福島原発事故の緊急時被ばく限度引上げ
労働政策審議会の労働安全衛生部会(2011年4月13日)の議事録抜粋
○高崎計画課長・・・この引上げに至るまでの検討プロセスとしては、改正の概要にあります。1つには、ICRP(国際放射線防護委員会)という、放射線に関する国際的な権威ある委員会の1990年の勧告において、今回の福島原発のような「重大事故時においては、事故の制御あるいは即時かつ緊急な救済作業における被ばくについては、約500ミリシーベルトを超えないようにすべき」という国際的な基準の考え方が示されておりました。それに加えて、被ばく限度引上げに当たっては、当然、健康障害等を引き起こすことがあってはならないわけです。その点について確認を取ったところ、右のほうにありますとおり、放射線被ばく線量が250ミリシーベルト以下においては、急性期の臨床症状が出るという明らかな知見は認められませんでした。
○高橋(信)委員・・・すでにICRPから、500ミリシーベルトまでは許容内だという勧告があったものを、100ミリシーベルトにしていたということですが、それを今度はさらに250ミリシーベルトということで、出た数字が半分です。それはどういう根拠でされたのですか。見方によっては、もうちょっと広げてもいいのではないかという感触もあるわけです。そういう論拠的なものを、ご存じでしたら教えていただきたいと思います。・・・
○高崎計画課長・・・それで、1990年の500ミリシーベルトの勧告もどうするかについても、放射線審議会で議論をされたわけです。その結論は、我が国では緊急作業については従来どおり、100ミリシーベルトで継続するというご判断だったわけです。
私どもとしてもそれを踏まえて、電離則は100ミリシーベルトという形で実施してきました。これを今般、こういう緊急作業時の対応の必要性の中で、250ミリシーベルトに引き上げたわけです。この250ミリシーベルトという考え方については、250ミリシーベルト以下では急性期の臨床症状は出ない、他方、それを超えてしまいますと、例えば白血球が急激に減少するという症状が出るということで、いわば250ミリシーベルトが分水嶺と言いますか、境界線という形になっていたのです。緊急作業ということで、今回の引上げの数字としては250ミリシーベルトという形で判断したものですし、その考え方は放射線審議会のほうに正式に諮問していただき、専門家のご意見をいただいて妥当であるという見解をいただいています。
2011年6月21日政府交渉の厚労省回答
3月15日に緊急時作業の上限が250ミリシーベルトに引き上げられたことについて
「それによって250ミリを超える労働者さえも出ている。このような状況を生み出している基準を撤回せよ。」と迫りました。
厚労省回答
労働者保護の観点からは逆行する形であったことは間違いない。福島原発の現状からやむを得ないが最小限にとどめるべきであると考えている。
ICRP2007勧告に基づいて500に上げるとかいう話になりかねない。それを一番危惧している。
緊急時作業は、官邸・省庁のせめぎあいはあるが、一義的には厚生労働省が判断することである。
3カ月を過ぎているのできっちりと区切りをつけたいと考えている。
緊急作業従事者の通常原発被ばく労働については年50ミリシーベルトの上限を取り払ったことについて
「50ミリシーベルト以上が1600人にもなり他の原発に支障が出るというのが理由だと聞くが、多くの原発が停止状態にあり、根拠はない。」と撤回を求めました。
厚労省回答
現状を踏まえて本当に人間が足りないのかという検証は必要で、足りているということが数字の上で明らかになればすぐさま撤回すべき話である。
労働政策審議会の労働安全衛生部会(2011年9月30日)の議事録抜粋
犬飼委員
・・・意見ですが、当分科会で震災直後において放射線審議会の妥当という答申のもとに、100ミリシーベルトから250ミリシーベルトへ引き上げましたね。私も当分科会に出ていて、緊急的で事後報告で仕方がなかったということはありましたけれども、その一翼を担っているというか、関係した者として非常に忸怩たる思いがあるわけです。なぜ250ミリシーベルトに上げなければならなかったのか。それは緊急避難的で止むなしであり、事後報告ですから致し方ないですけれども、細川前厚労大臣も8月30日の閣議決定後の記者会見で、被ばく線量の上限については被ばく線量の状況を確認、関係省庁と調整した上で、この秋には一定の結論を出さねばならない、とご発言になっています。とすると、いまの報道を見ると、私は切迫感というか緊迫感というか、工程表の第2ステップに入っているわけですから、報道を信用して見る限り、水素爆発も含めてそんなに切迫感がないと思っているわけです。とすれば、できるだけ早期に震災前の100ミリシーベルトというところに落とすべきだと強く思っていますので、そのことをできるだけ早く、そういう措置がとられるよう、これは厚労省単独ではできないことですし対外的なことがありますけれども、厚労省としては是非、労働者を守る立場で、そのような対処をお願いしたいということです。
市川委員
・・・原子力行政は経産省、文科省、厚労省と分かれていて、先ほど犬飼委員も言われた100ミリシーベルトを250ミリシーベルトにしたというのも、放射線審議会という別の場です。その審議会に労働安全衛生の専門家がいなかったことも、連合としては残念に思っているところがありますので、その体制も含めて命と健康を守るのは厚生労働省の使命だと思いますから、本来、厚生労働省がきちんと、そういうことは全部まとめてやっていただきたいぐらいの思いです。以前の審議会でも申し上げたと思いますが、今後に備えてきちんと検証を検討していただきたいという要望です。