「長尾さんの原発被曝労災の認定を求める 阪神地域の集い」アピール

 本日、長尾光明さんの地元の阪神地域から「長尾さんの労災を認定せよ」の声をあげ、全国に広めるために、「長尾さんの原発被曝労災の認定を求める 阪神地域の集い」を開催しました。


 長尾さん(大阪市西淀川区在住)は福島第一原発2・3号炉をはじめ、浜岡原発1・2号炉、新型転換炉ふげんなどで配管工事や現場の監督をし、4年3ヶ月間に70ミリシーベルトを被曝しました。離職17年後に多発性骨髄腫を発症し、2003年1月に福島県富岡労基署に労災申請しましたが、「認定基準に明記されていない疾患」として労基署、労基局から厚生労働省への「りん伺」の扱いを受けています。


 申請からすでに半年以上が経過し、高齢と健康破壊の身で不安な日々を過ごしています。厚生労働省はまず、労働者保護の立場に立って、長尾さんの労災申請を一刻も早く業務上と認めるべきです。

 長尾さんの総被曝線量70ミリシーベルトの規模の被曝をしている被曝労働者は、1万人もの規模です。この人々をはじめとする被曝労働者に長尾さんと同じ健康被害がいつ起きるかもしれません。

 長尾さんの多発性骨髄腫は放射線起因性で、原子力施設労働者に多発しています。多発性骨髄腫は白血病類縁性であることから、白血病の認定基準が準用されるべきです。長尾さんの被曝線量(4年3ケ月で70ミリシーベルト)は白血病の認定基準の3倍以上であり、当然労災に認定されなければなりません。現在の認定基準である基発810号(昭和51年)では年5ミリシーベルト(当時の一般人の年被曝限度)を白血病認定基準の相当因果関係としています。認定基準に記載のない多発性骨髄腫をこの白血病認定基準で認定させることは、被曝労働者の労災認定基準を拡大することであり、この意味で、長尾さんの労災認定を勝ち取ることは後に続く白血病以外で苦しむ労働者にとって大きな意義を持っています。

長尾さんは、「原発で多くの労働者が働いている。しかし自分の病気が被曝のせいではないかと訴える人はいない。なぜなのか。多くの人が私の後に続いてほしい。そのためにも勝たなくては。」と語っています。

 原発・核燃料サイクルは日々被曝労働者に放射線を被曝させ、何百人もの原発労働者の「ガン・白血病死」とその何十倍もの労働者の「ぶらぶら病」などの健康破壊をもたらしています。しかし原発労働者についてはこれまでに白血病の5件が労災認定されているにすぎません。アメリカの核・エネルギー産業労働者の場合、補償法が施行された2001年7月末から2年間に4万4千件の補償申請があり、8千件(6億ドル)が補償されています。日本の原発労働者が如何に無権利状態におかれているかを示すものです。

 長尾さんが体調不良を覚えてから、多発性骨髄腫の発症・治療、労災申請に至るまでに少なくとも4つの医療機関を受診し、10年の年月が費やされました。放射線被曝労働は労働安全衛生法の有害業務に含まれていないために、被曝労働者は離職後、まず自費で健康管理をしなければなりません。これらの問題を解決するために、国は放射線被曝労働を有害業務と認め、健康管理手帳を発行し、健康診断経費の補償と放射線障害に対し適切な診断・治療の行える医療機関の充実を行うべきです。また離職後の健康のケアと追跡調査が確実に行えるよう放射線管理手帳等の保存期間を現行の5年から大幅に延長し、永久保存にする必要があります。

 茨城県東海村では臨界事故で被曝した大泉さん夫妻が裁判で争っています。長尾さんの労災申請と共に被曝による健康被害が複数同時に社会的な問題になっているという新たな状況が生じています。日本の原発核燃料サイクルのもたらす健康被害が深刻な事態にあることの警鐘と受け止めなければなりません。長尾さんの労災を認定させることは、原爆被爆者、原発労働者、臨界事故被曝者など、ヒバクシャの共通の闘いです。

 長尾さんは、多発性骨髄腫に冒されてから4年間、労災申請を行ってほしいと病院に依頼し、直接身近な労基署にも訴えましたが取り上げてもらえませんでした。被曝労働者が健康被害を労災として申請することができる体制をきちんと整えてほしいと訴えています。ヒバク問題に関心を持ち取り組んできた市民グループが今回実際にその役割を果たしたことは貴重な経験です。我々は今後も健康被害が闇に葬られることに歯止めをかける役割を果たしていきます。

 長尾さんの労災申請は原発被曝労働者のおかれている状況に人々の目を向けさせます。長尾さんの労災を勝ち取るための運動を契機に、被曝労働者のおかれた劣悪で差別的な労働体制、健康被害の切り捨てなどの実態を明らかにする取り組みを全国の市民団体、被爆者団体、反原発団体、労働組合、個人と共に強めましょう。

2003年9月7日  集い参加者一同