ICRP90年勧告と国内取り入れの際の放射線審議会「具申」
ICRP1990年勧告 抜粋
6.3.2 緊急時における職業被ばくの制限
(224)事故に直接伴う職業被ばくは、プラントの設計とその防護上の特徴および緊急時手順の用意によってのみ制限することができる。理想的には,平常状態において許される範囲内に線量を抑えることを目標とすべきであるが、このことは通常は可能であるとはいえ,重大な事故時には常にそうであるとは限らないかもしれない。
(225)事故に直接起因する被ばくに加えて,緊急時の間と救済措置時における緊急チームの被ばくがあろう。重大な事故においてさえも、これらの被ばくは作業管理により制限することができる。受ける線量は平常の状祝におけるよりも高くなりそうであり、これは平常の線量とは区別して取り扱われるべきである。緊急チームが高い被ばくをするような緊急事態はめったにないので、重大事故時においては、防護の長期的なレベルを下げることなく、平常状況に対する管理をいくらか緩めることが許される。この緩和において,事故の制御と即時かつ繁急の救済作業における被ばくは、線量評価によって制限することがめったにできない人命救助を例外として、約0.5Svを超える実効線量とならないようにすべきである。皮膚の等価線量は、この場合も人命救助を除き,約5Svを超えることは許されるべきでない。緊急事態がいったん制御されたならば、救済作業における被ばくは、行為に伴う職業被ばくの一部として扱われるべきである。
ICRP1990年勧告(Pub.60)の 国内制度等への取り入れについて(意見具申)
平成10年6月
放射線審議会
Ⅸ.緊急時被ばく
1.1990年勧告の基本的考え方
(1)事故に直接伴う職業被ばくは、理想的には、平常状態において許される範囲内に線量を抑えることを目標とすべきであるが、重大な事故時には常にそうできるとは限らないかもしれないとしている。(224)
(2)緊急時の被ばくとしては、事故に直接起因する被ばくに加えて、緊急時の間と救済措置時の緊急チームの被ばくがあるとしている。また、緊急時の線量は、平常の線量とは区別して取り扱われるべきであるとしている。(225)
(3)重大事故時においては、事故の制御と即時かつ緊急の救済作業における被ばくは、人命救助を例外として、約0.5Svを超える実効線量とならないようにすべきであるとしている。また、皮膚の等価線量については、約5Svを超えることは許されるべきではないとしている。(225)
(4)緊急事態がいったん制御されたならば、救済作業における被ばくは、行為に伴う職業被ばくの一部として扱われるべきであるとしている。(225)
(5)1990年勧告では、1977年勧告の「計画特別被ばく」という考え方は無くなるとともに、「年限度の2倍を超えたならば医学的検討の対象とすべき」という表現もなくなっている。
2.現行
(1)放射線施設または放射性輸送物の火災時の措置、放射性同位元素による汚染の広がりの防止及び除去等を緊急作業として例示し、これらの緊急作業を行う場合には線量当量をできる限り少なくすることとした上で、男子の放射線業務従事者に限って、緊急作業に係る線量当量限度を、実効線量当量について100mSvとしている。これは、それまでの緊急作業における被ばくの特例であった12remを、1977年勧告で「医学的検討の対象」として示された「年限度の2倍」に相当する100mSvに改訂したものである。
(2)1986年7月の放射線審議会の意見具申においては、「人命救助等であってやむを得ない場合に年限度の2倍を超えて被ばくすることもあり得ると考えられるが、この問題は、なお慎重な検討を要する課題である。」とした。
3.取入れに当たっての基本的考え方
(1)1990年勧告では、全就労期間に受ける総実効線量が約1Svを超えないようなレベルに線量限度を定めるべきであるとの考え方を採用しており(162)、約0.5Svという緊急時の限度は一度にその半分を占めることから、緊急時以外の、その後の通常の被ばくの制限にも影響を与えることが考えられる。
(2)IAEA基本安全基準(BSS)においては、緊急時の介入を実施する作業者の防護として、1年間の最大の線量限度の2倍以下に保つよう努力を払うべきとし、人命救助の場合には、1年間の最大の線量限度の10倍以下となるように努力を払うべきとしている。また、急性の放射線影響に関する医学的検討についても、実効線量が100mSv程度以下であれば特段考慮する必要はないとしている。
(3)これらのことから、現行法令の実効線量当量で100mSvという緊急作業に係る線量の限度は敢えて変更する必要はないものと考える。
緊急時作業において眼の水晶体または皮膚の等価線量が制限因子になることも考えられることから、これらについても緊急時の限度を規定すべきであり、眼の水晶体については300mSv、皮膚については1Svとすることが適当である。
ただし、放射性物質の大量の放出が生ずるかまたはそのおそれのあるような重大な事故の場合、人命救助等であってやむを得ない場合については、上記の線量の限度を適用することは適当でない場合もあり得る。この場合においては、BSS、1990年勧告を参考にした上で、線量をできる限り少なくする努力が必要である。
(4)妊娠している場合及び妊娠しているかもしれない場合は、その者を緊急時作業に係る線量の限度を適用する作業には就かせないこととすべきである。