2023年12月19日、政府交渉10団体は、「医療費等の減免措置」見直し方針の撤回、福島原発事故被害者への「医療費無料化等の健康手帳」交付、増設ALPS汚染水かぶり事故の原因追及、放射能汚染水海洋放出反対で、厚労省・環境省・原子力規制庁・規制委員会との交渉を行いました。
報告1.医療費等の減免措置継続、福島原発事故被害者に国の「健康手帳」交付に関する交渉
医療費等の減免措置継続、福島原発事故被害者に国の「健康手帳」交付を!全国署名1万2808筆初めて提出
今回も政府は誠意のない回答を繰り返し、減免措置見直しの中止、住民説明会開催のいずれも拒否しました。
交渉の直前まで環境省が対応を相談していたという厚労省・生活衛生局総務課・原爆被爆者援護対策室は交渉に出席もせず、後日、「福島原発事故の健康影響に関する対応は、環境省が所管しており、厚労省の所管ではありません。」とのメール回答がありました。
事前の公開質問書で米英仏3カ国の核施設労働者の疫学調査(INWORKS)の論文・資料等を示して、「福島原発事故で放射線被ばくを被り、健康リスクを受けた被害者の健康を保障する政策への転換」を、環境省・厚労省に求めました。
また、リスク・コミュニケーションなどの基礎として使われている、環境省の「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料」(以下「基礎資料」と表記)に記載された、100mSv以下の低線量被ばくの健康影響の過小評価の記載を、最新の国際研究の結果に基づいて改めるように求めました。
「基礎資料は専門家委員会が検討しており、6月、10月の委員会に、私たち市民側の意見も報告して検討した。」との回答に対して検討内容の公表・議事録の公開を求めました。
交渉終了後、署名の一層の拡大が確認されました。
報告2.増設ALPS配管洗浄汚染水かぶり事故と放射能汚染水海洋放出に関する交渉
福島第一原発で10月25日、増設ALPSクロスフローフィルタ出口配管洗浄作業中に仮設ホースが外れ、セシウム137など高放射能濃度の洗浄廃液が数リットル飛散し、協力企業作業員5名が被ばくしました。
この事故について、また、この事故で明らかになった実施計画上の問題に関連した「トリチウム汚染水(ALPS処理水)海洋放出」について、厚生労働省、原子力規制委員会・規制庁との交渉を持ちました。
厚生労働省 一般的回答に終始
厚生労働省は、今回のような被ばく事故を防ぐ観点から、事業場への立ち入り調査や労働者からの聞き取りなどを実施し、原子力規制委員会・規制庁と連携して被ばく防護策の改善や労働安全衛生法違反の処分に当たるべきです。ところが、具体的な動きは事故から2ヶ月ほどの今回の交渉の時点でも、全く見えませんでした。
交渉でも、厚生労働省は、「個別・具体的なことは回答できない」、「法令違反の疑いが認められた場合に労働基準監督署で調査や指導を行う」と一般的回答に終始しました。
原子力規制委員会・規制庁
「定常的なメンテナンス作業に必要な設備の実施計画記載とメンテナンスを考慮した設計」を指導しなかった責任を回避
交渉前日の12月18日に、原子力規制委員会の特定原子力施設監視・評価検討会が開かれ、東京電力と元請企業の東芝エネルギーシステムズによる報告に基づき、事故の発生状況、請負工事体制、工事管理体制と作業員の配置・装備、被ばく線量の評価結果、事故原因の分析と対策が、詳しく報告・検討されました。
原子力規制庁は、同検討会で、「本事案は、『実施計画で定めた品質マネジメントに関する事項(社内マニュアル等含む。)の不履行』に該当し、また『放射線業務従事者の法令に定める限度を超えた被ばく又は身体汚染に至った事象』には該当しないと判断できることから、全体として『影響はあるが軽微なもの』と評価する。」との暫定評価を出しました。
ただし、伴委員は「もっと危険な結果にもなり得た」と警鐘を発しています。
ところが、11月1日の記者会見で記者から「受入タンクも仮設で、年1回3系統で3回、定常的に仮設で行う洗浄作業自体が実施計画に不記載であり、これも違反ではないか」と質問され、山中伸介原子力規制委員長が「常設の洗浄設備を造ったほうがいいのか、仮設で対応したほうがいいのか、特定原子力施設監視・評価検討会の中でも議論していきたい」と答えていたにもかかわらず、全く議論されませんでした。
東京電力は同検討会で「設備面での恒久対策」として、「仮設ホースをタンクと継手で接続し、固縛位置をその近傍とし、仮設ハウスで区画、液位監視を直接監視からレベル計監視へ変更する」とし、恒久対策が整うまでは、モックアップで固縛位置を確定し、対象エリアをハウス区画すると提示していましたが、「仮設のままで良いのか、実施計画に記載しなくて良いのか」は全く議論されませんでした。
原子力規制庁によれば、今回の事故は、実施計画の「Ⅲ 特定原子力施設の保安」で定めている「組織は,プロセス及び組織の変更(累積的な影響が生じうるプロセス及び組織の軽微な変更を含む。)を含む業務の計画の策定及び変更に当たって,その業務・特定原子力施設のための検証,妥当性確認,監視,測定,自主検査等,並びにこれらの合否判定基準」の不履行、および「管理された状態で業務を実施する。」の不履行に該当するとしています。
しかし、定常的に行うメンテナンス作業について、仮設設備による作業で良いかどうかの検討はなされず、実施計画へも不記載のままでした。定常的に行われるALPS配管洗浄作業が仮設設備で実施され、汚染防止・被曝防護措置が「設計、設備」面で考慮されていないこと自体が実施計画違反と言うべきです。それを東京電力に指導するのが原子力規制委員会・規制庁の任務であるはずです。
原子力規制委員会・規制庁は、「東京電力に保安の措置不履行という実施計画違反があった」とするだけで、「定常的なメンテナンス作業に必要な設備の実施計画記載とメンテナンスを考慮した設計」を指導しなかった責任回避に終始しました。
実施計画不記載の移送ライン
これまでのALPS処理水海洋放出問題の追及の中で2013年8月から現在まで、仮設設備で汚染水が2号機タービン建屋へ移送され続けていながら、実施計画不記載の移送ライン=「ウェルポイント汲上げ水をウェルタンクを介して2号機タービン建屋へ移送するライン」があることが判明しています。配管洗浄作業での実施計画不記載と併せて追及の予定でしたが時間切れでできませんでした。
詳しい交渉報告、質問書、議事録は下記からダウンロードしてください。
医療費減免措置等交渉報告 医療費減免措置等質問書 医療費減免措置等交渉議事録
増設ALPS配管洗浄事故交渉報告 増設ALPS配管洗浄事故質問書 増設ALPS配管洗浄事故交渉議事録