緊急時被ばく限度引上げ 急ピッチで検討を進める厚労省
第3回目で早くも提示された報告書骨子案
12月26日以来、厚労省の「東電福島第一原発作業員の長期健康管理等に関する検討会」で緊急時被ばく従事者の長期健康管理、緊急時の被ばく線量管理、通常被ばく限度を超えた者の中長期的な線量管理などの検討が急ピッチで進められています。
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5 緊急作業従事期間中の被ばく線量管理のあり方
(1) 福島第一原発事故時の緊急被ばく限度設定及び適用の経緯
ア 原子力緊急事態宣言があった後に、労働者の健康リスクと、周辺住民の生命・財産を守る利益を比較衡量し、特別な緊急被ばく限度として 250mSv を電離則の特例省令で規定した。
イ 制定当時は同原発内の全ての緊急作業を対象としたが、被ばく線量の低減を踏まえ、段階的に適用作業を限定(平成 23 年 11 月1日)した上で、原子炉の安定性が確保された段階(ステップ2の完了時(平成 23 年 12 月 16 日))で特例省令は廃止された。
(2) ICRP の正当化原則を踏まえた緊急被ばく限度の考え方
ア 100mSv というのは従来、緊急被ばく限度として採用されていた限度であり、通常被ばく限度5年 100mSv との関係も考えると、これを超える緊急被ばく線量限度を設定するためには、その線量を受けてまで緊急作業を行わなければならないことを正当化する理由が必要である。
イ 国際基準で規定されている 100mSv を超える緊急被ばく限度が適用される緊急作業の内容を踏まえると、緊急作業における一般作業者(救急救命士、医師、警察、消防といった専門職種以外)に最も的確に当てはまるものは、「破滅的な状況」の回避である。
ウ 被ばく限度が 100mSv を超える緊急作業に従事する者は、「破滅的な状況」を回避するために必要な知識や技能を有する者に限定されるべきである。
エ 原子力発電所での「破滅的な状況」の判断基準としては、原子力災害発生時の危機管理を定めた原子力災害特別措置法で定めがある。(資料6)
オ 福島第一原発事故対応では、放射線の急性障害が発生するおそれのない上限値として、250mSv が特例の緊急被ばく限度として採用された。同事故での経験を踏まえると、250mSv を超える限度を設定してまで行う必要のある緊急作業は想定されない。
(3) ICRP の最適化原則を踏まえた緊急被ばく限度の考え方
ア 事業者に対して、事故の状況に応じ、労働者の被ばく線量を可能な限り低減することを求めるべきである。
イ 事業者に対して、定期的に、緊急作業従事者の被ばく線量分布等を報告することを求めるべきである。
ウ 被ばく線量の最適化の観点から、作業の進捗状況、作業員の被ばく線量の推移等に応じて、行政において、適用作業の限定(ある時点以降の入場者の適用除外を含む。)や、線量限度の段階的な引き下げを速やかに行うことが必要である。
エ 原子力緊急事態宣言の解除前であっても、原子炉の安定性が確保された時点(福島第一原発時のステップ2の完了時を想定)で、速やかに 100mSv を超える緊急被ばく限度を廃止する必要がある。
その他の報告書骨子案の重大な問題点
(1)指針に基づく健診の対象者に変更の必要はない。
厚労省は、福島第一原発緊急作業従事者で50ミリシーベルト超被ばくした従事者に「長期健康管理の手帳」を交付し、事業者に健康管理を義務付け、離職後は国が健康診断費用を補助している。
我々は緊急作業従事者全体に拡大すべきと要求してきたが、厚労省はそれを拒否する姿勢を打ち出した。
(2)生涯線量1Svを採用
福島原発事故の緊急時被ばくが通常作業の基準を超えた労働者の通常被ばくに対しては、緊急時被ばくを含め生涯線量1シーベルトを超えないように中長期管理するとしている。
しかし、JCO臨界事故以外は、日本の被ばく労働者が生涯1シーベルトもの大量被ばくをしたことは、未だかってない。
(3)通常被ばく基準を超えた福島原発事故緊急作業従事者に対してとられている「通常被ばく業務就業制限措置」について未言及
東電や原発関連企業とその意向を代弁する経産省は、福島原発事故当初から「熟練作業者が不足する」として、「制限措置」に反対し、厚労省に圧力をかけ、その撤廃を求めてきた。
今回の見直しの中で、「制限措置」撤廃の声が一段と強まることが考えられる。国際的な圧力も高まっている。
緊急時大量被ばく後の通常被ばくによる更なる大量被ばくの強要を許してはならない。