原発被曝労働者 喜友名さんの過酷な被曝労働
1.全国各地の原発の定検現場で非破壊検査に従事、
最近の原発被曝労働者の中で最も過酷な被曝労働
喜友名さんは各地の加圧水型原発(泊、
伊方、高浜、大飯、敦賀、美浜、玄海)や
六ヶ所再処理施設の定期検査の現場で
非破壊検査に従事した。
それは最近の原発被曝労働者の中で
最も過酷な被曝労働であった。
それを物語る事実を以下に示す。
(1)喜友名さんは6年4ケ月間に累積99.76ミリシーベルトを被曝した(資料1−2)。
(2)被曝限度いっぱいの被曝
・線量限度の5年間100mSvに近い被曝。
・年間20mSvを超える被曝をしていた。(資料1−3)
特に2002年夏から2003年夏にかけて常態化していた。
喜友名末子さんは陳述書の中で、「夫は、時々、被曝しすぎて仕事ができないと言い、沖縄に
帰ってきました。・・・むしろ、沖縄に帰ってくるのは、いつも放射線を浴びすぎて仕事ができな
いときだったという印象です。」と述べている。
・定期検査の1日計画線量1mSvを超えた恐れがある。
(事例:関電大飯 2001年9月18日〜9月20日で3.1mSv)
(3)原発被曝労働者の中でも被曝線量が最も高いグループに入る。
@2001年度から公表されている被曝労働者の累積被曝線量の統計(資料1−4)との照合から
・喜友名さんは2001年度以降の3年間に、8事業所で従事し、52mSv被曝している。
・同期間に放射線被曝労働に従事した労働者88077人のうち、被曝線量が50mSvを超えた
103名の労働者のうちの1人が喜友名さんである。
・また、同期間の関係事業所が8以上の労働者は396人であった。
そのうちで8名の最も線量の高い労働者の中の1人が喜友名さんである。
A日本の原発被曝労働者の疫学調査(第V期)の資料から
調査対象の27万4560人のうち、累積100mSv以上の被曝は5325人である。(資料2−1)
喜友名さんはこの5325人の中に含まれる。
(4)非破壊検査の平均被曝の11〜40倍を被曝
喜友名さんは主として原発の定期検査の現場で非破壊検査に従事した。
その被曝線量は工業分野の非破壊検査従事者に比べて高く、非破壊検査従事者の平均被曝線量
の4〜11倍に達している(資料1−5)。
これは喜友名さんの高線量被曝は原発で働いたことによることを示している。
(5)従事した定期検査は43回
・私たちの調査・分析では、喜友名さんが従事した原子力関連の定期検査は全部で43回にも上る。
・定期検査の被曝は高いといわれているが、喜友名さんは43回の定期検査のうち、37回でそれ
ぞれの定期検査の平均被曝線量よりも高い被曝をしている。11倍という事例もある
・喜友名さんの被曝線量の半分が、被曝線量が高かった10回の定期検査による。(資料1−6)
(6)定期検査開始前から原発に入り被曝労働
・喜友名さんは多くの場合、定期検査の前後から従事を開始していた。(資料1−7)
・2004年8月の美浜3号事故で、下請け労働者が噴出した高温の蒸気を浴び、うち5人が死亡した。
定期検査期間の短縮のために、彼らを含む多数の労働者が運転中の原発で定検の準備をしてい
たのである。
・喜友名さんも、6件の定期検査で、稼働中の原発の放射線管理区域で働いていた。(資料1−8)
資料1−1 喜友名正さんの被曝労働の記録(定期検査の帰属は私たちの調査・分析による)
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資料1−2 喜友名正さんの年度ごとの被曝線量および累計
年 度 | 1997 | 1998 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 累 計 |
被曝線量(mSv) | 6.3 | 13.0 | 11.1 | 17.33 | 17.8 | 18.28 | 15.95 | 99.76 |
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資料1−4 放射線業務従事者の累積線量(2001〜2003年度)
被曝線量区分(mSv) | 全労働者(人) | うち、関係事業所数が 8以上の労働者(人) |
50以下 | 87,974 | 388 |
50を超え60以下 | 103 | 8 |
合 計 | 88,077 | 396 |
平均被曝線量 | 1.6mSv | 15.6mSv |
注1 この期間の喜友名さんの累積被曝線量は52mSv、関係事業所は8ヶ所。
注2 この期間の累積被曝線量が60mSvを超える労働者はいなかった。
資料1−5 非破壊検査従事者と喜友名さんの被曝線量(2001〜2003年度)
年 度 | 2001 | 2002 | 2003 | |
被曝線量 (mSv) |
非破壊検査従事者 | 0.44 | 1.61 | 0.4 |
喜友名さん | 17.80 | 18.28 | 15.95 |
注) 非破壊検査従事者の平均は千代田テクノルK.KのFB News による
資料1−6 喜友名さんの被曝線量が高い定期検査(上位10件)
原発、定検回 | 定検従事者全体の被曝線量(mSv) | 喜友名さんの被曝 | ||
平均 | 最大 | 被曝線量(mSv) | 最大被曝との比較(%) | |
伊方2 第12回 | 0.8 | 8.7 | 4.2 | 48 |
敦賀2 第 9回 | 0.5 | 5.2 | 3.7 | 71 |
伊方2 第13回 | 0.6 | 7.5 | 6.7 | 89 |
高浜4 第11回 | 0.7 | 8.74 | 3.7 | 42 |
美浜3 第18回 | 0.62 | 8.59 | 3.8 | 44 |
泊1 第 9回 | 0.4 | 8.1 | 4.6 | 57 |
敦賀2 第12回 | 0.42 | 6.68 | 4.48 | 67 |
美浜1 第19回 | 1.3 | 13.71 | 8.9 | 65 |
敦賀2 第13回 | 0.66 | 7.69 | 5.55 | 72 |
高浜3 第15回 | 0.97 | 12.05 | 4.0 | 33 |
注) この10件からの被曝線量は49.63mSvで、喜友名さんの総被曝線量99.76mSvの半分を占める。
資料1−7 定期検査開始日を基準とした、喜友名さんの被曝労働従事開始日と被曝線量(定期検査単位)
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資料1−8 喜友名さんが、定期検査開始以前に、稼働中の原発で被曝労働に従事した事例
原発、定検回 | 定検の開始 | 従事者の被曝線量(mSv) | 喜友名さん | ||
平均 | 最大 | 従事期間 | 被曝線量 | ||
伊方2、第13回 | 1999.01.14 | 0.60 | 7.5 | 1999.01.09〜1999.01.20 | 0.70 |
美浜3、第17回 | 1999.04.21 | 0.54 | 11.96 | 1999.04.19〜1999.05.12 | 1.40 |
大飯4、第6回 | 2000.11.14 | 0.37 | 7.07 | 2000.11.11〜2000.12.27 | 1.70 |
大飯4、第7回 | 2002.03.17 | 0.35 | 4.52 | 2002.03.14〜2002.04.04 | 2.00 |
敦賀2、第12回 | 2002.06.11 | 0.42 | 6.68 | 2002.06.08〜2002.06.24 | 4.48 |
敦賀2、第13回 | 2003.09.05 | 0.66 | 7.69 | 2003.09.02〜2003.09.29 | 5.28 |
2.健康被害を過小評価され、放置されている原発被曝労働者
被曝労働者の労災補償例は極めて少ない
ウラン採掘、原発・再処理等は過酷な被曝労働、多数の被曝労働者を必要としその犠牲の上に成り立っている。
日本の原発で被曝労働に従事した労働者は30万人規模に達するが、その労災補償例は申請・認定数および疾病
の種類が極めて少なく、被害は放置されている。
公表されている日本の原発被曝労働者の総被曝線量は、約3000人・シーベルトである。これによる晩発障害
は、ガン・白血病による死亡に限っても300人と推定される。
厚生労働省は「これを評価する立場にはない。」と被害の深刻さを認めようとしていない。「被曝限度を超えな
い程度の被曝線量では健康への深刻な影響はない。」として離職後の健康管理とそのための健康管理手帳の交付
の必要性を認めようとせず、また、被曝労働者の救済に役立てるために必要な労災申請とその結果に関する基礎
資料の開示も拒否してきた。
2005年に公表された国際がん研究所の報告によれば、20ミリシーベルト以上の被曝グループは有意に全が
んの死亡率が高まっている。被曝労働者は被曝限度以下でも被害を被っている。また、国際的に認められている
原則的な理解では、より低い被ばく線量であっても被害は線量に比例して生じる。
日本の原発被曝労働者の疫学調査資料によれば、調査対象の男性274,560人のうち、20mSv 以上の人数
は、35,031人で、全体の12.8%である(資料2−1)。このことは、健康管理手帳の必要性の大きな
根拠となる。
これまでに確認されている原発・核燃料施設労働者の労災補償申請・認定の状況は、JCO臨界事故による急性
障害3件を含めて、申請18件、認定9件である。(資料2−1)
例えば、イギリスでは原子力施設労働者の補償申請は1986年から25年間に1400件でそのうち114件
が認定されている。
これと比べると、日本の被曝労働者が放置されている事は歴然としている。
JCO事故以外で労災認定された疾病は白血病のみであったが、2004年1月に長尾さんの多発性骨髄腫が白
血病以外で初めて労災認定された。
喜友名さんの悪性リンパ腫を労災認定させることには、第一に、氷山の一角として明るみに出た被害を補償する、
第二に、長尾さんの多発性骨髄腫労災認定とあわせて、日本の原発被曝労働者の労災補償の狭い門をこじ開ける、
という大きな意義がある。
資料2−1 日本の原発被曝労働者の被曝線量
線量(mSv ) | <10 | 10+ | 20+ | 50+ | 100+ |
人数 | 217,572 | 21,957 | 20,644 | 9,062 | 5,325 |
出典:原子力発電施設等放射線業務従事者に係る疫学的調査(第V期、放射線影響協会)
調査対象は、男性274,560人
被曝線量が20mSv以上の労働者は、35,031人で、全体の12.8%
資料2−2 原発・核燃料施設労働者の労災補償申請・認定状況>
申請日 決定日 |
結果 | 疾病名 | 期間 被曝線量 |
労基局・労基署 | 施設名 | 備考 |
75.3.19 75.10.9 |
不支給 | 皮膚炎 | 敦賀 | 原電敦賀 | 配管加工 岩佐嘉寿幸さん |
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82.5.31 | 不支給 | 白血病性悪性リンパ腫 | 松江 | |||
88.9.2 81.12.26 |
支給 | 慢性骨髄性白血病 | 11ヶ月 40mSv |
富岡 | 福島第一 | 配管腐食防止作業 |
92.12.1 94.7.27 |
不支給 | 急性骨髄性白血病 | 神戸西 | |||
92.12.14 94.7.27 |
支給 | 急性骨髄性白血病 | 87.7-92.12 5年5ヶ月 |
神戸西 | 玄界・大飯・高浜 | 定期検査作業 |
93.5.6 94.7.27 |
支給 | 慢性骨髄性白血病 | 81.3〜89.12.8 8年10ヶ月 50.63mSv |
磐田 | 浜岡 |
計測装置点検作業 |
96.5.27 | 不支給 | 再生不良性貧血 | 富岡 | |||
97.5.16 | 不支給 | 慢性骨髄性白血病 | 富岡 | |||
98.12.22 99.7.30 |
支給 | 急性リンパ性白血病 | 87.12〜97.1 約12年 129.8mSv |
日立 | 福島第一、 東海、島根 |
日立市電機メーカー作業員 装置点検従事 人間ドックで発見 |
99.10.20 99.10.26 |
支給 | 急性放射線症 | 1〜4.5Sv | 水戸 |
JCO東海事業所 |
臨界事故被曝 |
99.10.20 99.10.26 |
支給 | 急性放射線症 | 6.0〜10Sv | |||
99.10.20 99.10.26 |
支給 | 急性放射線症 | 16〜20Sv | |||
99.11.20 00.10.24 |
支給 | 急性単球性 白血病 |
88.10〜99.10 約12年 74.9mSv |
富岡 | 福島第一・第二 東海第二 |
配管・架台・構造物等の溶接作業に従事。 自ら受診 |
03.1.31 04.1.19 |
支給 | 多発性骨髄腫 | 77.10〜82.1 4年3ヶ月 70mSv |
富岡 | 福島第一、浜岡 | 濃縮廃液系配管・格納容器内定検作業 |
02.?.? 03.3.12 04.3.26 審査 07.7.4 再審査 |
不支給 同 同 |
肺ガン |
77.12-78.7 2.9 mSv |
東京・亀戸 | 福島第一 | 応力腐食割れの対策の 準備作業 小田原敦彦さん |
05.10. 28 06.9.4 06.10 審査 本省協議 |
不支給 支給 |
悪性リンパ腫 |
97.9-04.1 6 年4 ヶ月 99.76mSv |
大阪・淀川 | 泊、伊方、美浜、 高浜、大飯、 敦賀、玄界、 六カ所再処理 |
定期検査時の非破壊検査 喜友名正さん 支援者の指摘を認め、本省で検討 5回の検討会を経て認定(08.10) |
06.2.15 ?.?.? |
不支給 |
急性リンパ性白血病 | 福島・富岡 | 放射線管理業務等に従事 | ||
06.?.? ?.?.? |
不支給 |
急性リンパ性白血病 | 福島・富岡 |
電気計装関係の検査・点検工事等に従事 |
注)この表は、双葉地方原発反対同盟の「脱原発情報」bT2号掲載の表に追加して作成したものです。