |
-0.28(0.609) |
多発性骨髄腫 |
28 26.6 |
3 5.2 |
1 4.7 |
5 2.7 |
3 2.1 |
2 1.9 |
2 0.8 |
44 |
1.87(0.037) |
すべての白血病 |
72 75.7 |
23 21.2 |
20 21.8 |
12 11.3 |
9 7.8 |
4 |
6 |
146 |
3ヶ国調査の結論
1)白血病は死亡時から2年間、他のガンは死亡時から10年間のタイムラグを設定した(潜伏期間を考慮した)
2)「多発性骨髄腫」および「慢性リンパ性白血病以外の白血病」について、95%の信頼性で線量と死亡
との関係が明らかになった。90%の信頼性ですべての白血病で認められた。
コメント:多発性骨髄腫については50mSv以上で有意差がある。別の論文では50-100mSvの群で多発性骨髄腫が
対照と比べて有意差があることを証明している。
2. 米エネルギー省の4核施設の調査
オークリッジ国立研究所、サバンナリバー、ハンフォード、ロスアラモスの4施設あわせて115,143人の労働者
(そのうち死亡原因がはっきりしている人は24,331人)の調査。
死亡者の中で98人が多発性骨髄腫であった。この98人に対して、年齢、人種、性別、生年月日、働いていた施設、
働いていた年代、働いていた期間、を同じようにして対照群の391人の被曝労働者を選び、比較した。
表1.多発性骨髄腫のオッズ比(文献3)
|
10mSv未満 |
10-50mSv未満 |
50-100mSv未満 |
100mSv以上 |
オッズ比 |
1.0 |
0.77 |
3.55 |
5.15 |
ベータ(標準誤差) |
Reference |
−0.26(0.54) |
1.27(0.81) |
1.64(0.66) |
ケース/コントロール |
83/341 |
5/31 |
3/7 |
7/12 |
注)45歳以上からの被曝、5年間のタイムラグ
誕生日、人種、性別、最も長く働いた施設、内部各種モニタリング、等の補正を施している。
コメント:多発性骨髄腫が放射線被曝に起因していることを明確に示している。特に45歳以上からのヒバク線量との相関が
明らかである。この調査集団は文献1の調査集団より多く信頼性も高いものと考えられる。
3. 日本の疫学調査
表1.日本の疫学調査の対象.
全解析対照集団 |
平均観察期間 |
人・年 |
平均累積線量 |
総集団線量 |
死亡数 |
悪性新生物 |
多発性骨髄腫 |
175,939人 |
7.9年 |
1,389,918 |
12mSv |
2,109人・Sv |
5,527人 |
2,138人 |
20人 |
この論文の結論
「多発性骨髄腫は住所地を調整した解析で有意な傾向を示した。しかし、症例数が極めて少ないので放射線との関係を論じる段階にはない。」
コメント1:調査期間が文献1〜3の調査に比べ短く、調査期間中の全死亡者、ガン死亡者とも少ない。
今後はアメリカの調査と同様の傾向が明確になると考えられる。
|
日本の疫学調査 |
3カ国疫学調査 |
アメリカ4施設の疫学調査 |
調査集団数(人) |
175,939 |
95,673 |
115,143 |
人・年(調査期間×集団数) |
1,389,918 |
2,124,526 |
|
全死亡者数(人) |
5,527 |
15,825 |
24,331 |
ガン死者数(人) |
2,138 |
3,976 |
|
多発性骨髄腫の死者数(人) |
20 |
44 |
98 |
集団集積線量(人・Sv) |
2,109 |
3,843.2 |
|
コメント2:50mSvを越える放射線被曝労働者は11,551人。 長尾さんはこの中に含まれる。
累積線量群 (mSv) |
人数 (人) |
割合 (%) |
平均累積線量 (mSv) |
<10 |
131,809 |
74.9 |
1.6 |
10− |
16,309 |
9.3 |
14.3 |
20− |
16,270 |
9.2 |
31.6 |
50− |
7,390 |
4.2 |
69.8 |
100+ |
4,161 |
2.4 |
154.0 |
合計 |
175,939 |
100 |
12.0 |
参考文献)
1)E.Cardis, E.S,Gilbert et al.:Effects of low dose and low dose-rate of
external ionizing radiation :
Cancer mortality among nuclear industry wokers in three coutries Rad. Res.142 pp117-132(1995)
2)D.B.Richardson, and S.Wing:Radiation and mortality of workers at Oak
Ridge national Laboratory;
Positive assoiations fo doses received at older ages.
Environmental Health perspectives
107,pp649-656(1999)
3) S.Wing D.Richardson,et al:A case control
study of multiple myeloma st four nuclear facilities. AEP 10pp144-153(2000)