健康被害を過小評価され、放置されている原発被曝労働者

ウラン採掘、原発・再処理等は過酷な被曝労働、多数の被曝労働者を必要としその犠牲の上に成り立っている。日本の原発で被曝労働に従事した労働者は30万人規模に達するが、その労災補償例は申請・認定数および疾病の種類が極めて少なく、被害は放置されている。
被曝限度を超えない程度の被曝線量では健康への深刻な影響はない・・・厚生労働省の基本見解
厚生労働省は「被曝限度を超えない程度の被曝線量では健康への深刻な影響はない。」として離職後の健康管理とそのための健康管理手帳の交付の必要性を認めようしない。
被曝労働者は線量限度以下でも被害を被っている
国際がん研究所の報告(IARC2007年)によれば、白血病を除くすべての癌と被曝線量は統計的に有意な正の相関がある(P=0.02)ことが明らかになっている。従って喜友名さんより低い被曝線量であっても被害は顕在化してくる。このことは、健康管理手帳の必要性の大きな根拠となる。
ガン・白血病による死亡に限っても300人と推定される日本の原発被曝労働者の被害
公表されている日本の原発被曝労働者の総被曝線量は、約3000人・シーベルトである。これによる晩発障害は、ガン・白血病による死亡に限っても300人と推定される。厚生労働省は「これを評価する立場にはない。」と被害の深刻さを認めようとしていない。

線量(mSv ) <10 10+ 20+ 50+ 100+
人数 217,572 21,957 20,644 9,062 5,325
資料2−1 日本の原発被曝労働者の被曝線量

出典:原子力発電施設等放射線業務従事者に係る疫学的調査(第V期、放射線影響協会)
調査対象は、男性274,560人

被曝労働者の労災補償例は極めて少ない
これまでに確認されている原発・核燃料施設労働者の労災補償申請・認定の状況は、JCO臨界事故による急
性障害3件を含めて、申請18件、認定9件である。(資料2−2)
例えば、イギリスでは原子力施設労働者の補償申請は1986年から25年間に1400件でそのうち114
件が認定されている。
これと比べると、日本の被曝労働者が放置されている事は歴然としている。

資料2−2  原発・核燃料施設労働者の労災補償申請・認定状況

申請日
決定日
結果 疾病名 期間
被曝線量
労基局
労基署
施設名 備考
75.3.19
75.10.9
不支給 皮膚炎   敦賀 原電敦賀 配管加工
岩佐嘉寿幸さん
82.5.31 不支給 白血病性悪性リンパ腫   松江    
88.9.2
81.12.26
支給  慢性骨髄性白血病  11ヶ月
40mSv
富岡  福島第一  配管腐食防止作業 
92.12.1
94.7.27
不支給 急性骨髄性白血病   神戸西    
92.12.14
94.7.27
支給  急性骨髄性白血病 87.7-92.12
5年5ヶ月
神戸西  玄界・大飯・高浜 定期検査作業 
93.5.6
94.7.27 
支給  慢性骨髄性白血病 81.3〜89.12.8
8年10ヶ月
50.63mSv
磐田  浜岡
 
計測装置点検作業 
96.5.27 不支給 再生不良性貧血   富岡    
97.5.16 不支給 慢性骨髄性白血病   富岡    
98.12.22
99.7.30 
支給  急性リンパ性白血病  87.12〜97.1
約12年
129.8mSv
日立  福島第一、
東海、島根 
日立市電機メーカー作業員
装置点検従事
人間ドックで発見
99.10.20
99.10.26
支給 急性放射線症 1〜4.5Sv

水戸
 


JCO東海事業所 


臨界事故被曝  
99.10.20
99.10.26
支給 急性放射線症 6.0〜10Sv
99.10.20
99.10.26
支給 急性放射線症 16〜20Sv
99.11.20
00.10.24
 
支給  急性単球性
白血病 
88.10〜99.10
約12年
74.9mSv
富岡  福島第一・第二
東海第二
 
配管・架台・構造物等の溶接作業に従事。
自ら受診

03.1.31
04.1.19 
支給 多発性骨髄腫 77.10〜82.1
4年3ヶ月
70mSv
富岡 福島第一、浜岡 濃縮廃液系配管・格納容器内定検作業
りん伺。本省の検討会3回
02.?.?
03.3.12
04.3.26 審査
07.7.4 再審査

不支給

肺ガン


77.12-78.7

2.9 mSv
東京・亀戸 福島第一 応力腐食割れの対策の
準備作業
小田原敦彦さん

05.10. 28
06.9.4
06.10  審査
06.7 本省協議
08.10.27

不支給


支給
悪性リンパ腫



97.9-04.1
6 年4 ヶ月
99.76mSv

大阪・淀川 泊、伊方、
美浜、高浜、
大飯、敦賀、
玄界、
六カ所再処理
定期検査時の非破壊検査
喜友名正さん
支援者の指摘を認め、本省で検討に。検討会5回。
自ら不支給決定を取り消す
06.2.15
?.?.?

不支給
急性リンパ性白血病
福島・富岡
放射線管理業務等に従事
06.?.?
?.?.?

不支給
急性リンパ性白血病
福島・富岡

電気計装関係の検査・点検工事等に従事

注)この表は、双葉地方原発反対同盟の「脱原発情報」bT2号掲載の表に追加して作成したものです。




長尾さんに続き、喜友名さんも白血病類縁の疾病で労災認定

JCO事故以外で労災認定された疾病は白血病のみであったが、2004年1月に長尾さんの多発性骨髄腫が
白血病以外で初めて労災認定された。

原発被曝労働者の悪性リンパ腫労災認定は、喜友名さんが初めてである。長尾さんの多発性骨髄腫労災認定と
あわせて、日本の原発被曝労働者の労災補償の狭い門をこじ開ける更なる一歩となった。