厚労省に検討会開催を約束させる・・・2024年4月2日被ばく労働者問題省庁・東電交渉
3か国原子力施設労働者の疫学調査をもとに、「当面の労災補償の考え方」の見直しを迫る

 4月2日、ヒバク反対キャンペーンも交渉団に参加している「第25回被ばく労働者問題省庁東電交渉」が開催されました。
 この交渉の重要課題として、固形がんの労災補償を100ミリシーベルト以上としている「当面の労災補償の考え方」に対して、英仏米3か国原子力施設労働者の疫学調査(INWORKS)2023年報告をもとに見直せと迫りました。

固形がんの労災認定は100mSv以上とされ、極めて低い労災認定率。
 福島原発事故の少し前から原発労働者の固形がん労災補償請求が増え始め、現在は労災請求の多数を占めています。しかし、固形がんの労災認定率はその他のがん・白血病に比べ非常に低く、労災請求のほとんどが不認定となっています。

 固形がんの労災認定業務は、「当面の労災補償の考え方」によって行われており、「被ばく線量が100mSv以上から放射線被ばくとがん発症との関連がうかがわれ、被ばく線量の増加とともに、がん発症との関連が強まる」とされています。
 その根拠として、国連科学委員会(UNSCEAR)の2010年報告の記載「被ばく線量が100から200mSv以上において統計的に有意なリスクの上昇が認められる。」が挙げられています。

INWORKS2023年報告で固形がん過剰死と被ばく線量が、0~50mSvの低線量域で、「閾値無し直線関係」
 昨年8月に公表されたINWORKS2023年報告は、調査期間の延長及び固形がん死亡の増加により統計的検出力が高まり、0~50mSvの線量範囲でも固形がんの過剰死亡リスクと被ばく線量の間に「閾値なし直線関係」があることを統計的有意に示しました。
INWORKSにより「閾値なし直線関係」が統計的有意に示された最も低い線量範囲
 2015年報告2023年報告
白血病を除く全てのがん0~100mSv
固形がん0~600mS0~50mSv

「当面の労災補償の考え方」の見直し、検討会開催を要請
 今回の省庁・東電交渉で、信頼性の高いINWORKSによって新たな結果が統計的有意に得られたのであるから、「当面の労災補償の考え方」を見直し、100mSv未満の固形がんを労災認定せよ、そのための検討会を開催せよと要請しました。具体的には下記の「要請事項(抜粋)と事前回答」を見てください。

交渉の成果
①固形がん労災認定率は14%と極端に低いことが明らかになった。
要請に応じて厚労省が公表した労災補償状況(2008~2022年度末)
がんの種類  労災補償申請件数  支給決定件数 申請に対する支給決定率
固形がん36件(申請の61%)5件14%
固形がん以外23件(申請の39%)14件61%

②検討会を開催し、「当面の労災補償の考え方を検討する」との回答を引き出した。
 私たちは「当面の労災補償の考え方」を見直せと迫りました。しかし、厚生労働省は、事前回答に沿って、「低線量での放射線被ばくと発がんのメカニズムが明らかになっているとは言えない。労災補償の考え方を直ちに見直す状況にあるものとは考えていない。」と言い張りました。
 これに対して、「労災補償行政の目的は労働者の権利を守ることにある。信頼性の高いINWORKSによって新たな結果が統計的有意に得られたのであるから、検討委員会を開催せよ。」と強く迫りました。
 短い時間でしたが、参加者から次々と発言が続き、ついに「事前回答」から離れ、「日時までは確約できないが、検討会を開催します」との次につながる回答を引き出すことができました。
 国会内外で「当面の労災補償の考え方」を見直せの声を強めましょう。

要請書の要請事項(抜粋)と事前回答
4.固形がんに関する「当面の労災補償の考え方」見直しの必要及び労災認定基準について
 厚生労働省の「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」(以下「検討会」という。)は、15種類の固形がんについて、労災申請をうけてそれぞれ、「当面の労災補償の考え方」を示している。いずれのがんについても個別の固形がんに関する疫学調査からは「がんを発症する最低被ばく線量」の知見が得られず、統計的に感度の高い全がんに関して「被ばく線量が100から200mSv以下において統計的に有意なリスクの上昇が認められる」とした国連科学委員会(UNSCEAR)の2010年報告に依拠している。
 「当面の労災補償の考え方」はいずれも、がん発症と被ばく線量の関係について、「100ミリシーベルト以上で放射線被ばくとがん発症との関連がうかがわれ、被ばく線量の増加とともに、がん発症との関連が強まる。」としている。
 これによる固形がんの労災補償は、私たちが知りえた範囲で、申請23件中認定が5件に過ぎない。労災補償認定率は約22%で、白血病及び多発性骨髄腫や悪性リンパ腫などの白血病類縁疾患に比べて極めて低い。
 しかし近年、国際がん研究機関(lARC)等による3か国(英、仏、米)原子力施設労働者の疫学調査(lNWORKS)に代表される大規模で信頼性の高い疫学調査により、
①放射線被ばくの健康被害は100mSv以下でも聞値なしで被ばく線量に比例して生じる。
②「原爆放射線被ばくのリスクに比べ、原発の放射線被ばくのリスクは2分の1」とするICRP等の見解は支持されない。
ことが明らかになっている。
 2023年8月に公表された、調査期間が延長され統計的検出能力が高まった最新のINWORKS報告では、固形がん死亡に関する「線量効果関係」は、50mSv以下でも「聞値なし直線関係」であることが統計的に有意に示された。
 このように、固形がんの労災申請の大部分を不認定としてきた「当面の労災補償の考え方」はその根拠が揺らぎ、見直しが迫られている。
要請事項事前回答
4(1)「当面の労災補償の考え方」に沿って検討された固形がんの労災申請すべてについて、疾病、被ばく線量、検討結果、不認定の理由、を明らかにし、労災認定率を示すこと。



1 放射線被ばくによる疾病の請求状況は、平成20年度以降把握しており、東京電力福島第一原子力発電所を含む全国の原子力発電所で働かれた労働者からのがんの請求については、令和4年度末時点の数値で、請求件数は59件、そのうち支給決定件数は19件です。
2 また、固形がんに限った令和4年度末時点の数値では、請求件数は36件、そのうち支給決定件数は5件となっており、請求件数に対する支給決定件数の割合は約14%となっています。
3 なお、不支給となった個々の請求事案に関する疾病名、被ばく線量、不認定の理由については、個人情報保護の観点から回答は控えます。
4(2)最新のINWORKSの報告をどのように認識しているか明らかにすること。





1 当該報告は、仏・英・米の3か国の原子力施設作業従事者約30万人を対象とした、電離放射線被ばくと固形がんによる死亡に関する疫学調査であり、低線量被ばくにおいて、累積被ばく線量の増加と固形がんによる死亡リスクとの間に、一定の相関関係があることを報告しているものと認識しています。
2 -方で、低線量の電離放射線被ばくと固形がんの発症との因果関係については、医学的に明らかとはなっていないものと承知しております。
3 今後とも引き続き最新の医学的知見を収集し、適正な労災認定に努めてまいります。
4(3)最新の知見に基づき、「被ばく線量が100から200mSv以下において統計的に有意なリスク上昇が認められる」とする「当面の労災補償の考え方」を至急見直し、100mSv未満の被ばくによって発症した固形がんを業務上認定すること。1 電離放射線被ばくとがんの発病との関係については、医学専門家からなる「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」において、最新の医学的知見を踏まえたがんごとの当面の労災補償の考え方を取りまとめるとともに、最新の医学的知見の収集も行っているところですが、現在のところ、これまでに取りまとめたがんごとの労災補償の考え方を直ちに見直す状況にあるものとは考えておりません。
2 今後とも引き続き最新の医学的知見を収集し、適正な労災認定に努めてまいります。
4(4)見直しのための「検討会」を至急に開くこと。



1 厚生労働省においては、医学専門家からなる「電離放射 線障害の業務上外に関する検討会」を定期的に開催し、これまでに取りまとめたがんごとの労災補償の考え方が最新の医学的知見に適合しているかという点についても確認を行っているところですが、現在のところ、これを直ちに見直す状況にあるものとは考えておりません。
4(5)「労災補償制度のおしらせ」に見直しについての厚労省の見解や取り組みを掲載すること。




1 放射線被ばくによるがんなどの疾病の労災補償に関するリーフレットについては、毎年定期的に作成しており、新たに労災認定された「がん」や新たに労災補償の考え方を取りまとめた「がん」を追記するなど、逐次記載の見直しを行っております。
2 また、今年度作成したリーフレットについては、白血病の認定基準を新たに明記するなど、さらなる記載内容の充実を図っているところです。 3 今後とも放射線被ばくによる疾病に関する労災補償の周知に資するよう、必要に応じてリーフレットの記載内容の見直しを行ってまいります。
8.福島第一原発緊急作業従事者の長期健康管理について
要請事項事前回答
(4)3か国原子力施設労働者疫学調査(INWORKS)の結果を尊重し、がん検診の対象を100mSv未満に拡大すること。






1 緊急作業従事者のうち、電離則による緊急作業時における従来の被ばく限度である100mSv を超えて被ばくした労働者については、被ばく線量の増加に伴う健康障害の発生が懸念されることから、通常の電離則に基づく特殊健康診断に加え、「原子力施設等における緊急作業従事者等の健康の保持増進のための指針」(※)に基づき、がん検診等を実施することとしています。
2 要請項目4(2)にもあるとおり、当該調査の結果が報告されていることは認識していますが、100mSv未満の低線量の電離放射線被ばくと、がんの発症との因果関係については、医学的に明らかとはなっていないものと承知しております。
3 以上から、現在のところ、指針の対象者の考え方を見直す状況にあるものとは考えておりません。

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