厚労省、「膀胱がん、喉頭がん、肺がんの労災補償の考え方」を公表

労災補償の対象疾病に追加させ、認定線量基準を100ミリシーベルトから大幅に引き下げさせよう
厚労省は2015年1月28日、労災申請のあった膀胱・喉頭・肺のガンについての業務上外の検討における医学的知見を公表し、これら三つのガンに対する「当面の労災補償の考え方」を示しました。
なお、胃がん、食道がん、結腸がんの労災申請はいずれも業務外とされました。
厚労省HP 膀胱がん・喉頭がん・肺がんと放射線被ばくに関する医学的知見を公表します

<検討会報告書の概要>
放射線被ばくによるがんについては、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が行った医学文献の部位別レビューをまとめた「2006年報告書」と、2006年以降の医学文献を中心にレビューを行った。
1 被ばく線量と膀胱がん・喉頭がん・肺がんの発症リスクとの関係
(1)膀胱がん・喉頭がん・肺がんに関するUNSCEARの報告や個別の文献で、各々のがんの発症・死亡が統計的に有意に増加する最小被ばく線量について記載されたものはない。
(2)全固形がんに関して、UNSCEARは、被ばく線量が100から200mSv以上において統計的に有意なリスクの上昇が認められるとしている。また、国際放射線防護委員会(ICRP)は、がんリスクの増加について、疫学的研究方法では100mSvまでの線量範囲でのがんのリスクを直接明らかにすることは困難であるとしている。

2 潜伏期間(放射線被ばくからがん発症までの期間)
  ・UNSCEAR等の知見では、固形がんの潜伏期間は5年から10年としている。
 ・膀胱がんに関する個別の文献では、放射線治療後5年以降で発症リスクに有意な増加が認められるとするものがある。

3 放射線被ば 一般的に、がんの主な発症原因には生活習慣や慢性感染があり、年齢とともに発症リスクが高まるとされているが、各々のがんに関する代表的なリスクファクターは次のとおり。
(1)膀胱がん:喫煙、ベンジジン (2)喉頭がん:喫煙、飲酒 (3)肺がん:喫煙、石綿く以外のリスクファクター

<当面の労災補償の考え方>
1 放射線業務従事者に発症した膀胱がん・喉頭がん・肺がんの労災補償に当たっては、当面、検討会報告書に基づき、以下の3項目を総合的に判断する。
(1)被ばく線量
   膀胱がん・喉頭がん・肺がんは、被ばく線量が100mSv以上から放射線被ばくとがん発症との関連がうかがわれ、被ばく線量の増加とともに、がん発症との関連が強まること。
(2)潜伏期間
   放射線被ばくからがん発症までの期間が、少なくとも5年以上であること。
(3)リスクファクター
   放射線被ばく以外の要因についても考慮する必要があること。

2 判断に当たっては、検討会で個別事案ごとに検討する。
添付資料
膀胱がんと放射線被ばくに関する医学的知見について
喉頭がんと放射線被ばくに関する医学的知見について
肺がんと放射線被ばくに関する医学的知見について
2012年の食道がん、胃がん、結腸がんに続いて、膀胱がん、喉頭がん、肺がんについても労災認定の指針が示されたという点では労災対象疾病を拡大するものとなっています。厚労省にこのことを認めさせ、労規則35条別表の労災補償対象疾病の例示リストに追加させましょう。

厚労省は、被ばく線量が100mSv以上で線量の増加とともにこれら3つのガンの発症との関連が高まるとしています。放射線によるがんの閾値がないことが明らかにされているにもかかわらず、厚労省はこのような指針(基準値)を決定したのです。この認定線量基準値を引き下げ(注)、すべてのガンを労災の対象疾病とするように拡大していく闘いを前進させましょう。
(注:既に100mSvが認定指針の線量基準として運用されている肺がんについても同様です。)
疾病 線量基準
基発810号 白血病 5ミリシーベルト × 従事年数 以上
現在運用されている「指針」 悪性リンパ腫 25ミリシーベルト × 従事年数 以上
多発性骨髄腫 50ミリシーベルト 以上
肺がん 100ミリシーベルト 以上
2012年9月に示された「労災補償の考え方」 食道がん 100ミリシーベルト 以上 被ばく線量の増加とともに、がん発症との関連が強まる
胃がん 100ミリシーベルト 以上
結腸がん 100ミリシーベルト 以上
2015年1月に示された「労災補償の考え方」 膀胱がん 100ミリシーベルト 以上 被ばく線量の増加とともに、がん発症との関連が強まる
喉頭がん 100ミリシーベルト 以上
肺がん 100ミリシーベルト 以上


長尾さんの多発性骨髄腫、喜友名さんの悪性リンパ腫が労災認定され、2010年に労規則別表の例示疾病リストにこの2疾病が追加されました。それまで白血病のみであった労災認定が白血病類縁疾病に広がり、これまでに2疾病合わせて5件が認定されました。これは2疾病の労災認定を全国的な支援で勝ち取った成果です。これを教訓に、さらに今後も労災認定支援の取り組みを強めましょう。

厚労省の放射線被曝の労災補償リーフレットに膀胱がん、喉頭がんを追加させましょう。

厚労省のリーフレット「放射線被ばくによる疾病についての労災保険制度のお知らせ」に膀胱がん、喉頭がんを追加させましょう。
(食道がん、胃がん、結腸がん、肺がんは既に記載されています)
◇リーフレットが直接労働者に手渡るよう方策を講じさせましょう。

疫学調査した約30万人被ばく労働者と家族にリーフレットを送らせ、遺族補償の時効を撤廃して労災申請を受理させましょう

原発被曝労働者の被害の多くは放置され、これまでに労災認定されたのは氷山の一角に過ぎません。
100ミリシーベルトを超える被ばくに限定する不当な労災認定の線量基準であっても、105名の該当する死亡者が存在することが、日本の原子力発電所等の放射線業務従事者疫学調査(2005~2009年度)において確認できます。
  
被ばく線量の区分(mSv) 労災認定の線量基準該当者
(表の太字)
疾 病 10< 10- 20- 50- 100+
食道がん 316 40 47 29 9 9
胃がん 1058 129 126 66 28 28
結腸がん 426 42 39 19 9 9
肺がん 1286 153 180 89 48 48
膀胱がん 78 9 7 5 4 4
喉頭がん 157 13 19 8 4 4
多発性骨髄腫 45 5 4 3 3 3
悪性リンパ腫 125 15 19 8 9 累積線量と従事年数によるため該当者数不明
白血病 84 15 25 8 5

ほとんどが労災認定されず放置されています。
これから申請しようとしても遺族補償の申請の時効5年が壁となります。線量限度を守っていれば安全としてきた厚労省に責任があります。
◇死亡調査を行った全ての被曝労働者と家族に国の責任で労災補償の情報と個人線量を周知させましょう。
◇印刷業務の胆管がん同様、時効の壁を取り払い労災申請を受け付けさせましょう。

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